|
空間を翔る。
現れた場所は魔闇宮の中にある魔界王と唯一謁見が出来る空間。
その大きな扉の前に螺夜と黒栖は静かに佇んでいる。
「人間界へ行くときにはオレを呼んでくれ。すぐに駆け付けるよ」
そう言いながら黒栖はにっこりと紅い瞳を細め、その場から姿を消した。
黒栖の気配が消えた事を感じ取った螺夜は、謁見の間の黒く大きな扉を静かに触れる。
扉は音を立てず、ゆっくりと開き始めた。
「・・・螺夜・・か」
螺夜は扉の中から聞ける声に反応する様に、中へ足を踏み入れた。
部屋には絵画や石像等が美しく並べられ、整然と並ぶ石柱の間を抜けながら歩みを進める。
そして、部屋の半分程歩いた所で、螺夜は立ち止まり静かに美しい石で出来た床へ片膝を付いた。
螺夜の氷の瞳と紅の妖眼の双眸の先には3m程も背丈の背もたれがある椅子に男が座っていた。
闇に紛れてしまう程の男。
闇の様な黒く長い髪を持ち、微塵の気配も感じる事が出来ない。
「螺夜よ。久しいな」
落ち着いた低い声。
その声に螺夜は片膝を付いたまま、軽く頭を下げた。
「・・・・王」
王と呼ばれた黒髪の男はゆっくりと優しく微笑む。
螺夜と変わらぬ、それ以上に美しい姿、黒く流れる髪、そして、血色の様な紅い妖眼。
見た目の年齢は螺夜と変わらぬ姿であり、陶器で出来たような美しい顔は螺夜自身に良く似ている。
王はゆっくりと呟く。
「螺夜がここへ現れる事は分かっていた。・・・今の私は何も力を持っていない。縛られたまま動けぬ人形の様だ」
「・・・彼は力を抑える事も、ましてや跳ね返す事も出来ない。接触してきた彼らの邪悪な気配に引きずられ、力が反応を始めた。・・・このままでは・・・」
王はすっと立ち上がり、音もなく螺夜へ近づいた。
そして、紅い妖眼を伏せる。
「・・・彼を・・・綺羅を護ってやってくれ。魔界や・・・」
王は瞳を開き、螺夜をじっと見つめた。
「・・・伽羅から・・・人界へ留められるように」
螺夜はその言葉にゆっくりと瞳を伏せる。
「・・・分かっている。魔界王」
|