『月刊かみいな』 <健康カレンダー> ●今まで担当した原稿●

                          北原こどもクリニック

                                北原文徳



    「溶連菌感染症について」 (2002年 6月号)

●溶連菌感染症は晩秋から冬季にかけて保育園や小学校低学年で流行する細菌感染症ですが、毎年6月頃にも集団発生がみられます。好発年齢は2〜10歳、ピークは5歳前後で、成人も感染することがあります。2歳未満の乳幼児では感染しても特徴的な症状や合併症はみられませんので心配ありません。

A群β溶血性連鎖球菌という細菌が原因で、飛沫感染や接触感染によって家族内、クラス内に伝染します。発症までの潜伏期間は2〜4日です。症状は、激しい咽頭痛、発熱、発疹、腹痛、嘔吐、イチゴ舌ですが、むかしは猩紅熱(しょうこうねつ)と呼ばれた特徴的な鮮紅色の細かい発疹が見られるのは約20%にすぎません。

診断は、溶連菌独特の咽頭所見に加えて、綿棒で咽頭をぬぐって迅速診断キットで菌の存在を確かめます。5分も待てばその場で結果がわかります。治療は、ペニシリン系抗生物質を10〜14日間内服します。翌日には熱も下がり元気になりますが、くすりは決められた期間しっかり飲み続けてください。途中でやめてしまうと再発したり、急性腎炎というやっかいな合併症が3〜4週間後に出現することがあるからです。発症の气J月後に検尿 を受けておくと安心です。抗生剤を内服して2日もすれば伝染力はなくなるので登園、登校は可能です。

きちんと10日間内服しても、10%近くは1〜2カ月以内で再発します。また、家族内で感染者がでると兄弟で50%、親で20%の確率で伝染するという報告がありますので、患者さんの兄弟が強い咽頭痛を訴える時は、発熱がなくても要注意です。感染すれば免疫ができるのですが、溶連菌には10種類以上のタイプがあるため何回でも感染します。予防接種はありません。予防には毎日のうがいと手洗いが重要です。



    「カゼの予防は『手洗い』から」(2002年 12月号)

●風邪の予防方法として皆さんがまず思い浮かべるのは「うがい」ですが、1日に1〜2回程度のうがいでは、あまり予防効果は期待できません。それよりも医学的に確かな効果が得られる予防法があります。それは「手洗い」です。

風邪の中でもっともありふれた「鼻かぜ」はライノウイルスによって起こります。このウイルスは鼻水の中にいて、鼻をかんだ手に付着し、その手で触ったものを他の人が触れて、手についたウイルスが口に入ると風邪がうつるのです。イギリスの「風邪研究所」で風邪の人をメンバーに入れたポーカーゲームの実験をしたところ、手から手へウイルスがうつる様子がよく分かったそうです。

また、このところ毎年11月末から流行する小型球形ウイルス(SRSV)による嘔吐下痢症も、吐物や便の中のウイルスが手について、それが食材や保育園の遊具などに付着し、そこから他の人の口に入って2日後に突然の嘔吐で発症するという感染経路がもっとも多いと考えられています。

福井県の小学校の1クラスで、昨年2月に嘔吐下痢症が集団発生したケースの調査報告によると、最初の患児が午前中に教室で嘔吐し保健室で休養していましたが、給食当番だったので教室へ戻り給食の配膳を行いました。その36時間後に同じクラスの16名が嘔吐下痢症を発症したのです。

このように、手に着いたウイルスは極わずかでも感染力は強力なので注意が必要です。
具体的な手の洗い方ですが、10秒程度の手洗いでは効果はなく、石鹸と流水で30〜60秒間指先や指間もしっかり洗い、ペーパータオルでよく拭きます。医療現場では、速乾性のアルコール消毒液を手指に擦り込む方法が、最近ではよく用いられています。なお、インフルエンザは残念ながら手洗いでは予防できません。


    「夏かぜ について」(2003年 8月号)

●大人の感覚だとかぜは冬の寒い季節にかかるものなので、暑い夏にかぜなんかひくの?と疑問に思う人も多いかもしれません。確かに、SARSやインフルエンザウイルスのように低温と乾燥した空気が大好きで、冬に猛威を振るうウイルスが多いのも事実ですが、ジメジメした夏の高温環境が得意の夏かぜウイルスもいるのです。

