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沢村は医務室の外に出ると両サイドに続く廊下を見つめる。
長く続く廊下の先から走る足音やざわめきが近づいてくる。
「先生! よけてっっ!!」
イチハの大きな声に沢村は咄嗟に前に動く。
その瞬間、沢村の背後を通り過ぎる黒い影が見えた。
「先生! 今日、学生会室で言ってた犬の名前言って!!」
走り寄ってきた清瀬が息を切らしながら叫ぶ。
「・・・犬?」
「そう、ここに来る途中で見たって言ってた張り紙に書かれていた迷い犬の名前! なんか、
すごい長い名前だった・・・って言ってたやつ」
沢村の背後を勢いよく過ぎて行った影が再び勢いよく近づいてくる。
沢村は朝の通勤途中で見つけた張り紙を思い浮かべる。
美しい姿で気品溢れた犬の写真とその名前。
「あぁ、・・・えっと・・・あの犬の名前、たしか・・・アレク・・・
アレクサンドロス・フランシア・二世」
沢村が名前を呟いた瞬間、影は光に溢れる。
光の中で影は姿を変えた。
スラリとのびた足
気品溢れた美しい真っ白な犬
沢村の前で犬は嬉しそうに座り尾を振っている。
その姿を見た日下部達は安心したかのようにその場に座り込んだ。
「・・・この子。あの犬だったんだ」
沢村も犬の前でしゃがみ込み犬の頭を優しく撫でる。
「この犬、学校へ向かう先生の姿を見つけ後を追ってきたみたいだな。先生が医務室に入ってから
先生の気配を探す事が出来なくなってパニックを起こしていた様だし」
「・・・もしかして、僕に向かって飛び込んで来たのは僕を見つけたから・・・?」
その言葉にイチハがフワリと沢村へ近づく。
「パニックの中、先生を見つけて嬉しくて飛びつこうとしていただけみたい」
「・・・そう・・・なんだ」
「・・・でも、良かったよ。先生があの長い名前覚えていてくれて、雪哉達はあの場に
いなかったから知らないし、俺は覚えてないし」
清瀬は安心した様に立ち上がりゆっくりとのびをした。
日下部もゆっくりと立ち上がり、優しく呟いた。
「彼を送ってあげよう・・・沢村先生」
日下部の言葉に沢村はゆっくりと頷く。
そして、沢村を見上げている犬の頭を優しく撫でた。
「・・・君は僕を捜していてくれたんだね。・・・ごめんね。気付いてあげられなくて」
犬は沢村の暖かい手に体を寄せ、嬉しそうに「クーン」と鳴いた。
「行けるね。君なら」
沢村は優しく微笑み、そして、天を見つめる。
廊下だったはずの天井は天高く伸び、眩しいほどの光の空が続いている。
犬は空を眩しそうに見つめていたが、大きく後ろ足で飛び上がり、天を翔る様に空高く
昇っていく。
次第に小さくなっていく犬の姿を見送りながら、沢村は小さく呟いた。
「・・・さようなら」
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