アポロのタロット占い

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Tarot FILES #10

奥さんと娘をかくまう


この2人をかくまうことになったのは1996年の10月頃だったと思う。32歳の奥さんと、もうすぐ2歳になる娘だ。私がこの2人をかくまっていたわずか1ヶ月にも満たない期間の間に娘はちょうど誕生日を迎え2歳になった。しかし、父親に祝ってもらうことはできなかった。奥さんのボーイフレンドもなぜか誕生日には関心が薄かったという。そのことで奥さんは大変不機嫌になっていたが、実は数日後のハローウィンパーティーと合わせて祝おうというのがボーイフレンドの考えだった。言葉や文化の違いが意志の疎通をはばみ、2人の関係は常に危機的状態にさらされていた。娘の誕生日は私のアパートでささやかに祝うことになった。

一つしか部屋のないシングルのアパートなのだが、私たち3人はしばらくここで生活を共にすることになる。ほんの数日間のつもりだったのだが状況はなかなか好転せず、彼女たちの滞在期間は延びていった。やむを得ず私は友人とともに別のアパートを借り、それまでのアパートを奥さんとボーイフレンドのために譲ってしまうことにした。しかし、彼らを野放しにしたのは失敗だったかもしれない。問題の事件はこの時起こった。

ある日、夜中に奥さんから電話が入った。娘とボーイフレンドが行方不明だというのだ。奥さんはすでに L.A.P.D.に連絡を取り、元私のアパートは大変な騒ぎだという。実はアパートのマネージャーには無断で引越しを済ませてしまったので、事実を知ったマネージャーはカンカンだという。急いで現地へ向かうと、そこは想像以上の事態になっていた。住み慣れた元私の部屋には警察官が何人も入り、まだ名義変更の済んでいない私の電話を使って何やらあちこちへと連絡を取っている。マネージャーは不機嫌そうに私をにらみつける。ボーイフレンドの友人だという弁護士が駆け付け取り調べを受けていた。何より驚いたのは、奥さんの旦那さんがその場にいたことだった。こうなってはもう旦那さんから逃げつづけることは難しくなってしまう。

奥さんはボーイフレンドが娘をさらって失踪したのではと思っていた。最近2人の関係は悪化の一途だったという。過去にもドラッグ欲しさに彼女の車で逃走したという前科のある彼だけに、今回もという疑いがあったのだ。もともと彼女は自分の車の鍵を彼に渡して一人にするようなことは決してしなかったのである。しかし、時間とともにそろそろ彼を信用してもいいだろうという気持ちが出てきて、ほんの少し油断してしまったのである。車も娘の世話も彼に任せ、彼女は仕事に出かけてしまった。

私は現場の重苦しい雰囲気の中でタロットカードを広げた。娘は無事帰ってくるだろう。私はそう確信したが、不安そうに私のカードを覗き込んでいた奥さんと旦那さんにはあえてそれを語らなかった。それ以上そこにいて私にできることはもう何もなかったので、私は帰ることにした。帰り際、すがるような目で私を見ていた夫婦の手を取り、私は無言で念を送った。

翌朝、事件は解決した。奥さんに連絡を取ろうとして公衆電話から電話してきたボーイフレンドを逆探知によって場所を特定。ヘリで現地へ飛び、上空から彼を補足したという。まさにハリウッド映画並みの大騒ぎである。チャイルドアビューズ(幼児虐待)のような事件には敏感なアメリカである。翌日のテレビや新聞では何度もこの事件が取り上げられ、実際に映像として奥さんや娘、ボーイフレンドの姿が映し出された。しかし、結果として「スキャンダルには違いないが、クライム(犯罪)ではなかった」と警察は発表している。

ボーイフレンドは麻薬中毒者を更生するための施設へ入れられた。奥さんは例のアパートには住めなくなり、やむを得ず旦那さんのもとへ戻る形となった。その後はほとんど連絡もなかったのだが、一度だけ、私の新しいアパートへ会いに来てくれたことがある。娘は時々私のことを「パパ」と呼んだ。この2歳の子にとって今一番必要なのはパパとママの愛情なのである。愛情がないから夫婦の関係がうまくいかなくなるのは当然なのだ。あの事件のとき、私は2人の手を取ってそう言いたかった。あえて言葉にしなかったのは、真理をそのままの形で伝えたかったためである。運命が彼らを導いてくれると信じている。

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