Tarot FILES #2-3


 「親と会ったよ。」

 ハッサに会って話した。

 「本当に! ほらね、とうとう説得に負けた。イモチャだって考えを変えることはできるんだに。それで、ちゃんと話はできた?」

 「ゆっくり話してきたわけやないけど、はっきりと言ってきた。『アメリカへ行く。オレのことは忘れてくれ。オレのやりたいようにやらせてくれ』ってね。それで十分やろ。他に言う事なんてない。ところで、同級会のほうはできそう?」

 オレがアメリカへ行く前に同級会をやっておこうと、ハッサやタナカと話していたのだ。4月1日に除隊。2日の朝、故郷へやって来て、その日の夜、小学校時代の友人たちを集めて同級会を開いた。懐かしい友人たちと再会し、心行くまで語り合った。

 こんな話があった。

 「タカシ、オレの負けだ。ちょうど10年前になるぞ。ケンカして、それがもとでオレは陸上を始めたんだ。いつかマラソンの選手になって有名になってやるってね。今まで10年間ずっと、いつかおまえを見返してやるつもりで走りつづけてきたけど、けっきょく何もできなかった。10年が限界だ。オレはもう引退したよ。どっちみち、アメリカへ行くために陸上は続けられへんけどな。」

 10年前のケンカ以来1度も話したことがなかったタカシとも、ようやく話せるようになった。

 「やっぱりまだ走りつづけていたんだ。イモチャは走ってなきゃイモチャじゃないもんな。」

 「ああ、昨日、自衛隊を追い出された後、暇やったから大阪で『フォレスト・ガンプ』を見てねぇ。あんまりにもオレがやってきたことと似ていたから、今までのこといろいろと思い出しちゃって、何度も泣きそうになっちまった。」

 「エー!! イモチャが泣く? ばか言っちゃいけない。」

 オレが泣くなんて、誰も信じなかった。オレは血も涙もない冷血な子供だったんだ。男らしいとか、たくましいとか、そんな言い方もできる。でもそれは、外見のたくましさで心の未熟さを隠そうとしていたからだ。

 オレたちは会話を楽しんでいたが、ハッサだけは、幹事として気をつかっていたせいか、あまり楽しそうに見えなかった。会話にもあまり加わろうとしなかった。確かに、昔からあまり人に合わせようとする性格じゃなかったが、今のハッサは実際に不機嫌だった。

 予定の時間を過ぎても会話はなかなか終わらなかったが、ハッサはとうとうしびれを切らせて、一人で片づけを始めてしまった。オレはすぐに手伝ったが、他には誰も手伝うものがいなかった。みんな気にせず会話を続けている。そんな態度に、ハッサはますます気分を損ねたようだった。

 会場を変え、ハッサの仕事場の事務所を借りて二次会をとなった。

 時間も遅くなってくると、一人、また一人と帰ってゆく。彼らが帰る前にオレは、必ず固く握手をしてから見送った。「さようなら。『また、いつか』じゃない。これが最後、『永遠にさようなら』だ。」と言って別れた。

 ハッサは二次会になってからはずっと、隣の部屋で寝ていた。「今夜はうちに泊まっていってくれ」って言われていたけど、ハッサはそうとう疲れているみたいだったから、その夜はタナカの家に泊めてもらうことにした。眠ったままのハッサを一人置いて、オレたちは同級会をお開きにした。


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