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「・・・夏目・・・直基?」
「そう」
立川美津留の黒い影の姿を知ってから数日後の放課後。
外が次第に茜色に染まりだした頃、学生会室に日下部達が集まっていた。
その中で眼鏡をかけた姿の夕凪。
いつもの様に軽く縛った髪から乱れ落ちた前髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、
持っている資料の束を机の上にバサリと置いた。
「10年ほど前の学生資料の中に夏目直基の名前を見つけた。資料の中では転校という事になっているが、
本当は在学中に死亡している」
「死亡?」
「あぁ」
夕凪はそう答えながら、資料の中の一枚を取り出し机の中央へ見えるように置く。
「夏目直基、スピードのある激しい曲を得意とする天才ピアニスト。全国ピアノコンクールの前日に
グランドピアノに体をうつ伏せて眠るように亡くなっていた。死亡の原因は過度の練習での精神的
ストレスからきたであろう心臓発作」
沢村はその資料を手に取りながら、資料のある部分を見つめる。
「・・・亡くなったのは・・・あのグランドピアノ・・・なんだ」
資料の中には優しく微笑む夏目直基の写真があった。
その写真を見つめながら、沢村は少し寂しげにゆっくりと話を続ける。
「・・・でも、今まで沢山の人間があのグランドピアノで練習をしているはず。何故彼女に取り憑いて
しまったの?」
その沢村の言葉にイチハがフワリと近づいた。
「お互い天才ピアニストと言われている人たちだからね。同じようにコンクール前の練習をしていて、
きっと波長が彼と同調してしまったんだと思う。突然亡くなってしまった彼の魂はコンクールに向けて
今でも練習を続けている。彼は時が止まってしまった事に気づいていない・・・そこに彼女が現れた」
「・・・立川さんに取り憑いて終わらない練習を続けている」
「その練習を終わらせてあげよう」
「そうだな」
日下部と清瀬はにっこりと微笑んだ。
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