アポロのタロット占い

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Tarot FILES #27

乗車した高速バスが当たり屋に?

1999-05-08


友人との約束で東京に出かけることになった。数日前に高速バスの予約を取って準備をした。ふだんはメールによるやりとりだけで、めったに会わない友人なので、待ち合わせ場所などに間違いがないよう、前もって何度も確認しておいた。

インターネットで東京地方の天気予報を見ると晴れだった。

新宿のバスが着く場所で待ち合わせということにしておいたのだが、もし見つけることができなかったらこちらの PHS に電話してもらうように頼んでおいた。

「もし何かあったらこちらからも電話をかけます。電話番号は 03-****-**** でいいですか。」

友人は PHS や携帯電話を持っていないので自宅の電話番号を確認しておいた。「もし何かあったら」などと言っても、もちろんその時は「何もないだろうけど」と軽い気持ちだったのだ。まさかこの電話番号に電話をかけるなどということは思ってもいなかった。

予約したのは土曜日の 11 時 20 分のバス。東京には一泊する予定だったので無理に早い便を選ぶことはしなかった。いつも通りに目を覚まし、朝食を食べてから家を出た。

予約したバスは予定通りにバスターミナルに到着し、予定通りに出発した。座席はすべて予約席。週末なのでほぼ満席なのだが、幸い隣には誰もおらず、ゆったり座ることができた。久しぶりの遠出になる。窓際に座って景色を眺めて行くことにした。あとは終点の新宿までこうして景色を眺めていれば、何事もなく 3 時間 10 分後には友人に会えるはずだった。

ところが、バスが高速に入って少したったところで、突然バスの走行がおかしくなった。

揺れている?

エンスト?(まさか)

運転手が居眠り?

飲酒運転?

発作?

最初はただスピードを落とすためにブレーキを踏んだのかと思ったのだが、バス停でもない高速道路の途中で、まるでエンジンの調子がおかしくなったかのようにガクンガクンと激しく何度も揺れながら、しばらく走った。それとも運転手が居眠りでもしたのだろうか。プロの運転手にもそういうことはあるのかもしれないなどと一瞬納得して、それなら目を覚まして、ちゃんと運転してくれと思ったのだが、なぜかそのままバスは路上に止まってしまった。バスの前の方を見ると、民間車から男の人が飛び出してくるところだった。

どうやらバスと民間車が接触したということらしい。バスが揺れたのは運転手が止まろうか走ろうかと迷ったためか、例の民間車に走行を妨げられたからだろう。運転手はバスを降り、飛び出してきた相手の男のところへ向かった。

まったく予想もしなかった事態に驚いてしまったが、何より、こんなところで足止めを食らっては友人との約束の時間に間に合わない。立ち上がって乗客を見渡すと、みんなきょとんとした顔で成り行きを見守っている。誰一人として動き出そうとする気配はない。しょせん他人事なんだろうが、こっちはとんだ迷惑なのだ。じっとしているわけにもいかず、ちょっと様子を見に行ってみようかと思っているうちに、前を見ると運転手に民間人の男が殴り掛かろうとしているところだった。あわててバスを飛び出し、男をうしろから抱きかかえて引き離した。意外にもするりと引き離すことができた。まるで引き離されることを待っていたかのようだ。

男はそれでも興奮がおさまらず、上着を脱ぎ捨て、再び運転手に飛び掛かろうとした。その時男のティーシャツの袖のはしに、みごとなイレズミがのぞいた。極道さんでした。

『これは、やっかいなことに手を出してしまった・・・』

アポロにつられて他の乗客もやっと出てきて、みんなで2人の間に入ったので、状況はやや穏かになったのだが、イレズミの男は、思い出したかのように、うしろで小さくなっていたアポロを振りかえり、こぶしを振り上げた。

「おい、おまえ! 誰にさわっとんじゃぁ〜! え〜? 誰にさわっとんじゃぁ!」

胸をどつかれたが、思ったより軽いので痛くも何ともなかった。運転手とのもみ合いを引き離した時もそうだったが、案外、この男は気が弱いのかもしれないと感じた。

『こっちは約束があるんだ。』

そう言いかけてやめた。そんな事情を言っても通じるわけもない。おもわずいつもの皮肉めいた言葉が飛び出しそうになったが、これ以上問題を複雑にしたくなかったし、相手が極道さんでは後のことも恐かったので、ぐっとこらえて、何も言わなかった。ただ、何も言わなかったものの、つい、そこで男をにらみつけてしまったのはやばかったかもしれない。「そっちが極道なら、こっちは占い師だ」という意気込みがあったのだが、良く考えたら、占い師だからなんなのだという感じである。

無言でにらみつけられて、男は一瞬とまどった様子だった。何も言わなくても、長髪で日本人ばなれしたアポロの顔には、ちょっぴりびびったのかもしれない。

「誰にさわっとんじゃ〜!」

なぜか、男はその言葉を何度も繰り返すばかりだった。それしか言えんのか……。きっと、アポロの眼光が恐くて(?)動揺したに違いない。

ひと段落ついたので、男の目を盗んで、さっさとバスの中に逃げ込んだ。これ以上面倒なことに巻き込まれるのはごめんである。とりあえず、友人に電話しておかなければならないだろう。

「もしもし、アポロです。ちょっと事故で遅れるかもしれません。」

「あそう、じゃあ、30 分とか、1 時間ですぐ走り出すよね。」

友人は軽く受け答えして、あっさり電話を切った。高速道路での事故はよくあることという意味だろうか。まさか、その事故にあったのが、アポロの乗っているバスだったなんて思いもしなかったんだろうなぁ。詳しい話は新宿で話すことにしよう。

やがて警察で事情聴取などがあり、その間にバスの代車が来て、乗り換えることになった。ほぼ、1時間遅れでバスは新宿に向かって出発した。その後は渋滞もなく、無事に友人に会うことができた。

ここしばらくおとなしく田舎で隠遁生活を送っていたアポロだが、たまに動いたかと思うとこのありさま。どこに行ってもトラブルの絶えない楽しい人生である。

さて、それにしても、あのバスの運転手はどうなったのだろう。バス会社を首になるならまだしも、極道さんにいじめられてないことを祈る。

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