□ scene4 □


「本当に申し訳ありません。僕が逃げ込んだばかりに迷惑を掛けてしまいました」
「そんなことは良いよ。それよりも怪我を見せて」
そう言いながらユリアスはアレクの傷口を見つめはっとした。
「・・・傷か・・・」
アレクの体にあったはずの傷は、その殆どが消えかかっていた。
アレクは哀しそうに笑みを浮かべる。
「浅い傷は瞬時にも完治できるのです」
「アレク・・・あなたは・・・」

「私はある研究所から逃げ出してきました。私は・・・その研究所で創造された疑似生命体。ヒューマノイドです」
シキはアレクの言葉に反応するかの様に呟いた。
「博士の名前もあなたと同じアレク。アレク・ジル・ライティングですか?」
「知っているの?シキ」
シキはユリアスに向かいそっとうなずいた。
「アレク・ジル・ライティング。次代の若き博士達、科学、化学を中心に研究を行っている「アトラス研究所」の創設者です。しかし、何故日本に・・・?」
アレクはうつむきながら、呟くように話す。
「・・・何かを追いかけていたみたいです。・・・詳しくは分かりませんが・・・」
ユリアスはうつむくアレクを見つめた。
「・・・22号という方は・・・誰ですか?」
アレクははっとし、ユリアスを見つめる。
「博士から創造された生命体は全て番号で名前が付けられます。正式番号HN-1021-19号、21号、22号・・・そして、僕が27号アレクです。 僕は博士に可愛がられ、初めて人間の名前も付けられました。博士と同じ名前を・・・。22号は僕とほぼ同時期に創造された女性型疑似生命体です。 僕は彼女の事を22号ではなく「アリス」と呼んでいましたが・・・」
アレクはゆっくりと目を伏せ、嬉しそうに笑みを浮かべ話を続けた。
「二人だけで呼び合っていた秘密の名前です。「不思議の国のアリス」の様に・・・ いつか二人で研究所だけの世界から新しい世界へ旅をしよう・・・そう思いを・・・込めて・・・」
アレクは手に持ったティーカップの紅茶を一点に見つめている。
「アリスと二人で研究所から逃げました。新しい世界を手に入れられると信じて・・・でも、アリスは途中で博士に連れ戻されました。 博士は研究所から逃げ出す者に対して、重い刑罰を与えます。アリスもすでに異なる姿に変えられていると思います」
「研究所の外へ出ることをそれほどまで許さない理由は博士から聞いていた?」
アレクは首を左右へ振った。
「分かりません・・・しかし、以前一度だけ脱走を企て姿を消した人たちがいます。そのことを博士はとても哀しまれていました」
アレクの姿を見ながら、シキはゆっくりと呟いた。
「一つは異なる研究所から研究対象を隠すため、そして一つは新しい戦略物資にも成り得る疑似生命体を他国から隠すため・・・まだ他にも理由はありそうですが・・・」
「戦略物資・・・戦争を起こすために?」
「アレク自身はどうか分かりませんが、アレクを迎えに来た先ほどの二体の疑似生命体は戦う事に特に長けた造りでした。 人を襲う事も前提に創造されているようです・・・人を殺害することを・・・」
ユリアスは何も言わずスッと立ち上がった。
そして、アレクに向かったにっこりと微笑んだ。
「研究所、案内してくれる?アリスを助けに行こう。まだ、間に合うかも知れない」
「そんなっ、これ以上迷惑を掛けるわけには・・・・」
「アレク・ジル・ライティング博士にも逢ってみたいしね」
ユリアスはそっとシキを見つめた。
シキはユリアスの心を読みとったかのようにうなずく。
「行く前に研究所へ仕掛けをしておきましょう」
アレクは不思議そうにシキへ問いかける。
「仕掛け?」
シキは今までにない表情で笑みを浮かべ立ち上がる。
「アレク、いらして下さい。特別に見せてあげましょう」

 

-scene5-

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