厳冬の三伏峠山行記

 〈9月2日〉 猛暑の夏も9月に入ってもまだ暑い日が続く。4日間の縦走。迷わず荒川・赤石岳方面を選ぶが、この暑さに稜線歩き大丈夫だろうか。
 妻に便ヶ島まで送ってもらい、聖岳を目指す。昨年も8月終わりに南岳へ登っている。約1年ぶりの便ヶ島からの聖平への登りだ。大量の汗を流しながら順調に高度を稼ぐ。樹林帯の中の登りも暑い。15時過ぎ聖平小屋へ到着。平日にかかわらず小屋は50人くらいの宿泊者がいた。便ヶ島の駐車場も結構駐車が多かった。素泊まりの自分は冬季小屋へ案内されて、一人だけで広々と使えて、気楽で良かった。新しい聖平小屋へ泊まるのは初めてだ。もちろんこの冬季小屋も。いつも小屋の営業期間外か、テントでしか来ていないため泊まる機会は無かった。初めて冬季小屋へ入ったが、かなり広い小屋だ。

〈コースタイム〉自宅6:30便ヶ島9:26西沢渡10:07薊畑14:48聖平小屋15:15

              聖平
〈9月3日〉 2時前に起床。よく寝られた。3時には小屋を出発。もちろんみんなまだ寝ている。小聖岳に向かう途中、満天の星と残月がきれいだ。小聖岳手前で、山頂からの下山者が来た。この時間に下りてくると言う事は???。聞こうかと思ったが、聞かなかった。
 小聖岳に着くと間もなく東の空が赤くなってきた。快晴の日の出。写真的には少し上空に雲でもあって、赤くなってくれれば最高なのだが…。日が出るまで撮影して聖岳を目指す。山頂がすぐそこに見えていてなかなか着かない。
 聖岳山頂は強風で、ゆっくり休憩もしていられない状態だった。後からぞくぞくと登ってくる人たちも足早に下山していく。茶臼岳方面に滝雲が出て撮影したいが寒い。それでも15分ほど少し食べたり、撮影したりしていた。きりがないし寒いので兎岳を目指す。
 この聖岳から兎岳の間を歩くのは記録を遡ってみると、ちょうど10年ぶりである。南アルプスでもいちばん歩いていない所だ。確かに兎岳から撮影した作品は少ない。というかほとんど無い。それになかなか絵になる場所は少ないかもしれない。もう少し行って、中盛丸山や大沢岳あたりからは結構赤石岳などは良い格好になってきて、絵になるし自分の好きなロケーションも結構ある。
 兎岳と聖岳のコルから兎岳への登りがこたえる。山頂手前、昨年内装をリフォームした兎岳避難小屋。外は変わらずボロボロだが、中はきれいにしてちゃんと泊まれるようになったとの事。実は百間洞山の家で初めて聞いた。知っていれば見ていきたかった。3年前に笠松尾根を下山した時小屋へ立ち寄ったが、もうこの小屋荒れ放題だなと思って、まさか直してくれるとは思ってもいなかった。以前はそのまま泊まるということは雨が降っていなくて、相当神経の太い人でなければいやだろうという小屋だったが。
 兎岳山頂で、先ほど抜いていった人がいて話しをしたら、今日赤石岳山頂避難小屋まで行くという。まだ時間は10時。確かにこれで今日百間洞山の家までだとちょっと早いが、赤石岳山頂避難小屋まで行くにはちょっと長い。微妙な距離なのだ。
 それなら自分も頑張って赤石岳山頂避難小屋まで行こうかと思う。百間洞山の家に泊まった場合、朝晩の撮影が出来ない。以前から赤石岳山頂避難小屋は一度泊まって、朝晩撮影したい小屋ではある。今回ちょうど良い機会だ。しかし百間洞から3時間半だ。この暑さの中最後の登りが心配だ。まあ時間と体力と相談して百間洞に着いた時に決める事にして、それでもちょっと気持ちは赤石岳山頂避難小屋へ。
 その後中盛丸山を登り、大沢岳との分岐から百間洞山の家へ。久しぶりに中盛丸山から見る赤石岳はやはり大きいしかっこいい。いつまででも眺めていたいし、何枚もシャッターを切ってしまう。同じようなアングルのカットがたくさん出来た。
 百間洞山の家へ向かうトラバース道で、まだ花がたくさん咲いてちょっとしたお花畑になっていた。その反対側ではナナカマドの実が真っ赤になって、夏と秋が一緒になったような季節だ。そんな景色をたくさん撮影していたら、百間洞山の家へ着いた頃にはもう赤石岳まで今日中に行く気力は失せていた。
 百間洞山の家管理人は駒ヶ根市在住の藤井さんで、久しぶりの再開にいろいろと話し込む。尾根まで携帯のメールの受信に行って来たら、テント場の近くまで熊が来ていたと困った顔をして話してくれた。ビールをごちそうになり、一人昼からビールで乾杯。まあたまにはいいか。
 夕方小屋から見える聖岳が焼けるのを期待したが、深いガスの中で日は暮れた。

