|
白い靄が辺りを包む。
真っ白な空からは、絹糸のような雨。
途切れることがなく、静かに降り続いている。
「・・・また雨だ・・・今日もここで立ち往生・・・3日目だよ」
伏見はため息混じりに降り続く雨をガラス越しに見つめる。
雨は途切れる事もなく、シトシトと降り続いている。
「仕方ありません。無理してこの先の森を越える訳にはいかないですから」
綺羅も伏見の隣に立ち、外の景色を見つめた。
目の前には靄にかすむ深い森が広がっている。
「・・・退屈だ。なんでこういう時に黒栖がこないんだ?」
伏見のその言葉に綺羅は紫色の瞳を細めた。
「彼は今頃、螺夜がいるどこかの世界に姿を現しているのかもしれないですね」
「・・・そっか」
綺羅は元気のない伏見を見つめ、緑が広がる窓の外を見つめた。
「こんな天気の日はある物語を思い出します」
「・・・? どんな話?」
「太陽の神と雨の女神の物語。神々が住んでいた遠い時代の恋物語です」
「・・・太陽の神と雨の女神?」
綺羅は窓の外に降り続く静かな雨の見つめながら、ゆっくりと話し始めた。
「遠い昔、まだ神々が地上を支配していた頃、沢山の神々が地上を自由に行き交っていました・・・。
その神々の中に太陽を司る神がいました。太陽の神は司る太陽の様に力強く輝き、美しく整った顔立ちは
多くの女神達の視線を捕らえて離しませんでした。
平和な神々の世界、永遠に続くと思われた平穏な時。
そんなある日。太陽の神は沢山の女神達の視線から逃れ、静かな森の奥深くにある泉へ出かけました。
そこは、太陽の神が以前に見つけ、誰にも秘密にしていたとても静かな秘密の場所でした。
しかし、太陽の神がその場所へ到着したとき、一人の女神に会いました。
女神は泉に素足を入れて、楽しそうに水と戯れています。
女神の周りには太陽の光を浴びてキラキラと輝く雫。
輝く雫を司る女神、雨の女神です。
美しい雨の女神と太陽の神は一目見た時からお互いに強く惹かれ、恋に落ちていったのです。
しかし、本来二人は出会うことのない存在。
太陽が輝くとき、雨は姿を消し、雨が大地を濡らすとき、太陽は姿を隠す。
二人の事を知った全能の神は太陽の神と雨の女神を二度と会えないようにしてしまいました。
雲を司る神を監視役に。
その日から、太陽の神と雨の女神は厚い雲に阻まれて逢うことが出来なくなってしまったのです。
太陽の神は厚い雲を取り除こうと灼熱の熱線を雲に向けて注ぎますが、雲は厚みを増すばかり。
雨の女神は深い哀しみに毎日のように涙を流しました。
監視役の雲の神は二人の神を不憫に思い、全能の神には秘密に雲に小さな亀裂をつくりました。
そこから太陽の神は雨の女神を捜し、二人は巡り会うことが出来ました。
それから二人は雲の神がこっそりと作った隙間を通り、本当に短い間だけ合うことが出来るようになりました。
二人の神が合えたときには空には太陽の神が通った光の帯が出来るようになったのです。
それが、七色の光の帯」
そこまで真剣に耳を傾けていた伏見が嬉しそうににっこりと微笑む。
「虹だね」
伏見の言葉に綺羅は優しく微笑む。
その瞬間、雨が降り続いていた窓から光の筋が部屋の中へ入る。
伏見はガラス越しに窓の外を見つめた。
そして、何かを見つける。
「あ、綺羅っ、虹だ・・・虹が出来ている!」
その言葉に綺羅も外を見つめた。
伏見は窓ガラスをゆっくりと開く。
外は空気が澄み、雨に濡れた森の木々も太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
その森の先から七色の輝きを放っている。
綺羅はその美しい虹を見つめながら、ゆっくりと呟いた。
「太陽の神と雨の女神、彼らはきっと今でも出会えているのでしょう」
|