【投  稿】
ヘンリーリニアの防音対策

(※注:ヘンリー2K・3K・5Kとも共通で、以下文中「ヘンリー」と表示)

de JA0CRG  岡沢 賢朗

1.はじめに

 かつて、関東のある局のシャックを視察させていただいた折、外国製リニアのFBな防音対策を見学することができました。対策なしではお互いの会話もままならない状態が、驚いたことに対策後はKENWOODのTL-922レベルまで静かになるのにはビックリしました。
 私のシャックには、正式に1kwの検査に合格した2系列のセットがあります。CW用の「FT-1000+TL-922」と、SSB用の「IC-775DX+ヘンリー」です。なぜわざわざ2系列を用意しているのかというと、もちろんいざという時の緊急対策もあるのですが、ヘンリーは、いかんせん騒音がひどくて長時間運用には、あまりにもうるさ過ぎるからです。特にCW運用でのヘンリーはトランスが唸り、まるでドラムをたたいているように「ドンドコドンドコ」というノイズを撒き散らします。
 以前ハムジャーナルでもヘンリーの防音対策が紹介されたことがありましたが、効果が疑問であったことや、本体をバラバラにするのが面倒で実現に至りませんでしたが、思い切って実行に移しました。期待通りに効果が出れば、「10db」のノイズレベルダウンが可能なはずです。

 

2.用意する材料

 1.人工芝(裏面ラバー、毛足5mmの高級タイプ)
 2.ゴムシート(厚さ5mm、幅5cm)
 3.ゴムシート(厚さ1mm、幅1cm)
 4.接着剤(透明:ゴム系)
 5.接着剤(透明:普通タイプ・人工芝のほつれ防止用)


 ヘンリーは、電源部がガッチリした鉄製フレーム枠構造である以外、ほとんどブリキ板で囲ってあるような作りのため、必然的に「囲い=筐体」部分がブルブルと振動して、ノイズを発生させています。施工に当たり、一般的に住宅の防音材として使用されているものと、ハムジャーナルで紹介された人工芝とを、マジックテープで仮止めし、中にラジカセを入れて実験しましたが、住宅用は防音効果はありましたが厚過ぎて工作が大変ですし、振動を抑える効果が期待できません。一方裏面にゴムシートが付着している人工芝は防音では劣りますが、振動対策でFBな結果が得られました。人工芝の裏面のゴムシートが振動を押さえるのと、5mm厚の“芝”の毛足部分が様々な耳障りな高音をカットしてダブル効果が期待できそうなので、採用しました。また、トランス部分が振動して、これが筐体全体に共鳴することから、トランス関係は全て5mm厚のゴムシートを挟みこみ、振動を吸収しました。さらに、ケースと電源部などが重なる部分には、1mmのゴムシートで振動対策を施しました。

3.工作開始、本体を4分割する

 まず本体を4分割します。ヘンリーは、ネジだけで、簡単に4つに分割できます。ただし、使用しているネジの数は相当な数になるので、名前を付けてきちんと分類して保管しないと、ごちゃごちゃになってしまいます。

4.RFデッキ収納部分の作業

 この部分は、冷却用のファンの振動が、ケースと共鳴しますので、人工芝で内貼りします。ファンも1mm厚のゴムシートを挟んで、振動が直接伝わらないようにします。
5.ケース(筐体)の作業

 このケースは、大きさに比べて実に薄っぺらな素材でできています。本体が100kg近くもあるリニアですから、もっとどっしりした素材で作ってあればいいのですが、まるっきりのブリキ板です。このケースが振動の共鳴箱となって、ノイズ源となっています。隙間にすべて人工芝を貼り付けます。直接高熱にさらされる心配がないので、あらゆる場所にまんべんなく施行します。また、電源部との重なり部分には1mm厚のゴムシートを挟みこんであります。
6.電源部の作業

 トランスも振動源となります。5mm厚のゴムシートを挟みこみます。高圧トランスだけでなく、チョークトランスなど震動源となりそうな部品の下には、すべて施工します。電源部はゴムシートのみで、人工芝の施工箇所はありません。この部分だけで本体重量の90%を占めますので、重くて取り扱いがたいへんですが、写真のように大型のキャスターを取り付けておくと、とても作業が楽です。
(キャスター取り付けについての詳細は、“月刊ファイブナイン”1992年1月号p54参照)
7.天板の作業

 最後に、天板に人工芝を貼り付けます。ファンからの吹出し口部分以外に全て施工します。防音効果が大きい箇所ではありますが、ヘンリーの機種によって異なりますので、熱風がかからないか、十分注意して施工します。
(加工が終わった天板を立てて横から見たところ)
8.施工結果と留意点

 施工が終わり、全てを元通りに組み立てた後、防音効果に期待をしながらスイッチON!結果は、これが今までのヘンリーかと疑いたくなるほど本当に静かな運用ができるようになりました。最後に、是非知っておいて欲しい施工上の留意点をまとめてみました。
高圧でのスパークが想定されるので、今回使用した人工芝にライターで火を付けて試験してみましたが、チリチリと小さくなるだけで難燃性に勝れていることが実証できました。しかし、経年変化については、室内使用では問題ないものの、過酷なリニア内部でどのような影響が出るのかは分かりません。
人工芝は必要な大きさにカットすると、切れ端からぼろぼろと“芝”がほつれます。精密な機械の内部にごみくずが落ちると思いがけないトラブルの原因となりますので、ほつれた切り口部分を接着剤で補強しておく必要があります。
9.終わりに

 今回の防音対策で、ヘンリーを徹底的に解体することになりました。その結果、機械的な構造について熟知できたほかに、ネジ穴がずれていたり、バリLが壁面に並行でなく取り付けられているなど、噂では聞いていた「外国製の荒削りな造り」を実感することができました。あちらの人々は基本性能を発揮すれば「見栄え」は気にしないのです。この点が日本製とは全く違います。
 また、ヘンリーの防音対策では、工作上の説明として「4分割」と表記しましたが、もっと大きく区分けすると「RF部」と「電源部」に2分割して考えることができます。
 この原理に沿って対策をさらに前進させると、シャックには操作が必要な「RF部」のみ置いて、室内にベンチャーパドルのキーイング音だけが“カチカチ”と心地良く響く「Quiet Shack」を実現できるのではないかと、次なる対策に思いをはせています。