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目を開くと初めて目にする天井が見えた。
「・・・・ここ・・は?」
マリアはゆっくりと体を起こした。
三人で眠れることが出来るような広いフカフカとした豪華なベットに、
深い青色を基調としたソファに壁、天井には落ち着いたシャンデリアまでも飾られている。
三十平方メートルほどもある広い部屋を見ていたが、思い出したようにハッとし首筋を手で押さえた。
血液や傷が無いかを確かめ、安心したようにため息をついた。
部屋に窓があることに気づき、マリアは小さく呟いた。
「・・・・逃げなきゃ・・・・」
マリアは重たい体を動かし、ベットから窓へ歩き出した。
窓の外に見える景色は一面灰色の様な霧がかかっており、場所も時間さえも把握することが出来なかった。
マリアはゆっくり窓を開いた。
窓の外は先ほどと変わらず灰色の霧ばかり地面を見つけることも出来なかった。
「・・・その窓の下は深い谷です。死んでしまうおつもりですか?」
突然の声にマリアは振り向く。
マリアのすぐ後ろに先ほどの男が立っていた。
マントは脱いでいたが、黒い服は変わりなく黒い手袋はそのままで、優しく微笑んでいる。
「・・・・谷?」
「・・・えぇ、ここは切り立った場所にある人里は慣れた古城です」
男はマリアを支えるように一緒に窓の外を見つめた。
「よく見ていてください。少し霧が晴れます」
男の言葉に命令されたかの様に、眼下にある灰色の霧が少しづつ晴れて行き、遠くに緑一面の針葉樹が見えた。
「・・・・・本当・・・」
マリアは男の方へ向き直り呟いた。
「自殺だなんて、私の心に反するわね」
マリアは青色の瞳を細めながら話を続けた。
「あなたが本物なら、食糧になるしかないわね」
男は少々驚いた表情を浮かべたが、その後優しく微笑んだ。
「・・・・面白い方だ。街の娘達の様に悪魔に口づけされた花嫁とは言わないのですね」
「・・・・本物という言葉は否定しないのね・・・」
マリアはぐっと拳に力を入れた。
「動物は弱肉強食。強い物が弱い物を餌にする。
いかに人間が知恵もあり他の動物を配下に置いていても、弱肉強食のサイクルの一部の中で生きている。
人間よりも高い能力を持つ生物が生きる権利を得るために人間を食糧とすることはおかしな事では無いわ。
・・・最後まで生き続けるために戦うけれど・・・」
マリアは話を続けながらも、部屋の扉の方へ目を向けた。
「でも・・・この状態では逃げることも出来ないわね」
男はマリアの視線が扉へ向けられていることに気が付いた。
「あなたを食糧にするなど、野蛮な真似はしません。
それとも・・・この部屋はお気に召さなかったのですか?
あなたのその青い瞳に合わせて用意させた部屋なのですが・・・・」
男は扉へ向かって歩き出した。
「この城の案内をしましょう。
もし、この部屋が気に入らないようでしたら、あなたが気に入った部屋に移るが良い」
男は扉のノブに手をかけた。
「あなたの名前は?」
マリアの言葉に男は振り向いた。
「名前が分からなければあなたを呼ぶことが出来ないわ」
男は嬉しそうに微笑む。
「人間に名前を聞かれたのは初めてです」
マリアに近づき男はそっと呟く。
「グレイ、と呼んでください」
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