□ scene1 □


「あ、とうとう降り出した」
ユリアスは右手で抱える紙袋を持ち直し空を見上げた。
イギリス・ロンドン郊外の道から見上げた灰色をした空からは大粒の雨が顔めがけて降りてくる。
「やっぱり傘を持ってくれば良かった」
ユリアスは再び家に向い足を進める。

「-----------けて」

雨音で消えてしまいそうな声が微かに聞こえ反射的に声のする方へ振り向いた。
そこには16歳前後の黄金のウェーブのかかった長い髪を持つ少女が緑の瞳に涙を浮かべてたたずんでいた。
「助けて・・・」
そう一言呟くと背中を手で押さえるようにうずくまった。
「大丈夫ですか?」
ユリアスはうずくまる少女に近づく。
瞬間、少女の背中から純白の翼が現れる。
「-------------を助けてっっ」
少女は苦しそうに顔をゆがめ涙を流す。
雨音が一段と激しくなる。
「誰を助ければっ」
そして翼を大きく広げ一度羽ばたくとその場から消えていた。

ふと、目を覚まし顔を上げた。
そこはロンドン郊外の古びた館、ユリアスの占い館GOD EYESである。
占いの部屋のクリスタルがいくつも乗るテーブルの椅子にユリアスは座っていた。
「・・・夢を見たのですか?」
「シキ・・・・」
振り向くとそこには幅の広いストールを持ちたたずむ男性がいた。
シキと呼ばれた髪の長い男性はシルクに似た繊維の淡い紫のシャツを着込み、微笑みながら話を続けた。
「うなされていましたよ。「誰を助けるのか?」と」
占いを行う衣装を着たまま寝込んでいたユリアスにそっとチェックのストールを肩に掛けアクアブルーとアイスグリーンの瞳を細める。
ユリアスはテーブルの上にある直径20cmほどもある大きなクリスタルを見つめたまま話を始めた。
「・・・夢で天使に逢った。泣きながら助けを求める天使に。誰かを助けて欲しいと叫んでいた」
大きなクリスタルの周りにある小さな水晶を一つ手にする。
「まるで・・・母の助けを求めて泣き叫んでいた僕の様だった」
シキはストールを再度ユリアスの肩に掛け直すと、ゆっくりと微笑んだ。
「街へ行きましょう。たまには外の空気を吸うことも必要です」
ユリアスは微笑み続けるシキを見ると、ブラックとアメジストの瞳に笑みを浮かべた。

6月の晴れ空の下、ユリアスとシキは水たまりが残る街を歩く。
水たまりには太陽が顔をのぞかせ反射している。
ユリアスは上半身が隠れてしまうかと思うほどの大きな紙袋を両手で抱えている。
シキも同じ袋を片手に持つが、ユリアスに比べ軽々と持ち歩いている。
ユリアスはふと足を止め空を見上げた。
空は青空が広がっている。
「まぶしい」
ユリアスのアメジストの瞳がより鮮やかに映える。
その時、左の隅に何か動く物を感じ振り向いた。
そこには夢で見た金髪の美少女がたたずんでいた。
「・・・君は・・・あの夢の・・・」
少女はユリアスの言葉に何も言わず瞳を閉じていたがゆっくりと瞳を開く。
「・・・兄を・・・兄を助けてください・・・兄さんを・・・」
一瞬大きな風が吹き、少女の流れる様な金色の髪がゆれる。
それと同時に少女の体は風に撮れるように姿を消していった。
「あっ、待ってっ」
ユリアスは手を延ばすが届かずその手はただ空を掴むだけであった。
「今のが天使ですね・・・」
ユリアスは少女が消えた場所を見続けながらうなずいた。

 

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