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名もない風が鳴く丘に風がサラサラと通りすぎる
それは昔々
全ての種族が争いもなく平和に暮らし、神々の息吹を近くで感じる事が出来た時代
ある種族の貴族の女とある種族の貴族の男が恋に落ちる
しかし、その恋は実らぬ恋
けして、実ってはならぬ恋であった
二人が人目を避けて逢う場所は名もない風が鳴く丘
ある日男が言う
「私達の事を知らない土地へ旅立とう」
女は嬉しそうに頷く
しかし約束の日、約束の地に女は来ることがなかった
女は出発の時、父親に見つかり家の地下深くに幽閉されていた
女の頬には途切れることがなく涙が伝う
それを知ることが無い男は女を信じて幾日も待ち続けた
幾日か過ぎ去ったある日、貴族の女は突然風が鳴く丘に現れる
男は力の無い腕を伸ばし女に触れようとするが届く事もなく
女は光に溶ける様に空へ消えていった
そして、風が鳴く丘で
貴族の男も女の微かな声を聞くと後を追うように風の中へ溶けるように消えていった
貴族の女と男を
ある人は風が鳴く丘を流れる風になったと言い
また、ある人は風が鳴く丘にポツリと咲く一対の真白な小さな花になったと言う
それから、、、
風が鳴く丘は強く想いを寄せる人々の声が空耳の様に風に乗って聞こえてくると言われ
いつの間にか空耳の丘と呼ばれるようになったという
風が丘の上を通りすぎる
「こんな小さな丘にそんな伝説があったなんて知らなかった」
伏見は風になびく黄金の髪を掻き上げながら呟いた。
遠くの方から風が通り過ぎる音が聞こえる。
「遠くに行ってしまった者達の声も聞くことは出来るのかな・・・」
伏見は遠くを見つめながら寂しそうに小さく呟いた。
そして、蒼い瞳をゆっくりと閉じる。
通り過ぎる風の音はサラサラと聞こえ、それは誰かの囁き声にも聞こえる。
-・・・伏見-
-伏見・・・王子-
-・・・ご機嫌いかがですか?-
-王子様・・・今日も・・天気が良いですね-
-・・・王・・子様-
-・・・伏見様-
優しい笑い声が聞こえる。
伏見は風に消えそうな小さな声で呟く。
「・・・みんな」
伏見の耳にはディル・ウォーグの人々の優しい声が聞こえてくる。
「・・・伏見」
突然の声に伏見は蒼い大きな瞳を開いた。
「行きましょう・・・伏見」
瞳に紫色の優しい瞳が映る。
「あぁ」
伏見はそう呟くと、ゆっくりと歩き出した。
空耳の丘
今日も風に紛れ誰かの囁き声が聞こえる。
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