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ゆっくりと歩き出した美津留の視線の先には、スポットライトに照らされたグランドピアノが見える。
そして、観客席には溢れるほどの観客。
沢山の視線が静かにこちらを見つめている。
グランドピアノの脇に立ってお辞儀をする。
「あっ・・・」
その姿を静かに見つめていた沢村が小さな声を上げる。
スポットライトを浴びた美津留の姿は、黒い影が次第に姿を覆う。
そして、美津留を覆い隠した。
黒い影は椅子に座り、旋律を奏で始める。
激しく掻き鳴らす様なピアノの旋律。
一心不乱に弾き続ける哀しい旋律。
・・・・ポロン。
突然、黒い影は動かし続けていた指を止める。
そして、ゆっくりと天を仰ぐ。
「・・・ボ・・・ボク・・ハ」
その瞬間、黒い影はスポットライトから降りそそぐ光に解けるように影を無くしていく。
その姿に沢村はゆっくりと呟いた。
「・・・夏目・・・直基」
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