Tarot FILES #3-3


アパートに戻るまでの間ずっと、車の中で考えていた。アパートに戻ってからもまだ悩んでいた。考えてみれば、婆さんはオレの住所も電話番号も、名前さえ知らない。200ドルを払いに戻らなくても、もう婆さんに追い回されることはない。このまま逃げることもできるわけだ。それですべてが解決するならばよかったのだが、そうすることによって、さらにまた厄介な問題が持ち上がる。オレは、「嘘つき」になってしまうのだ。「40分後に戻る」と約束して出てきておきながら、戻らなければそれは「嘘」だ。ようやく金銭欲との葛藤に打ち勝てたかと思えば、こんどは「嘘」という罪を犯すことになるのだ。オレは一人部屋の中を歩き回って悩んだ。

「どうすればいい?どうすればいい?」

そう何度も自分に問いかけてみる。「運命」に問いかけてみる。今、オレはどこへ流れて行けばいいのか?

「誰かにメッセージを求めるべきだ。」

他の占い師を調べて電話して聞いてみようか。電話帳を開いて見るが、もうこんな時間に電話を受け付けている占い師はいない。他には?精神科医、心理学者。。。。だめだ。他に誰も頼れる友達はいないし。。。。そうだ!オレはルー・ハーシーの電話番号を持っているぞ。今通っている学校の先生で、いい年の婆ちゃんだが、オレのことを自分の息子のようにかわいがってくれる。ルーに電話をかけたことなんてないけど、彼女なら頼れるかもしれない。そういえば、彼女の息子の一人はタロット占い師をしてると聞いたこともある。ルーはそのことはあまり話したがらなかったが。。。。

さっそく電話をかけてみたが、話し中でつながらない。運命に見放されたか。でも、8時10分まで待ってみよう。200ドルを持って帰る約束の時間は8時20分までだが、少しくらい遅れるのはかまわないだろう。もっとも、彼らは200ドルのためなら何時間でも待つだろうが。。。。

独り暮らしのルーはきっと長電話だろう。10分まで待って、かからなかったらあきらめよう。そう思ってかけてみると、運良くつながった。

「May I speak to Lou?」

独り暮らしだとは分かっていても、別の人だったら困るから一応聞いてみた。

「イェ〜ス。ハウアーユー、A(アポロ)。」

ルーだ。初めて電話するのにすぐオレだと分かったらしい。

「ルー!聞きたいことがあるんですけど、構いませんか?ちょっと困ったことになっちゃいまして。」

オレは事の成り行きを簡単に説明した。

「No Way!私も何年か前に同じことがあってね。ベニスビーチの占い師なんだけど、まったく同じ手口よ。それからは二度と占い師の所なんて行ってないけどね。A(アポロ)、絶対に200ドルなんて払ってはだめよ。考えてもみなさい。ろうそく1本いくらで買えますか?ろうそくにマッチで火を付けて、それを置いて自分で祈りなさい。教会ならその辺にいくつかあるでしょ。祈るのはただです。重ねて言いますけど、200ドルも払ってはいけませんよ。」

ルーにそう言われてなぜだかよく分からないが安心した。占い師は人を不安にさせるが、ルーの言葉は人を安心させた。人を救うということはこういうことなのだ。人が本当に求めているのはルーのような言葉なのだろう。人を救うとはどんなことなのか、あらためて考えさせられた。運命がどこへオレを導こうとしていたのか今になって良く分かったような気がする。

オレは200ドルを払うために戻らなかった。とりあえずこの件は解決だ。翌日はテストだっていうのに余計なことに時間を費やしてしまったが、もともとテスト勉強なんてする気にはなれなかったし、そこそこいい経験になった。またそのうち何人かの占い師を訪れてみるつもりだ。占い師武者修業の開始である。


「はやく私の運勢占ってよ。」

マリコさんにせかされ、オレは再びカードを切り出す。

「もう、大変だったんだから。昨日、カギ全部落としちゃったのよ。この前はお金盗まれるし、ボーイフレンドにはふられるし、風邪は治おんないし。。。。。」

やれやれ、悪運に取り巻かれてるのはマリコさんだよ。毎度おさわがせな人だ。

「悪運を取り除きましょうか?300ドルで!」


アポロのタロット占い