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綺羅が砂漠のオアシス、炎の聖国メル・ブライクへ到着したのは、太陽の日も傾き掛けた頃だった。
砂漠の砂嵐から街を守る高い城壁をくぐると、王が住まう聖炎宮へ広い一本の道が続いている。
その道には幾つもの店が並び、人々の活気で溢れていた。
綺羅はラクジーを宿屋の外にある水飲み場の近くへ繋ぎ、宿屋の中へ入っていった。
「一人部屋、空いていますか?」
綺羅の声に主人と思える男がにっこりと人なつこい笑みを浮かべる。
「幸運だよ。あんたで満室だ」
そう言いながら、カウンターの後ろの壁に掛かっていた最後の鍵を綺羅に渡した。
「ラ・フールティアから来たのかい?」
綺羅はにっこりとうなずく。
男は急に真剣な表情に変え、綺羅の顔に近づいた。
「だったらメル・ブライクにいる間は覚えときな。陽が落ちたら外を見ちゃ駄目だ。ましてや外に出る事ともだ」
「・・・何故ですか?」
綺羅の顔に男の顔が一段と近づく。
「出るんだよ」
「・・・何がです?」
「魔物だよ。魔物。一匹や二匹なんて数じゃない。何百匹って数だ。
人の頭を持った魔物や人の返り血を浴びた魔物がぞろぞろと西の門から東の門へ歩いて行く。目が合った人間は容赦しない」
綺羅の表情が変わる。
「・・・いつから・・・そんな事が・・・」
「幻都ディル・ウォーグが魔物に滅ぼされたという噂が聞こえてきてからだ。噂じゃディル・ウォーグを滅ぼした魔物達の幻影じゃないかって行っているぜ」
幻都ディル・ウォーグ。
聖国の他にも聖国よりは小規模な国がいくつかあった。
それを人々は都といった。
「イオス」「ライ」「ミンダス」「ノエタ」「ルバーニング」「メーロス」そして、魔物に滅ぼされた最大の都「ディル・ウォーグ」
デストラ砂漠の中央に位置するディル・ウォーグは砂漠の中に蜃気楼のように浮かんで見えていたことから幻の都、幻都と呼ばれていた。
しかし、二ヶ月前、、魔物達の攻撃に逢い最大の都と言われていたディル・ウォーグもたった数日で滅んでいった。
「ディル・ウォーグは跡形もなく砂に埋もれ崩れていったが、今も蜃気楼のように繁栄していた都の幻影が見えるらしいぜ。幻都が本当に幻の都になっちまったってわけだ」
宿屋の主人はそう言いながら哀しく微笑んだ。
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