この夏かぜウイルスには、アデノウイルスやエンテロウイルスなど、100種類以上もの原因ウイルスがいます。違うウイルスでも、症状は同じ手足口病やヘルパンギーナだったり、年齢によって症状が変わったりと、なかなか複雑です。手足口病に何度も感染する子どもがいるのはこのような理由からです。また、無菌性髄膜炎や発疹症など、冬のかぜにはみられない合併症があることも特徴の1つです。

夏かぜウイルスは感染すると、のどや腸管の粘膜細胞の中で増殖します。飛沫感染のほかに便からも2週間以上ウイルスが排出されるので、患児の手や皮膚についたウイルスが接触感染でほかの子の手から口の中へ侵入する場合も多いようです。また、プール熱や「はやり目」は目からもウイルスが侵入します。よく手を洗うことが夏かぜ予防では大切です。

夏かぜの原因として「寝冷え」がいけないといわれます。のどや気管支の粘膜には「繊毛」があって、口から侵入したウイルスが体内へ入り込まないよう守ってくれています。ところが、暑い夏の夜に窓を開けたまま眠ると、明け方には冷え込んで体温が下がり、この繊毛の動きがにぶって、夏かぜウイルスが細胞内へ侵入するのを簡単に許してしまうのです。これが寝冷えです。子どもは寝相が悪く、タオルケットもすぐはだけてしまうので困りますが、体が冷えすぎないように、親が気遣ってあげてください。


    「テレビ漬け育児の危険性」(2004年 3月号)

●「ピアノ売ってチョーダイ」と財津一郎が歌うタケモトピアノのCMをご存知でしょうか? 県内では放映されていませんが、関西では有名なCMで、「探偵! ナイトスクープ」でも取り上げられました。ギャーギャー泣いてむずかる乳児が、このCMが流れるとピタリと泣き止み、じっとテレビを見入るということで、大阪のお母さん方に評判なのです。その噂は東京へも広がり、昨年の9月にはDVD付きCDも発売になりました。DVDには15秒のCMが2種類、繰り返し30分間収録されています。

でも、ちょっと冷静になって考えてみてください。乳児が泣くのを忘れてしまうくらいの強烈な刺激がこのCMにはあって、強制的にテレビの画面から目が離せなくなってしまうのです。これって恐ろしいことですよね。

最近の調査によると、赤ちゃんに1日2〜3時間テレビを見せている家庭が35%もありました。確かに、子どもがテレビに集中して静かでいてくれれば、その間に母親は家事を片づけることができます。クレヨンしんちゃんでなくジブリやディズニーの映画、知育ビデオを見せておけば教育上まったく問題はない、親はみなそう信じています。でも、本当にそうでしょうか?

どんなにすぐれたビデオでも、ただ一方的に繰り返し刺激の強い情報を浴びるだけでは、子どもに言葉は生まれません。言葉というものはお母さんが赤ちゃんにやさしく語りかけ、それに対して赤ちゃんが母親の目を見つめて笑って答える、そのコミュニケーションがあって初めて生まれるものだからです。

テレビやビデオに赤ちゃんの子守をさせてはいけません。少なくとも、夕食時にはテレビを切りましょう。月に1度は「ノー・テレビ・デイ」を設けて、お父さんもお母さんも一緒に我慢してみましょう。


    「タバコから子どもを守ろう!」(2004年 6月号)

●3月上旬、卒業式を目前にした6年生に対して、校医の立場から「タバコの害について」授業をさせてもらいました。中学生になってからでは遅すぎるからです。ニコチン中毒は喫煙開始年齢が低いほど依存度が高く、並大抵の努力ではタバコをやめられません。特に中学生で吸い始めた女の子の場合は、結婚して妊娠してもまず禁煙できないから事態は深刻です。妊婦がタバコを吸うと胎児は一時的に窒息状態に陥るのです。そのため、生まれてきた赤ちゃんは低出生体重児のことが多く、身体や知能の発達も遅れて、乳児突然死症候群になりやすいとも言われています。女の子向けの警告としてインパクトがあったのは美容の問題です。タバコ1本吸うたびにレモン半個分のビタミンCが消費されるので、肌の色は悪くなり皮膚のしわが増え、一気に老化が進んでしまうのです。

タバコが他の薬物中毒と異なる重要な点は、本人以上に周囲の人がその被害を被るということです。タバコの先端から立ちのぼる紫煙は「副流煙」と呼ばれ、本人がフィルター越しに吸う主流煙に比べて、ダイオキシンや発ガン物質が数十倍から100倍近くも多く含まれているのだそうです。ですから、家庭でお父さんがタバコを吸うと、お母さんと子どもは確実に副流煙の被害にあいます。換気扇の下で吸っても無駄。カレーを作る時、換気扇を回していても部屋中にカレーのにおいは充満しますよね。タバコ1本で地球上の空気がドラム缶500本分も汚染されてしまうのです。

タバコの煙は子どもへの虐待です。受動喫煙を強いられた子どもは、喘息・気管支炎・副鼻腔炎・中耳炎を起こし、身長の伸びが悪くなり、知能指数も下がります。タバコをやめて1日500円貯金すれば5年で100万円です。家族そろってハワイへ行けますよ!


