「綺羅」
少し弱い光が射し込むこの部屋に、今よりも少し幼い姿をした綺羅が佇んでいた。
懐かしい埃の匂いがする広い部屋には辺り一面に本が並べられ、
本棚からあふれた本が所狭しと床に沢山積まれている。
その中で綺羅は、普段使う事が無い古代の文字が細かく刻まれた厚い本を持ち、
紫色の瞳を本の文章に合わせて左右に動かしていた。
「私の部屋へ来ていただけますか」
綺羅はどこからともなく聞こえた声に、その厚い本をゆっくりと閉じる。
「はい、伊里座」

法の塔の魔術師達を統べる伊里座の部屋は魔術師の塔の最上階にあった。
机に向かって書類に目を通していた伊里座は、綺羅の近づいてきた気配に
金色と淡い青色の左右異なる瞳で優しく微笑む。
それと同時に伊里座の部屋の扉をノックする音が響き扉が開いた。
「お呼びですか?伊里座」
「突然呼び出してしまって、申し訳なかったですね」
伊里座は綺羅の方へ向き直る。
優しい白金色の髪、そして、長く延びた耳。
額にある青い色をした宝石が光に反射する。
「風の都イオスより北に位置するルノール山脈の山沿いにサスイという小さな村があります。
その村の近くに2、3ヶ月前から魔性の力を持つ者が現れ村人達が怯える日々を過ごしているという事です」
「魔性の力を持つ者・・・魔族の事でしょうか・・・?」
「そこで、私と共にサスイ村へ向かい事態を収めて欲しいのです」
綺羅はその言葉に不思議そうに頭を傾けた。
「伊里座が法の塔を離れるとは・・・他に何か隠されているのですか?」
伊里座はその言葉に金と淡い青の左右異なる瞳を細めた。
「私は見極めなければなりません」


行ク
行キタクナイ



ヤメル