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「お邪魔します」
家の中は薄暗く、数カ所に置かれている蝋燭の明かりだけがその周りを淡く照らしている。
玄関から蝋燭の炎に促されるように長い廊下を歩き、奥にある部屋の中へ入っていく。
「何にも無い家・・・だな」
部屋の中にはソファとグランドピアノ。
ピアノの上に置かれている燭台の蝋燭の灯りだけがピカピカに磨かれた
グランドピアノと部屋をオレンジ色に照らしていた。
「本当に来たんだ。てっきり逃げ帰ったかと思ったよ」
その言葉に神矢は振り向く。
「・・・!」
そこには白い若者が佇んでいた。
髪は白髪のように白く、肌も透き通るような白。
細身の体に純白な服で身を包んだ若者。
その瞳は蝋燭の炎に照らされて、赤く輝く。
「・・・あんたも俺を見て、逃げ帰るんだろ」
日本人離れした大きな瞳はまるで少女の様にも見える。
「・・・・・キレイでビックリした」
神矢は神矢の言葉が聞き取れず見つめている若者に優しく微笑んだ。
「俺は神矢直紀。ナオって、、、
いや、あんたの好きなように呼んでくれていいや。名前は?」
「・・・ユキ」
「よろしく。ユキ」
にっこり笑う神矢にユキは不思議そうに見つめる。
「・・・あんた、怖くないのか?」
「何が?」
「・・・俺・・」
「ユキ? どうして? 俺は逢えて嬉しいけど。それに言いたい事があったし」
「・・・言いたい事?」
「あぁ。でも今はいいや。それよりビアノ触ってもいい?」
神矢はグランドピアノに向かって歩く。
そして、グランドピアノのフタをゆっくりと開き、『ポロンポロン』と鍵盤を弾いた。
「すごいな。これユキが調律しているのか? 音が完璧」
鍵盤の上を指が美しいメロディを奏でだす。
「・・・お前、弾けるのか?」
「あんたよりはヘタだけどね。音が出るモノは広く浅く。ギターは特別だけど。
・・・でも、驚いた。
今までこの辺りでピアノの音なんて聞いたことが無かったから」
「あの時は・・・」
「俺さ、歌声で震えた事なんて今までなかった。
・・・感じる事が出来るのはギターの音だけだと思ってた。
でも、ユキの歌声を聞いて震えたんだ」
「何言って」
神矢の奏でるピアノの旋律が、ユキが口ずさんでいたメロディに変わる。
「・・・お前・・・一度聞いただけなのに」
「なぁ、俺と音楽をやらないか?」
グランドピアノの上に置かれた蝋燭の炎が『ジッ』っと音を立てて大きく揺らめく。
「きっと、俺のギターとユキの声は合う」
「・・・・・」
ユキは蝋燭の炎に照らされてオレンジ色に染まった白い髪を掻き上げ、
ほんの少しだけ微笑んだ。
「・・・強引なやつ」
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