片づけも済み、少し飲みながら話し始めた。今夜は徹夜で話をすることになってしまった。徹夜などしたことがないと言うと、それなら今夜初めて徹夜に挑戦だなどと言う。どうしても話がしたいらしい。確かに、今夜を逃せばもう二度と話す機会は巡ってこないだろう。明日には東京へ行き、8日には成田から発つ予定なのだ。
いろんな話をしながら機をうかがっていたが、ふと思い出す。タナカの家に泊まったときに、本棚を見ると古事記があったので読んでみた。といっても、マンガで描かれたわかりやすい本だった。少し読んで妙なことに気が付いた。最初の神、イザナギとイザナミ。漢字で書くと「伊ザ那ギ」と「伊ザ那ミ」となる。この2人の同じ部分を取って引っ付けると「伊那」となるのだが、これはまさしく、オレたちの育った故郷の名である。この発見をハッサに話すと、実はハッサも前から同じことに気が付いていたのだと言う。さらに、この伊那をはじめ、古事記に由来する地名が長野県内にはいたるところに存在するのだそうだ。そもそもこの長野県の旧地名「信州」の名も「神州」に由来し、深く神々の世界、古事記に関わっているのだという。やはり思った通り、ハッサはこの話題に強そうだった。このあたりから少しずつ、神道への話へと進めていくことにした。
ところが、その神の話を始めたとたんに、オレは全身に寒気を感じた。すぐ治まればよかったのだが、ゾクゾクとした感覚が止まらなくなってしまった。ハッサは「よくあることだ」と言って布団を貸してくれたが、布団にもぐってもますます体は冷えていった。足の先は氷のように冷たくなっている。
「よくあることだって? 冗談じゃない!」
この異常な感覚に、さすがにオレも神霊に取り憑かれてしまったのかと思った。今までオレには霊感など絶対にないと信じていたが、この時ばかりは「もしや?」と不安になった。どうやらこの話題は危険のようだとオレたちは悟り、話題を変えることにした。そうすると、しばらくして寒気は治まったが、オレたちの周囲には異様な雰囲気が漂い始めていた。
ハッサは密教の加持祈祷を学んだことがあると言って、目の前で実演してくれた。それに対して、オレはタロットカードを取り出して占いをしてみせる。
「V 法皇」
「VI Lovers」
「XIII Death」
オレはとうとう切り出すことにした。