「魔詩<マガウタ>よ、安らぎと眠りへ誘え・・・スリープ!」
綺羅が紡いだ魔法は彩羽に届く。
そして、小さな声を上げると、彩羽は崩れるように深い眠りへと落ちて行った。
彩羽が眠りについたと同時に辺りには太陽が再び優しい光が差し始め、
凍りついた木々を、泉をゆっくりと溶かしていく。
木々からこぼれる水滴は光に反射し、宝石のように輝いて見えた。

「私は本当に人間では無かったのですね」

目を覚ました彩羽はうつむきながら哀しく呟く。
「・・・貴方は、異なる世界・・・水の精霊達が住まう西方のゲートをくぐり、
この世界へ現れたのでは無いかと思います・・・本当の事は定かではありませんが・・・」
「・・・私はその世界へ戻されるの?」
伊里座は優しく答える。
「いいえ、貴方の自由です」
伊里座は金と淡い青の瞳を細め微笑む。
「私は、ある人物から貴方にメッセージを承ってきました・・・見ていただけますか?」
彩羽は少し戸惑いながらもゆっくりと頷いた。
伊里座はその姿を見つめていたが、小さく聞こえない程の言葉を呟く。
その瞬間、伊里座の隣に一人の老人が浮かび上がった。
「・・・占術師の塔の長、珂士斗<カシト>ですか?」
綺羅は老人の姿を見つめ呟いた。
珂士斗は優しく笑みを浮かべながらゆっくりと話し始めた。
「・・・異界の住人・・・まだ見ぬ継承者。私の力を・・・受け継ぐ者よ・・・法の塔へ参られよ。
私の力の全てを・・・貴方へ託す・・・全ては法の塔へ」
珂士斗はその言葉を呟くと、空気へ溶けるように消えていった。

「・・・私が法の塔へ・・・?」

彩羽は右手を口にあてる。
「・・・行っても・・・良いの?」
その言葉に伊里座は優しく微笑んだ。

「もちろんです」


ツギヘ



ヤメル