□ scene11 □


「中谷駿二くんはここにはいないんだ」

「・・・?」
沢村は桜の樹の下で散っていく桜を見つめながら、ゆっくりと呟く。
少し離れた所には日下部達が静かに見つめている。

「ほら、見えない? 中谷駿二くんはあの光の先にいる」
沢村が桜の樹の上の方を指差す。
辺りは陽も落ち、すでに暗闇が支配している。

静かな空には一面の星達が輝いていた。

「光なんて見えない。・・・私はここにいるわ。中谷先輩がいる場所に」
「僕は、中谷駿二くんじゃないよ。・・・僕をよく見てごらん」
守野は沢村の言葉を聞きながら、じっと沢村を見つめる。
そして、驚いたように掴んでいた両手を離した。

「・・・っ! ・・・あなた・・・先輩じゃない。・・・誰?」
「・・・えっと、ここの新任なんだけど・・・」
「・・・先輩はどこ?・・・中谷先輩をどこへ隠したの?」

「中谷駿二くんはもう光の先に旅立っているんだ」

沢村は守野へ優しく微笑みかける。
「君も光の先へ旅立とう」
「いやっ、いやよっ、・・・怖いっ」

「大丈夫、光が彼の所に導いてくれる。絶対」

守野は沢村に促されるようにゆっくりと桜の樹を見上げる。
しかし、両手で顔を覆いながら左右へ頭を振る。
「見えない・・・。光なんて見えないわっ、私には桜の花びらしか見えない」
「ほら、良く見て、花びらの先に光が見えるから」
その言葉に守野はじっと空を見上げる。
そして、沢山舞い落ちる花びらの先に、小さな光を見つけた。
守野は光を見つめながら嬉しそうに微笑む。

「・・・・・セン・・パイ」

守野は光に溶けるように消えていった。

「さようなら。守野春奈さん」


最期の桜の花びらが大地へ舞い降りた。

 

-epilogue-

-scene10-

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