〈コースタイム〉聖平小屋3:06小聖岳4:50〜5:25聖岳(記録なし)兎岳9:27〜9:37中盛丸山
         (記録なし)百間洞山の家13:15


        小聖岳からの日の出

       
       中盛丸山から望む赤石岳
〈9月4日〉 今日は赤石岳を越えて荒川小屋までなので、朝ものんびり出発。ここは本当に大沢岳へ上がっても朝はあまり撮影ポイントが無く、撮影には不向きな場所だが、水が豊富で南アルプスのオアシスのような所だ。昨日聞いた熊の話しを気にしながら百間平への急登を登っていく。
 朝の斜光線で、大沢岳、中盛丸山、兎岳、聖岳が美しい。三脚立ててしばし撮影タイム。更に進んで百間平へ。ここも南アルプスの中では大好きな場所だ。野球が出来るくらいの広大な広い草原。その先には大きな大きな赤石岳。これからこの巨大な山塊に挑むというような心の高まりと同時に今ここに自分がいられる幸福感。いつ来ても感激する素晴らしい所だ。またなかなか来られないのがまた良いのかもしれない。私も3年ぶりだ。
 赤石岳の最後の登りも、まだ朝早くパワーがあるためか順調に上がっていける。昨日頑張ってきていたら、たぶんこの辺でばてていただろう。誰もいない赤石岳山頂ではいつものように正面に大きな富士山が迎えてくれた。快晴のなか裾野にわずかに雲をまとってこれまた美しい。一日ここで富士山を眺めていてもいい。いつかゆっくりそんな時間を持ちたい。
 30分以上いたが誰も来なかった。夏山最盛期を過ぎた南アルプスは本当に静かだ。しかし今年はまだまだ夏山真っ盛りという感じで今日も暑い!
 小赤石岳の稜線も富士山、荒川三山の眺めを独り占めして幸せな稜線漫歩を満喫する。天気が良すぎてあまり撮影するところはないが、その分いつも以上に山々を眺めてのんびり歩く。大聖寺平付近で何組も登山者が上がってきた。どうも時間的に、千枚小屋を朝出発して縦走してくるとこの辺になるようだ。
 3年ぶりの荒川小屋もいつものスタッフが暖かく迎えてくれた。今日も昼からビールで乾杯となる。ここもいちばんお気に入りの小屋だ。古い小屋は解体されて新しい冬季小屋ができあがったばかりだった。トイレも増築されて益々快適な小屋になっていて少々驚いた。また昨年から10月連休まで営業するようになって、一昔前では考えられなかった。南アルプスも変わってきた。
 夕方まで一休みして、日没前秘密の場所へ撮影に行くが、今日も山は濃いガスの中で姿を現してくれなかった。意外とこの夜は宿泊者多く、賑やかな夜だった。

〈コースタイム〉百間洞山の家5:37百間平6:50赤石岳9:22〜9:55小赤石岳10:30〜10:55
          荒川小屋12:25

百間平から望む中盛丸山(左)と大沢岳

       百間平から望む聖岳
〈9月5日〉 最終日今日は下山だ。日の出前荒川岳へ。お花畑付近まで上がって日の出を待つ。きれいな日の出だ。雲海も広がり素晴らしい光景となる。夢中で撮影していた。
 小屋へ戻って朝食。小屋のスタッフと話しがつきないが出発する。今日は広河原へ下山。久しぶりの小渋ルートでちょっと心配。大聖寺平までのんびり撮影しながら行く。荒川岳にガスがかかり始め、シャッターチャンスを待つ。
 今朝4時に出発したという、何人か登山者というか、ランナー?が登ってきた。我々からでは考えられない驚異的なコースタイムだ。まあほとんど荷物は持っていないが。ただ一つだけ心配なのは雨具は持っているのだろうか。
 広河原小屋へは意外と早く着いた。ここで3年前に行方不明になっている元同僚の何か手がかりがないか、ちょっと気になっていた場所へカラ身で偵察に行く。既に3年経過してしまっているが、何か分かればと言う気持ちでずっといたが何もなかった。

 小屋で大休止。腹ごしらえをして、渡渉の身支度をして出発。小渋は6年ぶりだ。小屋で情報は聞いていたが、河原がかなり荒れている。以前はなかったような大きな岩が目に付く。そしていちばん驚いたのは高山の滝周辺の河原が一変してしまっていた。以前は滝へ近づくには藪のような所を行かなければならなかったが、人工的に砂利を敷き詰めたようなつるっとした河原に変わってしまって、滝壺まで簡単に行ける。これには本当に驚いた。まさか誰か重機持ってきて河原整備した訳じゃないだろうし、かなりの鉄砲水か、大量の土石流でこんなに河原が変わってしまったのか。自然の力恐るべしである。
 更にもう一つ、下流に行ってびっくり。渡渉開始の橋から河原に道が造られていて、距離にして1キロくらいだが渡渉しなくてすんだ。これは何でだろうか。何かの工事の準備か。真相ご存じの方お知らせ下さい。
 予定通り湯折に下山。久しぶりの南アルプス南部の縦走。好天に恵まれて収穫の多い山旅となった。

〈コースタイム〉荒川小屋8:08大聖寺平8:55広河原小屋11:53〜12:25湯折15:35

            高山の滝

   ひとこと