「伊里座、何か聞こえませんか?」
サスイ村へ向かう途中、ルノール山脈の山沿いを歩いていた綺羅の足が止まる。
「・・・・」
伊里座も動かしていた足を止めた。
その長く延びた耳に女性の悲鳴が聞こえる。
「綺羅、林の茂みの中から聞こえます」
伊里座は悲鳴が聞こえた方角に走り出した。

草や木々が茂る中を枝を掻き分け進と、そこには大木を背に怯えて立ちすくむ女性が目に飛び込んできた。
そして、彼女の視線の先には、
「・・・狼の群」
十匹ほどの狼が女性を囲み、中には牙をむき出しに威嚇している。
女性の足下には蔦でできたカゴと沢山の果実が転がっている。
「伊里座、彼女をお願いします」
綺羅はそう呟くと、狼から姿が見える場所へ歩み出た。
狼達は突然現れた綺羅に標的を変え、うなり声を上げる。
「炎の結晶よ、集まりて玉<ギョク>と成せ」
狼は綺羅に向かって飛びかかった。
「ファイヤ・ボール!」
綺羅のかざした右手から無数の燃えさかるボールが生まれ、狼に襲いかかる。
女性の周りにも炎のボールが落ちて行くが、いつの間にか伊里座がかけていた
耐魔法防御の保護幕カウンター・マジックに守られ、女性の元に届く事は無かった。
狼たちは襲いかかる炎に驚き、一斉に林の奥深くへと逃げ出した。

「ありがとうございました」
淡い茶色の長い髪の女性はゆっくりと頭を下げる。
「果実を摘みに森に入ったのですが、彼ら狼の領域にまで進入してしまい、
彼らを怒らせてしまったみたいです」
「いつもここで果実摘みをしているのですか?」
綺羅はカゴに地面に落ちている果実を集めながら、女性を見つめた。
淡い茶色の髪の間から、宝石の様な青色の瞳が見える。
女性はその瞳を細めながら、綺羅に答える。
「いいえ、いつもはこの先にあるサスイ村の先にいるのですが・・・」
女性は綺羅からカゴを受け取り、再び深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
そう言うと、足早に森の先へと消えて行った。
「あの女性・・・」
伊里座は女性が消えていった先をじっと見つめていたが、綺羅の方へ振り向いた。
「・・・サスイ村はすぐそこです。村で話を聞きましょう」
「はい」


ツギヘ



ヤメル