綺羅と伊里座は村の長の家に一泊し、次の早朝、北の泉に出発した。
北の泉はサスイ村からそれほど離れていない場所に美しく綺麗な水を湛えていた。
水は透き通り、沢山の魚たちが鱗を銀色に反射させている。
「あの建物の様です。伊里座」
綺羅は泉の近くにある木立に建つ、小さな家を指差した。

コンコン
伊里座は家の扉をノックする。
暫くすると中から一人の女性が姿を現した。
それと同時に、微かに冷気が綺羅と伊里座を包む。
「・・・あなた方は」
サスイ村へ辿り着く前に林で出逢った青い瞳が嬉しそうに目を細める。

家の中に案内された綺羅は、外の気温よりも冷気が漂うその空気に身が凍える。
「名前を言い忘れていました。私は伊里座、そして、綺羅です」
にっこりと微笑む伊里座の表情に女性も微笑む。
「私は・・・彩羽<アヤハ>」
「では、彩羽。何故私達がここに来たのか、分かりますね」
「・・・・・」
伊里座は彩羽の言葉を待たずに話を続けた。
「最近、イオスの街に吹くはずの無い北風が冷気を運んでくる。という話を耳にしました。
それはイオスの北にあるサスイ村から、そしてこの泉周辺から発生しているという事です。
サスイ村の長はある時、村に住んでいた占い師が消えその時を堺に
冷気が発生しているという事でした・・・・。その占い師は貴方ですね」
彩羽はゆっくりと頷いた。
「私にはサスイ村に住んでいた以前の記憶がありません。
あの時、村の人々に「人間じゃない」と言われた時、言葉を返す事が出来なかった。
・・・自分が何者か、何処に住んでいたのか、記憶が無いのだから・・・」
「彩羽・・・」
うつむく彩羽の体から微かな冷気が漂い、辺りを包み込んでいく。
「唯一、持っていた占いの能力さえ私が何者か、過去や未来を見ることが出来なかった・・・
・・・知っているのならば教えて下さい。私が誰なのか」
伊里座は彩羽を金と淡い青の瞳で見つめる。
そして、ゆっくりと呟いた。
「・・・貴方は・・・異なる世界からやってきました。ゲートか歪みをすり抜けて」
その瞬間、彩羽の青い瞳が鮮やかに輝く。
大きな冷気の力が彩羽を包み込み、溢れる冷気は部屋の中にある全ての物を凍らせて行く。
彩羽は凍り付いた部屋の窓硝子を破り、外へ飛び出した。

「綺羅、彩羽を追いますよ」


ツギヘ



ヤメル