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あいつの話をしよう あいつはいつも優しく微笑んでいる 包み込む夜の様に黒い瞳で あの時、始めて逢ったその時もそうだった 「人間ってどうしようも無くダメな生き物だな」 白い世界 白く淡い光が満ちた聖なる世界 その世界の中心にある泉 清らかな水が絶え間なく湧き出ている泉の畔に若者は座る 黄金の髪、青く力強い瞳 背中には純白の翼 純白の翼を時折小さく羽ばたかせながら、青い瞳で泉の水の様々な景色を見つめる 次々に倒されていく大木 倒れていく動物たち コンピュータに囲まれた部屋 瓦礫の中に銃を片手に佇む人 人々の虚ろな瞳 その映る景色を見つめながらため息混じりに呟いた 「・・・なんで、こんな奴らを見守る必要があるんだよ」 泉の水に映るモノは地上に住む人間達 様々に移り変わる景色の中で若者は一点を見つめる 街の中を楽しそうにはしゃぎながら歩く人々 泉から見える人間の風景にはいつもよりも沢山のイリュミネーション 「ったく、人間達はこの時期にだけ熱心になりやがって」 泉の中から、人間達の楽しそうな賛美歌が聞こえてくる 「神様はいつでもそばにいるのに」 黄金の髪を鬱陶しそうに掻き上げ、青い瞳は不機嫌そうに泉の水を見つめ続ける 掻き上げた髪が金色の光が飛び散る様にキラキラと輝いた 「お前は人間は嫌い?」 その突然の言葉に若者は振り返る その姿に若者は立ち上がり息をのむ 淡く輝く黄金の髪。全てを包み込む海の様な深い蒼の瞳 そして、光り輝く純白の翼 全てを包み込む様な優しい微笑み 「一度、人間の世界を同じ目線で見てごらん。きっと映る世界は違って見えるから」 若者にゆっくりと近づき、意味ありげな笑みを浮かべる ----- トンッ 天使は若者の肩を軽く押した 「え? っうわっ!!」 若者はバランスを崩し、泉の中へ体を落とす 数枚の羽を残し、引き込まれるように水の中へ沈んでいく そして、突然、周りの景色が変わり、人間が住む世界のはるか上空に若者は姿を現した 輝ける天使は、泉の水を聖なる青い瞳で見つめる 泉の水には人間が住む世界へ堕ち、必死に此方へ手を伸ばす若者の姿があった 輝ける天使はその姿を見つめながら、優しく、そして、少し子供っぽく微笑む 「行ってらっしゃい。自分の目で全てを感じておいで」 ガタンッ!! 「いてぇっ、、、」 若者は忌々しげに天を仰ぐ 口からは白い吐息が漏れる 今にも雪が降り出しそうな白く曇が空を覆っている 「くそっ、これじゃまるで・・・」 「・・・堕天使なの?」 「違うっ!! ・・・?」 その言葉に若者は振り向いた 青い瞳に映った者は長い黒髪に黒い瞳 そして、、、 「・・・お前」 黒髪の若者は白い空を見上げた 空からは天使の羽のような白い雪が舞い降り始める 「まるで貴方の後を追いかけてきたみたいだ」 黒髪の若者はにっこりと微笑む 「ここは寒いね。部屋で紅茶でも飲まない?」 今まで出会った事が無かった 白い世界と黒い世界 光と闇 純白の翼と暗闇の翼 オレ達とは鏡の様な存在 外の景色が見える大きなガラス張りの部屋 椅子に体を傾けながら紅茶をカップに注ぐ黒髪の若者を見つめる 「お前、何故こんな所にいるんだ?」 あいつは黒い瞳を優しく細めながら、紅茶を差し出した 「この時期になると、僕にも貴方達と会う事ができるんだね」 あいつは嬉しそうに微笑みながら、紅茶を口に運ぶ 「・・・僕は、人間が大好きなんだ」 「・・・? そんな理由でここにいるのか?」 「いつも泉の畔で人間達を見ていた。色々に輝く人間達を」 あいつは少し白く曇った窓から外を見つめる 黒い瞳には白い雪と色とりどりのイリュミネーションが映る 「時には輝きを失う事もあるけど、、、でも、また輝き出す。僕が住んでいた世界よりも鮮やかに。 ある時、ある方が僕に言われたんだ。 「人間の世界を同じ目線で見ておいで。・・・きっと、世界はもっと色鮮やかに輝いている」。 だから僕は堕りてきた。いろんな人間をここから見てきたけど、やっぱり人間は大好きだ」 その言葉を聞きながら、オレは大きくため息をつく 「オレも同じ様な事を言われて突き堕とされた。・・・あいつ、不適に笑いやがって」 「でも、その方のお陰で僕たちは出会えた。僕は感謝するよ」 「・・・っ」 オレはその言葉に微笑んだ きっと、天の泉でオレ達の行動を見ている奴らがいる でも、悪くない気分だ きっと、白と黒のオレ達が出会ったみたいに人間の世界はいろんな色で出来ている それからオレは沢山の人間達を見つめた 相変わらずどうしようも無い人間達ばかりだけど、時には光り輝く宝石の様な人間を見つける オレはこの時期になるとあいつに会いに行く あいつの包み込む夜の様な優しさは、冷たい雪の夜もオレを安心させる 紅茶を片手に黒い瞳で嬉しそうに微笑みながら 今日も賛美歌をBGMに聴きながら 色とりどりのイリュミネーションを背に、二人は紅茶を飲んでいる |