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メル・ブライクに闇が落ちる。
人々は怯え、魔界の住人達が目を覚ます。
綺羅は道沿いの窓際に座り、カーテンの隙間からレンガ敷きの道を見下ろしていた。
日中、にぎわいを見せていた店並は扉を閉め切り、部屋の明かりを消し、時が過ぎるのをただじっと待っている。
静まり返った部屋の中で、綺羅は愛用の広いの片刃のブロードソードを見つめた。
刃渡り65cmほどの剣の柄には、細かな金の細工と紫色をした大きな宝石が埋め込まれている。
そして、近くに置いてあった六芒星の型が彫られている金の首飾りを手に取り、大切そうにゆっくりと首へ掛けた。
六芒星の中心には赤色の宝石が埋め込まれ、微かな光を反射している。
「・・・そろそろですね・・・」
綺羅は静かにそう呟くと、再び暗闇に沈んだ街並みを見つめた。
暫くすると、遠くの方から何かを引きずるような音が聞こえる。
それは、少しずつ大きくなっていった。
宿屋の主人の言うとおり、無数の人に近い形をした魔物が姿を現した。
その魔物達は、人の形をとっていただろう死骸を手に持ちズルズルと引きずり、レンガで出来た道路には幾つもの赤い線が出来ていた。
綺羅は柄を握り、ゆっくりと鞘から刃を出した。
剣の刃は自ら青白い光を放っているかのように、闇に浮かぶ。
一度大きな深呼吸をすると、カーテンを開き、窓を開け、魔物達がいる道路へ身を躍らせた。
綺羅の体は、まるで翼があるかのように魔物がいる地上に舞い降りた。
魔物達は東の門へ進む足を止め、剣を片手に舞い降りた綺羅を囲んだ。
綺羅は少しの間、瞳を閉じ神経を集中させていたが、やがて、ゆっくりと瞳を開く。
その瞬間が合図のように、魔物達は一斉に綺羅に襲いかかった。
綺羅は颯爽と剣を構え、目の前へ襲いかかる魔物を一直に切り裂いた。
その綺羅の姿を遠くで見つめる人物がいた。
長い銀の髪を風に靡かせ瞳は綺羅一点を見つめていた。
魔物をいともあっさりと斬りつけていく綺羅の姿を見つめ呟く。
「あの剣、退魔の剣か・・・。夜にその力を発揮する剣。月水華-ゲツスイカ-・・・」
剣は月の光すら出ていない闇夜にも光を反射するかのように青白く輝いている。
「・・・しかし、あの魔物の数では、妖剣月水華でも敵うまい」
綺羅は襲い掛かる多くの魔物達に剣だけで対抗していたが、息が上がり始める。
綺羅の剣の前で敗れ灰と化していく魔物達を横目で見ながらゆっくりと呟いた。
「そろそろ何とかしなければなりませんね・・・」
そう言い放ち、目の前にいた魔物を切り捨ていると綺羅は後ろへ飛び、魔物との間隔を開けた。
そして、目を閉じ口の中で呟く。
「・・闇の親族よ・・・敵が血肉を化せ、大地へ還せし・・・・」
瞳を開く---------------。
「ペトリフィケーション!」
綺羅がそう言い放った瞬間、襲い掛かろうとしていた魔物達はピキピキと音を立てながら体を石へ変化させていった。
それは、東の門へ向かっていた全ての魔物達が石像のようにその場で石と化している。
綺羅はその光景を見ながら微笑んだ。
「また、助けられてしまいましたね」
砂漠の冷たい風が通り過ぎる。
すると、魔物を形取っていた石像は灰のように崩れ、砂へと変わっていく。
崩れた砂のその先には、長い銀の髪の人物が佇んでいた。
「石化呪文、ペトリフィケーションは、一度に多くの物を石化することは出来ません。
一度にこれだけの魔物を石化できたのは、あなたの助力魔法が石化魔法を強化させた」
紅の魔族の瞳を片目に持ち、遠目でも分かる美貌の男は綺羅へゆっくりと近づいた。
「・・・なぜ・・・その剣を?」
綺羅は右手にある月水華を鞘へ収める。
「月水華は私の母から頂いた剣です。私の住まう聖水宮はその多くの泉に写る月を例え、
別名聖月宮と言われています。
月の力が剣に宿る月水華がそこにあってもおかしくはありません。先代達の巨匠が造り上げた魔物だけを切る事が出来る剣です」
綺羅は男をじっと見つめ、にっこりと微笑んだ。
「明日、私は幻都ディル・ウォーグ跡へ向かいます。あなたも共に旅をして頂けませんか?
あなたの言う通り、他人に助けられてばかりで、私は一人旅をする資格は無いようですから・・・」
男は銀糸のような髪を掻き上げる。
「旅を続けると、必ず傷つく時が訪れる。その後の道を変えてしまうほどの・・・」
「私は自分を探すために旅に出ました。傷つくことを恐れたら自分を探す事など出来ません。それは分かっているつもりです」
と、その時、宿屋の扉が開き、主人が両手を広げ駆けつけてきた。
顔には満面な笑みを浮かべている。
「あんた!すごいな!何百匹もいた魔物を一人で倒したのか?これで街は平和になる。あんたは英雄だよ」
「あ、いや・・・あの・・・その・・・・」
「まぁ、改めて部屋で話を聞こう。今日は俺の奢りだ!宿代もいらないよ」
綺羅は主人に押されるように宿屋へ入っていく。
先ほどまでいた男はすでに姿を消している。
「明日、宮殿に行って王に報告してくれ。街の魔物を全て倒しましたと」
「いやっっ、ちょっと待って・・・下・・・」
綺羅はそのまま半ば強引に部屋の中へ連れて行かれた。
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