□ 貴沙紀1 □


湖の都メーロスから、ほぼ西方に進んだ所に「カラツ」はあった。
カラツは海に面した少人数の村であり、その村の人々の殆どが海に関した仕事を行っていた。
しかし、何ヶ月前からかカラツの村は眠るように通信を途絶える。

その小さな村の門の近くに何人かの人々がじっと門の中を見つめている。
人々は体中に傷を作り、中には頭や体に包帯を巻き、ゆっくりと滲み出る血を包帯で止めていた。
唯一傷がない者は唯一の女性でもあった。
見た目十代後半のその女性は、片手に法術の杖を持ち黒く長い髪を結い上げ、息を飲むように緑の瞳で村の中をじっと見つめている。
「王女、これ以上は危険です。先ほど偵察に向かった者達は門へ届く後一歩の所で何かに腕や足をもぎ取られました」
「多分それは魔術で創った大気の結界。気圧の違いで真空が出来ているのだわ。解除呪文で解除出来れば良いのだけど」
そう呟く王女と呼ばれた女性の言葉がふと止まる。
そして、ある一点を見つめながら怯えるように呟いた。
「・・・皆、皆の退避命令を。早急に・・・あの結界から禍々しい何かが現れるわ。結界に近づいている者達に退避するように」
女性の見つめる結界の一点に小さな歪みが生まれる。
そして、その中から魔性が少しずつ姿を現した。
美しく微かに透き通る女性の形をした魔性は優しい微笑みを浮かべながら上半身から下半身へと姿を現していった。
現れた魔性の右手には柄の長い大きな鎌が握られている。
しかし、魔性の優しい笑みに退避していた兵士達の動きが鈍る。

その瞬間を魔性の女は見逃さなかった。

優しい笑みは一瞬にして不敵な笑みへと変わり、その右手に握る大鎌を横に振った。
その光景を見ていた王女は大きな声で叫ぶ。
「伏せてっっ、皆早く伏せなさいっっ、真空(カゼ)が来るわっっ」
その言葉も聞き取れないうちに数人の兵は真空を受け、大地に自分の一部だったモノを転がした。
結界から現れた魔性は大鎌を抱く様に持ちながら、素足を大地に降ろし王女の近くへと歩き出した。
「王女・・・お逃げ下さい」
一人の兵士が王女の前に守るように立ちふさがる。
「・・・皆を残して行く事など・・・私には出来ません」
魔性は消える事のない微笑みを浮かべ、再び大鎌を振るう。
とっさに王女を守るため王女の前に飛び出す数人の兵士達。
兵士は一瞬にして大地へ倒れ込んだ。

 

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