厳冬の三伏峠山行記

 〈1月21日〉 3泊4日で小河内岳まで目指す。塩川まで車がはいるかどうか心配だったが、ほとんど雪はなし。あっさり塩川まで入れる。よし、これなら小河内岳も楽勝だな、とちょっと気も緩む?。がこの後長く厳しい登りと、寒さが待っていた。
 水場へ12:06。以前2月に来た時夕方5時までかかってここまでしか登れなかった。早い時間に今日は三伏峠へ着くだろう。が、そろそろ重装備のザックが重くなってきた。なかなかペースが上がらない。
 鳥倉林道からの分岐手前、ぐっと積雪が増えてきた。アイゼンからワカンに変える。その分岐からは更に増える。ペースも更に落ちる。もちろんトレースはなく、時折吹きだまりで膝上まで落ち込んでしまう。そのうち10歩行っては立ち止まり、1、2分休んでしまう。歩いているのと、止まっている時間が同じくらい、いや、止まっている時間の方が長くなってきた。
 今日は曇りで、時折雪が舞う天気。そんなに寒くなく、ずっとTシャツ(長袖)1枚できた。さすがにここまで上がってくると寒い。オーバージャケットを着込む。
 5時前、ようやく三伏峠着。 予想以上に時間がかかった。すぐに冬季小屋の中へテントを張る。すぐに暗くなって寒くなってきた。でも目的地へ着いて、テントへもぐり込んだこの瞬間が大好きだ。

〈コースタイム〉自宅7:10塩川8:48水場12:06鳥倉分岐15:23〜15:36三伏峠16:58

     雪に埋もれた三伏峠小屋
〈1月22日〉 予定通り小河内岳を目指す。かなり冷え込んだ夜だったが、疲れていたのか、少しは眠れた。小屋の外は満天の星だ。
 テントももちろん畳んで、全装備担いでの登りだ。夏ならどうってことないが、この時期全装備担いでの登りはかなり応える。
 烏帽子の登り、そんなに雪は多くないのだが、尾根を直登しても斜面をトラバースしても重いザックになかなか思うように登れない。うまくルートをとっていかないと、腰まで埋もれてしまう。そうなったら今度は脱出するに一苦労だ。
 まもなく日の出となる。この位置からでは全然モルゲンロートに染まる山々を見ることができないが、遠く、大沢岳と中盛丸山がピンクに染まるのが見える。カラ身なら日の出前に烏帽子岳まで登ってしまうのだが、今日は仕方がない。でも目の前の本谷山も少し赤くなってきた。何枚か撮影する。今日はいい天気だ。早く稜線へ上がりたい。
 やっとの思いで、樹林帯を抜けて稜線に出る。いつもここは見事なシュカブラができているところだが、やはり小雪だ。ちょっとだけシュカブラができているだけだ。でも富士山も見えてきて元気が出てくる。しばし撮影タイム。ここから頂上までも良いアングルで烏帽子岳が撮影できる。時折強風がきて雪煙が舞い上がる。風を待ってシャッターをきる。
 烏帽子頂上着。撮影時間も含めてだが、4時間かかった。昼頃小河内岳着けるんじゃないかななんて思っていたが、とんでもない話だ。頂上で塩見岳を何枚か撮影。
 さてここからが大変だった。とにかく風がすごい。山頂で目出帽、ゴーグルを着けるが、容赦なく吹き付ける強風に息もできないくらいだ。それにまっすぐ歩けないくらいの状況だ。踏ん張って歩いていないと飛ばされそうだ。ザックに着けた温度計は−20℃だ。手足の指先が冷たい。手は時折こすって暖められるが足はどうすることもできない。
 烏帽子岳からいったん下って、前小河内岳の登りにかかるが、ここが更にすごい風が吹き荒れている。伊那谷側から吹き上げる風で見事な雪庇ができている。思わずその美しさにカメラを出す。がレンズ交換、フィルム交換が大変だ。その雪屁の上を歩いていくのだが、これがまた難しい。やはりうまくルートをとらないと、腰まではまりこんでしまう。雪屁の下はふわふわのハイマツ帯だ。
 ここまで来てちょっと先行き心配になってきた。この後この強風の中を登って、無事小河内岳まで行けるのだろうか?。もし行けたとして、明日またこんな状況を三伏峠まで戻ってこられるだろうか。時間は12時。充分時間はあるのだが、ちょっと精神的にも参ってきた。無理して行っても余力を残しておかなければ何かあった時に対応できない。ちょっと迷ったが三伏峠へ引き返すことに決めた。雪屁の反対静岡県側へ回り込むと全然風がなくて、燦々と降り注ぐ太陽にぽかぽか陽気でいつまでもここでひなたぼっこしていてもいいくらいなのだが、再び稜線上がれば別世界だ。
 遠く富士山が雲をまとって美しい雄志を見せている。望遠で切りとるが、強風に落ち着いて撮影もできない。
 三伏峠へ戻って、小屋へ帰る前に夕方撮影で三伏山へ登る時のためにトレースをつけておく。が、午後にはあっという間に雲が広がって、夕方には雪が降ってきた。

