□ 伏見3 □


氷樹殿の中は暗闇に包まれ、音一つ無い静かな世界が広がっている。
その暗闇は伏見達の足音さえ消し去っているかのようだった。
綺羅は短かな言葉を呟くと、いくつもの小さな光が手のひらから生まれ、宮殿を微かに照らし始めた。
「ライトの呪文です。やはり明かりは逢った方が良いですからね」
しかし、綺羅の言葉が終わらない内に、小さな光達は蝋燭の光を吹き消されるように消され、まばゆい閃光と共に辺りが浮かび上がった。

「ようこそ・・・我が神殿。氷樹殿へ--------」

落ち着いた女性の声が響く。
綺羅達の行く先には、王座に座る黒神の女性の姿があった。
「ディル・ウォーグの王子よ」
クツクツと笑い声が宮殿の中に響く。
「父王にでも逢いに来たのか?」
絹のような黒髪の間から燃えるような妖眼がのぞく。
「先ほどの、父王では満足出来なかったと見える」
紅の唇が笑みを浮かべる。
「出よ。我が下部達よ」
宮殿の床から魔物達が浮かび上がる。
「天空に舞う結晶達よ。地上に踊る風達よ。我のみに纏いて氷の刃となれ!-----」

「アイス・ストーム!!」

綺羅の手のひらから氷の刃が強風と共に魔物達を襲う。
魔物達は凍り付き、粉々に崩れていった。
「伏見、行きなさい。あの魔者はあなたか倒す敵です」
伏見は綺羅を見つめゆっくりと頷くと、王座に座る女に向かって走り出した。
「螺夜、伏見の援護をお願いします」
螺夜は綺羅の言葉に頷くと、風に紛れるように姿を消した。
「私はこの魔物達の相手をしましょう」
綺羅は今にも襲い掛かろうとする魔物達を横目に、再び長い詠唱に入る。

「蠢く大気よ。刃となりて路(ロ)を開けし・・・ライン・オブ・ウインド!」

綺羅は紫の瞳を開いた。
綺羅の手から生まれた風は、大きな刃となって魔物達に襲い掛かった。
風が通り過ぎた後には、王座の女へと続く、一本の道が出来ていた。
その上を伏見が吹雪で魔物を凍りの結晶へ変えながら、王座へと進む。
「あやつ、上級魔術師・・・魔物達では相手にならんな・・・」
魔族の女は、組んでいた足を組み直し、王座の肘掛けに左の肘を置いた。
「水や風の呪文は得意の様だが、炎の呪文はどうかな・・・。出よ!北の地に住まう竜族・・・氷竜よ。氷の息吹の威力を我が前に示せ」
すると、綺羅の目の前に高さ5m程もある氷色の竜が姿を現した。
「・・・幻で出来た・・・竜・・・ですか」
美しい色をした竜は綺羅を氷の様な冷たい瞳で睨み付けると大きく息を吸い込んだ。
宮殿の中に冷気が集まる。
その光景を見た綺羅は瞬時の内に伏見と螺夜の方へ走り出した。
走りながらも詠唱を唱える。

「裂けよ大地。築け炎よ。火炎の盾となれ」

綺羅が伏見のいる場所へ着き、詠唱が終わるのと氷竜が氷の息吹を吹くのは同時であった。

「ファイヤウォール!!」

巨大な炎の壁が綺羅達と氷竜との間を分ける。
その炎の壁の前では氷竜の吹く息吹も意味をなさなかった。
女はその光景を見ながら舌打ちする。
炎の壁は息吹だけではなく氷竜をも飲み込み、そして氷竜は成すすべもなく水のように消えていった。

 

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