我が家が他人の物、川島に帰る
中谷の我が家は、姑の弟さんの叔父の家でありました。舅の借金のため、この家が抵当に入っていたのでした。知る由もありませんでした。叔父は疎開者でしたので、我が家の世話をうけていたためにそれも言い出せず、舅の急死にあいうやむやになっていたようです。そこに鳥が飛び立つように私達が家を空けたのです。その時には叔父は亡くなられた後でした。叔母は健在でいましたから、捨てて行くなら帰してくれと言ってきたのです。主人は聞いてないと言い張るのですが、定かではありません。直接叔母にあって話した方が良いと思い、叔母さんに会って私の気持ちを聞いてもらい、お願いをしました。他人の家とも知らず、命を捨てるつもりで嫁いで来たこと、今思えばだまされて来たのもいいところでした。じっと聞いた叔母さんは、分かったこの家はあんたに上げると言ってくれました。私の子供たちは、叔母さんから一筆もらわなかったのかと言いましたけれど貰いませんでした。小姑達から脅されることもないのにと、案じたのか知れません。ある程度の蓄えも出来、今が潮時と感じて惜しまれながら退社いたしました。主人は子供の近くに、家を借りて留まりたいみたいでしたが、色々の障害があって思いどおりにならないので、嫌がる主人をなだめて帰ってきました。一旦捨てた故郷に帰る気持ちは、男として、如何ばかりかと察することはありました。