Tarot FILES #95

もう、何年も前の話です。私はとある男性の寮に招かれ、彼の部屋の中で占いをすることになりました。どうしても、その部屋の中で、直接占ってほしいというのです。

そこは10人部屋で、もちろん男性だけが暮らしています。それほど広いわけでもない部屋の中に10人も一緒にいるのは、さすがにきつそうです。彼の質問は、以下のようなものでした。

[質問内容]

この部屋の中にもうひとりいるのは誰？

[コメント]

今朝、眠れずに天井を見ていたら、誰かが私のほうを見ているのです。この部屋の中には、私たち10人の他に、もうひとりいるのです。だけど、私にはまだわかりません。その人は誰なのでしょう？　赤ちゃんの泣き声が聞こえたような気がしたのですが。

つまり、彼にはもうひとり見えるというのです。この部屋に住んでいる10人の他に、11人目の誰かが、今もそこにいるといいます。もちろん、私のことではありません。どうやら、彼が見ているのは幽霊のようで、この部屋にいる他の９人には何も見えていないようです。霊感が強いことは彼自身も自覚しており、昔から当然のように霊を見ていたといいます。

かといって、私には霊感があるわけでもなく、今もそこにいるという11人目の住人の姿も見えません。ただ、そのころちょうど研究していた霊感占い的なタロット占いを試すにはちょうどよい機会でした。

私は、その場で呪文のように、11人目の住人に向かって話しかけました。

１枚目には「XXI 世界」が出ました。中央に霊的な存在が女性の姿で描かれています。その周りに輪があり、カードの四隅に４人の天使が描かれています。この中央の女性があなたですね。あなたは、女性の霊なのでしょうか。

２枚目には「棒の４」が出ました。先の４人の天使を連想させる４本の棒が立てられており、その向こうに男女が花束を持った手を振る姿が見えます。あなたは、彼の横にいる女性で、その彼に会いにきたのですね。あなたは、彼の恋人か奥さんだったのでしょう。

３枚目には「剣の２」が出ました。２本の剣を胸の前でクロスしているあなたの姿が見えます。背後には霊界が見えます。あなたは、彼に別れを告げに来たのでしょうか。目隠しや、座ったままの姿は、あなたがこちらの世界に戻れないことを示しているようです。

占い結果は以上でした。その霊は女性らしいというところまではわかるのですが、結局、それ以上のことははっきりしませんでした。ただ、今回の依頼人である男性は、過去に３回離婚しており、そのうちのひとりの霊魂が、何らかの目的で彼のところにやってきたのではないかと考えられます。この後、別件として、この男性の結婚について相談されたのですが、つまり彼は４度目の結婚を考えているわけで、「XXI 世界」の周囲の４人の天使や、「棒の４」の４本の棒などは、この４度目の結婚を暗示しているかのようでもあります。もしかしたら、この彼女の霊は、彼自身の過去への未練や後ろめたさが原因で呼び出されたものではないかと、そんな風に考えることもできます。そう考えると、この女性の霊は、特定の人物に関わるものではなく、彼の心の中にある元型的なイメージ（archetype）が生み出した幻覚である可能性もあります。赤ちゃんの鳴き声が聞こえたのは、将来結婚して子供を作りたいという彼の潜在的な願望だったのかもしれません。

いずれにしても、このような形で彼自身が抱えている問題に向き合う機会を持つことができたわけで、そこでいろいろ考えたことが、彼自身の未来に、より良い結果となって表れてくるのだと思います。

霊感的な事柄を占うのは、私自身に霊感がないからこそ、先入観なしにタロットカードの示す結果を正しく受け止めることができるのではないかと思います。むしろ、霊感のような占い師自身の能力はタロット占いにおいては障害にすらなりかねません。霊感に頼ってばかりいると、今回のように、相談者が心理的な問題を抱えているような場合に、そのことを見抜けなくなってしまいます。

相談者が「霊が見える」と言うのであれば、そのことを否定する必要はありません。その事実を認めた上で、占い師もまた、カードの上に何が見えるかという事実を、そのまま相談者に伝えればよいのです。カードは、霊的なことも、そうでないことも、全てにおいて、相談者にとって必要なメッセージを正確に示してくれているはずですから。