□ 伊里座1 □


伏見が剣の音を大広場で響かせている頃、伊里座と綺羅は魔術師の塔の最上階にある伊里座の部屋に居た。

「さて、何から話をしましょうか」

伊里座は優しく金と淡い青の瞳で微笑む。
「貴方が一人旅に出たと言うのは、貴方のお母様・・・聖国ラ・フールティアの現女王 風月様から聞いていました。 ですので、そろそろこちらに参る頃だろうと・・・」
優しく微笑む伊里座の白金の髪に、優しい風が通り過ぎる。
「貴方のお父様を過去に一度お見かけした事があります。遠くからお見かけしただけですので、はっきりとは分かりませんが・・・」
綺羅は伊里座を見つめていたが、すっとその紫の瞳を伏せた。
「長い黒髪を持った男性・・・ですね。物心ついた時にはすでに父の姿はありませんでしたが、残された記憶の中に残像があります。 黒髪の優しい父親・・・皆と同じ記憶ですが・・・」
そして、瞳を開きながら、伊里座を再び見つめ話を続ける。
「私には幻の様なもう一つの記憶があります。・・・幼い弟の記憶」
綺羅は寂しそうに微笑む。
「・・・・・・名前すらも覚えていませんが・・・」
伊里座はその綺羅の言葉を聞きながら、ゆっくりと小さな窓から見える景色を見つめる。
太陽が沈み、朱色の美しい夕日を映していた空も、朱色から宇宙(ソラ)の色へと変えていた。
窓の先にはティア大陸最大の湖「サエル湖」が法の塔の部屋の明かりを優しく反射させ、対岸には湖の都と呼ばれる湖に囲まれた都「メーロス」の都の明かりが見える。

「風月様と同じ輝く黄金の髪を持ち、幼い貴方と遊ぶ・・・貴方より少し幼い子供がいました。それは・・・仲良く・・・子供は貴方の事を 「兄様」と呼び、貴方はその子供を「伽羅」と・・・」
その瞬間、綺羅の頭にサエル湖の深い青の様な瞳と、金色の髪を持った子供の姿がよぎる。

「・・・伽羅・・・」

綺羅がそう呟いた瞬間。
法の塔がゴゴゴゴという轟音と共に震えた。
そして、綺羅と伊里座の周りに冷気が通り過ぎる。

「・・・この冷気は氷月・・・伊里座、失礼します」
綺羅はそう呟くと、そのまま広場へ向かって走り出した。
その姿を伊里座は見送りながら、そっと呟く。
「剣士、伏見の吹雪が氷の龍を造り出した様ですね・・・」
伊里座の白金の髪が微かに風に靡く。
その髪をゆっくりと掻き上げながら淡い青と金の瞳を細め、ある空間を見つめた。

「そろそろ、姿を現して頂けないですか?」

そう呟くと何もない空間から螺夜が腕を組んだままの姿で現れた。
銀糸の様な長い髪が揺れる。

 

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