□ scene6 □


弘貴は一人もいない静かな公園の中を歩いていた。
夕暮れを過ぎた公園には、街灯の明かりだけが点々と公園内の道を照らしている。
弘貴は微かに聞こえる鳴き声にふと足を止めた。
そして、耳を澄ます。
「・・・猫?」
弘貴は声の聞こえる方へと、足を向け歩き出した。
遠くの方から聞こえてきていた声は、誰かを呼ぶように目の前にある木の茂みから聞こえている。
弘貴は木の茂みを、そっとかき分けるとそこには生後何日も経っていない真っ黒な子猫が怯えているかのように震えていた。
弘貴はそっと子猫を拾い上げる。
「・・・ミャー・・・」
子猫はその大きな瞳で弘貴の様子をうかがう様に見つめる。
その見つめる瞳は青と緑のビー玉の様にキラキラ輝いている。
「捨てられたのか?」
子猫のまっすぐ見つめる瞳が自分の瞳と重なって見える。
「・・・一緒だな。俺も一人だ。初めて分かってくれそうな人たちに会ったのに・・・俺は自分から逃げてきた」
子猫が不思議そうに首を傾げる。
「・・・馬鹿だ・・・俺は・・・」
その時、奥の木陰で何かが動いたような気がした。
「・・・もう一匹いるのか?」
弘貴は木陰をかき分ける。そこには瞳を閉じたまま、いまにも命が消えそうなほど苦しそうに息をする黒い子猫がいた。
弘貴は身動き出来ない程弱っている子猫を、水をすくい上げるようにそっと手に取った。
「・・・誰かに・・」
「大丈夫。僕たちで大丈夫だよ」
その声に驚き振り向くと、そこにはユリアスとシキがたたずんでいた。
「ユリアス・・・シキ・・・」
ユリアスは何も言わず子猫をゆっくりと弘貴の手から自分の手へと移した。
そして大きく深呼吸する。
「大丈夫だから、僕たちを見ていてね」
ユリアスは弘貴に向かいにっこりと微笑むとシキに向かってゆっくりとうなずいた。
シキもうなずき返すと瞳を閉じる。
「・・・・あ・・・」
ユリアスとシキから小さな風が舞い上がり、ユリアス達の長い黒髪が宙へと舞う。
二人の長い髪の間から真っ白な翼が見える。
街灯しか光のない公園に蝋燭の炎を灯した様な温かい光が辺りを照らす。
そして、ユリアスの手の中で瞳を堅く閉じていた子猫はすこしずつ開いた。
弘貴はその光景に釘付けになりながら呟く。
「銀の瞳を持つ世界を司る者・・・」
弘貴に振り向きにっこりと微笑むユリアスの黒い瞳は、いつのまにか銀色へと色を変えている。
「世界を司る者・・・王者ですよ」
シキは一段と鮮やかに映える瞳で笑みを浮かべる。
ユリアスはゆっくりと弘貴の瞳に手をかざす。
「何?ユリアス」
「君の瞳の色をこの国の人々と同じ色に変えたよ。これで何も言われなくなる」
ユリアスの手の上で立ち上がろうとする子猫を弘貴にそっと手渡す。大きく開いた子猫の瞳は緑と紫にキラキラと輝いている。
「これで君も一人で悲しい思いをする事も無い・・・」
歩き出すシキはそっとユリアスを呼ぶ。
ユリアスは弘貴を見つめていたが、シキの方へ歩き出した。
「待てよっっ、ユリアス、シキ」
「さようなら・・・弘貴」
弘貴はユリアスに手を延ばすが、シキとユリアスは蝋燭のような淡い光に紛れるように消えていった。
「待てよっっ、まだ、礼も言っていない・・・」
弘貴は二匹の子猫を抱き、両膝を公園の大地へ付いた。

「・・・待・・て・・よ・・・」

 

-scene7-

-scene5-

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