アポロのタロット占い

> FILES > Folder #1 >

Tarot FILES #4

悪魔を連れた女


占い師をしていると、不思議な体験や奇妙な出会いが次々とめぐってくる。

例えば、こんな話があった。

ウエストLAのソーテルという名の通りは日系のお店が集まっている。リトル東京ほどではないが、日本人の多く集まる場所である。私はこのソーテルにある某古本屋に、時々足を運んだ。ある日私はそこで本を一冊買うついでにキャッシャーの女性に名刺を一枚渡しながら占いの宣伝をした。このようなやり方はたいていあまり相手にされないものだが、彼女は意外にも、私の名刺を見て驚くと同時に興味を示した。なぜなら、私が来るほんの数分前に、彼女は仕事場の仲間に自分の悩みについて相談していたのだが、その悩みを解決してくれる占い師がどこかにいないものだろうかというようなことを話していたそうだ。そんな話をしていたすぐ後に、私がまるでランプから呼び出された魔人のごとく出現したので彼女は驚いたのである。

運命の巡り合わせというものはうまくできているものらしく、ちょうどその時間、彼女は1時間の休憩に入る直前だった。その休憩時間を利用して今すぐ占ってほしいというので私はその依頼を引き受けることにした。この近くにどこか感じのいいカフェはないかと彼女に聞くと、ソーテルとサンタモニカブルバードが交差する辺りにあるブラジリアンカフェに案内してくれた。ウェイトレスに頼んでテーブルのキャンドルに火をつけてもらい、コーヒーを頼むと、さっそく彼女の相談を聞いてみた。しかし、彼女の話は悩みの相談というよりは愚痴を打ち明けているといってもいいほどのたわいのないものであった。仕事がきついとか、生活が苦しいとか、結婚できるでしょうかとかそんな感じのことである。私も、とりあえずカードをめくってはみたが、そこに出てきたカードの意味をうまくつかめないまま1時間がたってしまった。

その日の夜のことである。彼女から電話があり、延々2時間以上も彼女の話を聞かされた。昼間言えなかった彼女が本当に言いたかったことを、すべて話してくれたのである。その話がどんなものだったのか、ここに詳細を書くほどのスペースがないのが残念であるが、その話がこの私に耐え難いほどの恐怖を感じさせたのは確かである。

1月17日という日をご存知であろうか。ただの偶然ではあるが、この日、阪神大震災が起き、1年前の同じ日にロサンゼルスでも大地震が起きている。余談ではあるが、私は阪神大震災の当日現地であの地震を体験している。そして、その3ヶ月後にはロスに出発していた。30年近く前のことになるだろうが、この1月17日という日に彼女は生まれている。だが、それだけではなかった。実は、彼女の父親は2度目の結婚後に彼女を生んでいるのだが、その前の奥さんは妊娠して10ヶ月ほど、つまり、子供が産まれる直前におなかの子供といっしょに亡くなってしまったらしい。その日もまた1月17日であったという。私には、彼女がこれまでに巡り合ってきた忌まわしい出来事の数々の原因がそこにあるように思えてならない。彼女の背後に、誕生前の混沌と秩序の境に立たされた野生の魂が見えたような気がしたのである。

★


© 1997 アポロのタロット占い


★