〈コースタイム〉三伏峠6:18烏帽子岳10:15前小河内岳途中引き返し12:00烏帽子岳12:40三伏峠14:20

    朝の本谷山(奥は甲斐駒ヶ岳)

       烏帽子岳からの富士山

       雪屁が続く前小河内岳稜線
〈1月23日〉 朝4時起床で朝食を済ませる。今朝は日の出前に烏帽子岳へ登りたいが、どうも天気が良くない。厚い雲の中だ。予報では午後から晴れてくるとのこと。仕方がない少し様子を見る。
 それかいっそ今日下山しようかとも考える。が、こういう状況の日(午後から天気回復)は必ず夕方山は焼ける。と信じて1日停滞と決めた。
 しかし寒い。朝小屋の中のテントの中が−15℃。昼間中でコンロを炊いても−10℃までしか上がらない。すべての物が凍りつく。夜寝る時にはplatypusのポリタン、ザックの中へ入れておくのだが、1回横になっていたら、口が凍り付いてしまって、口の凍ったのを取るのに一苦労する。生卵を持っていったが、カチカチに凍って、殻もむけないくらいになって使えなかった。1日中コンロを炊いていたが全然暖かくならない。小屋のノートを隅から隅まで全部読んで、持っていった新聞も読んで、ホリエモン逮捕一色のラジオを聞きながら、寒く孤独な1日を過ごす。
 午後1時過ぎ、まぶしいくらいの青空が広がっている。慌ててカメラと三脚を持って飛び出す。三伏山へ上がる。昨日付けたトレースはすでに昨夜降った雪で消されていた。雲がすごい早さで流れて、塩見岳、小河内岳が輝いて眩しい。山頂はきれいなシュカブラができている。夢中になって小一時間撮影していた。
 いったん小屋へ戻る。夕方再度三伏山へ。見事に焼けてきた。塩見岳、小河内岳真っ赤になっている。寒さも忘れて暗くなるまで撮影していた。満足満足。


            染まる塩見岳
〈1月24日〉 今朝はどうしようか悩んだ。しかし日の出前にもう一度烏帽子岳まで上がる気力はもうなかった。ゆっくり起きて下山する。3挽あまりぐっすり眠ることができなかったが、気が張っているのか、全然眠くない。凍り付く小屋の中撤収、パッキングをして出発。
 あれほど苦労した登りもあっという間だ。尾根取り付け手前、登ってくる人に行き会う。まさか誰も来ないだろうと思っていたので、ちょっとびっくり。でも4日ぶりの人との会話にうれしくなる。しかも向こうから「藤瀬さんですね」と聞いてくるではないか。失礼ながら私は知らない人だ。話し始めてようやくわかった。日本山岳写真協会南信支部のG氏で、私とは4年くらい前にやはり三伏峠の途中で行き会っていて、その時少し話したことがあって、私はもう顔も覚えていなかったのだが、G氏は覚えてくれていた。写真展も何度か見に来てくれていて、大変失礼してしまった。塩川に松本ナンバーの車があったので、この時期藤瀬さんしか来ている人はいないと思った。とのこと。うれしいような複雑な気持ち。しばし談笑。いろいろと話が弾む。やはり小河内岳を目指すとのこと。雪の状況など話して分かれる。しかしG氏もガッツがあるすごい人だ。負けられない。その後も天気が良く傑作を撮られたのでは。
 沢まで下ってくると凍った沢の流れが気になる。もちろん登りでも目にしていったが、登りでは撮影の余裕がなかった。三脚出してしばし撮影タイム。しかし日が当たらない沢、すぐに寒くなってくる。 
 無事塩川の車まで戻って一安心。無事帰ってこられたことに感謝。
 下山後のいつもの入浴の山塩館は臨時休業。その下、塩湯荘も昨日休みで今日はまだ風呂の準備ができていないとのこと。小渋湖温泉へ行くが、ここも今日は風呂は夕方からになります。断られると益々入りたくなる。一路松川清流苑へ。まさかここまで来るとは思わなかったが、最近来ていなかったので、たまには良いか。リニューアルして風呂もきれいに広くなって、なんと言っても行って来た三伏峠周辺の山々が本当によく見える。ここで良かった。いつまでも山を眺めて幸せな気分だった。

〈コースタイム〉三伏峠9:15鳥倉分岐9:37水場10:41〜10:45塩川12:45

     前小河内岳雪壁

   ひとこと