□ 魔族 □


ラ・フールティアを出発してからデストラ砂漠の東部、炎の聖国「メル・ブライク」へ向かい南下して、早3日が過ぎようとしている。
辺りは一面の砂。そして、照りつける太陽。ティア大陸唯一の砂漠、そして、大陸のほぼ中心にあるデストラ砂漠である。
「参りました・・・砂漠を渡ろうなんて・・・考えなければ良かったです」
砂山の影で休む綺羅は、額を押さえながら大きくため息を付いた。
押さえた指の間からは、三角形の形をした紅い印が見え隠れする。

ティア大陸の一般的な交通手段、移動用動物「ラクジー」も砂に座り静かに休んでいる。
綺羅は革製の袋から丸められていた布の紙を取り出し広げた。
そこにはティア大陸の地図が書かれていた。
ほぼ中心に掻かれているラ・フールティア聖国から砂漠地帯にあるメル・ブライク聖国まで、最短距離のほぼ直線上を歩いてきている。
「後、二日ぐらいでたどり着ければ良いのですが・・・」
何事も無ければ・・・という言葉はあえて付け足さなかった。
何事も無い-------ティア大陸を旅する物にとっては皆無に等しい事であった。
ティア大陸には多くの人種の他に、それを襲う多くの魔物の存在があった。

魔族----何処にあるとも知れない魔界に住まう者達。
魔界族とも言われ、その世界と大陸との往来はこの大陸の創造より始まっていたという。

魔族の中には「魔物」と呼ばれるモンスターなどの下等魔族から始まり、
人の形、人の形に近いが、能力はそれほど無い「魔者」
人より遙かに高い能力を持つ「妖族」
人界にあまり姿を見せず数少ない「騎族」
魔王ほか、10名程の君主のみが呼ばれる高等魔族「貴族」
に分かれている。

そして、高等魔族に近づく程、人も及ばぬ美しい姿、高い能力を持ち、不老不死でもあった。
唯一人と分かつのは、爬虫類の様な紅の瞳に「妖眼-ヨウガン-」と言われる頬に伸びる二本の魔族の紋章だけである。
人間が魔族に対抗出来るものは人々が築き上げた剣の力と、魔法の力である。

移動用動物「ラクジー」が長い耳を立てて、急に警戒を始めた。
「どうしたのですか?」
警戒するあまり震えているラクジーに、そっと手を触れようとした瞬間、それは起きた。
突然、目の前の砂山が盛り上がり、そこから何匹もの
「・・・魔・・物・・・?」
綺羅は近くに置いてあったサーベルの様な片刃の剣を颯爽と手に取り、祈るように呟いた。
「私を無視して通り過ぎてくれたらありがたいのですが・・・・」
綺羅の祈るような呟きも届くことも無く、言葉が終わるか終わらない内に魔物達は襲いかかってきた。
綺羅の剣捌きはけして下手な方ではない。
最大聖国、第一王子の肩書きが身を守るための力を養っていた。
しかし、それは人の力から己を守る為の技術。けして、魔族から身を守る物ではなかった。
綺羅の周りにジリジリと魔物が集まる。綺羅の体を食わんとばかり唾液を零し、砂を溶かしながら。
綺羅は小さく何かを呟いたかと思うと、さっと瞳を閉じた。

その瞬間----------。

綺羅を囲んでいた何体もの魔物達は見る見るうちに石へと変わっていった。
綺羅は石化されていく魔物のピキピキという音に気づき瞳を開いた。
「・・・ペトリフィケーション・・・石化呪文・・・誰が・・・」
「魔物さえも倒すことが出来ないなど、一人旅などする資格はない」
石化された魔物は見る見るうちに砂漠の砂へと還っていく。
その命を失った魔物達の後ろに一人の端正な顔立ちの男が佇んでいた。
美しく流れる銀の髪。
片目は消えそうなぐらいに澄んだ氷の青い瞳。
そして、片目は燃えるような紅。
頬に延びる魔族の紋章。
「妖眼・・・あなたは・・・」
「そのまま聖国へ帰れ、傷つく前に・・・綺羅王子」
言葉を言い終わらない内に男は風に溶けるかのように消えていった。

 

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