|
「・・・僕・・は・・・?」
夏目は鍵盤の上の両手をじっと見つめる。
「夏目直基さんだよね」
その言葉に夏目はゆっくりと声の方へ振り向いた。
そこには、ステージに上がった日下部達の姿があった。
「僕はなんでここに? 僕は音楽室でコンクールの練習をしていたはずなんだけど。・・・早く練習を
しなきゃ。コンクールまで後少しなんだ。早く練習をしなきゃ間に合わない。結果を出さないとダメ
なんだ」
夏目は呟きながら鍵盤の上の指を動かす。
「君はもう練習をする必要はないんだよ」
「・・・え・・?」
「練習はしなくていいんだ」
その沢村の言葉に夏目は動かしていた指を止める。
そして、鍵盤の上に置かれた指をそっと離した。
「・・・そう・・・なんだ・・・」
夏目は目に涙をうっすらと浮かべながら、安心したように微かに微笑む。
「・・・僕はもう、練習をしなくてもいいんだね・・・」
次の瞬間、夏目の体はスルリと美津留の体から離れた。
「美津留!!」
美津留の体は力が抜けるように床へ崩れ落ちそうになるが、夏目が優しく美津留の体を支える。
支える夏目の体はスポットライトに浴びて輝くような光に包まれている。
「・・・僕はこの子が奏でるピアノの音を毎日聞いていた。彼女が奏でる旋律はとても優しくて楽しそうで
・・・僕は練習をする事も忘れかけていたんだ。・・・それなのに・・・アイツが・・・」
夏目の言葉にイチハの体がピクリと反応する。
「・・・アイツって?」
イチハは光に包まれて輪郭を失い始めている夏目にフワリと近づく。
「・・・アイツって誰の事を言っているの?」
「アイツは光に近い場所にいる者さえ闇の世界へ引きずり込む。引きずり込まれた者達は自分の事を制御
できなくなる」
「・・・誰の事なの?!」
夏目の体はスポットライトの光に解けるように消えていく。
夏目は最期の言葉を微かに呟いた。
「・・・彼は・・・死・・・ガ・・・ミ」
|