    「子どもと薬 --- 常識と非常識 ---」(2004年 11月号)

Q:空腹時に投薬すると胃が荒れる?

A:子どもの場合、その心配はありません。むしろ抗生剤などは空腹時のほうが吸収が いいのです。薬袋に「食後」と指定されていることが多いのは、一定間隔で飲み忘れ なく内服できるよう便宜上定めているにすぎません。おっぱいで満腹の赤ちゃんは、 甘い薬でもまず飲んではくれないので、空腹時投与が常識です。幼児でも食前投与で まったく問題ありません。

Q:保育園では薬を飲ませてくれないので、1日3回内服の薬でも2回しか与薬できま せん。

A:咳鼻止めなどの風邪薬は1日2回投与でも構いません。でも、抗生剤が入っている 時は3回飲まないと効果が出ないものが多いので、 その場合には、お昼の分を保育園から帰宅した午後4時に飲ませ、夜の分は就寝前の 夜9時ごろ飲ませてください。だいたい5時間間隔が開けばOKです。延長保育で帰宅 が午後6時過ぎになる場合には、医師にその旨を伝え、1日2回投与でも効果のある 薬にしてもらってください。

Q:余った薬を取っておいてもいいですか?

A:薬は処方された日数分だけきちんと飲み切るのが原則です。水で希釈したシロップ 剤は保存が利きませんので、残った分はすぐ捨ててください。薬はその時の症状に合 わせて医師が処方するので、親の勝手な判断で以前に余った薬を子どもに投与するこ とは危険です。軟膏だと数年前の薬でも平気で使う親が多いですが、古くなると酸化 して皮膚に悪影響を及ぼすので要注意です。

Q:薬剤情報提供書って、もらっても読まずに捨てちゃうのですが…。

A:捨てずにファイルに保存してください。いろんな医療機関をはしごしてるのが医者 にバレるのが嫌だという患者さんもいますが、今どき他医院の薬剤情報提供書を見せ られて意地悪する医者はいません。どうぞご安心ください。



    「お父さんは頑張っている」 (2005年 5月号)

●この春に子どもが保育園に入園して、職場復帰を果たしたお母さんも多いことでしょ う。しかし、これからが大変です。まだ免疫のない0〜1歳児は、保育園に通い始め た途端に次々とカゼをもらってきては熱を出し、月の半分は登園できないことがよく あるからです。そうそう会社を休んでばかりもいられないお母さんは、実家の祖父母 に助けを求めます。娘と孫のためなら嫌とは言えないおばあちゃんも、実はとっても 忙しい。日がな1日のんびりと孫の相手をしている時間なんてどこにもありません。 年に1度の温泉旅行で、いいように便利に使われちゃって。もう勘弁してよ、これが 本音かも。そこで、お父さんの登場となります。

土曜日の小児科外来は、お父さんが子どもを連れてやって来るケースがずいぶんと 増えました。以前は、診察室で何を聞いても「さぁ?」としか答えられないお父さん ばかりで、小児科医にとってはかえって迷惑だったのですが、最近は違います。妻に 書いてもらったメモを見ながら的確に答えるお父さん。妻が勤務中の平日の午後、急 に熱を出した娘を保育園に迎えに行って、その足で小児科へ来たお父さん。2人とも、 ごく自然に肩の力を抜いた、フットワークの軽い父親であることが共通しています。 当たり前のこととして子育てに参加しているお父さんが増えています。ことにブラジ ルの父親はみなそうです。素晴らしいことですね。

子どもが保育園に通い始めると、その母親どうしも仲良くなり、家族間のつきあい が始まります。最初は面倒くさそうだったお父さんも、自分の父親以外の大人の魅力 を初めて知った相手家族の子どもに、「へぇ〜、おじさんて、すごいんだね!」と認 めてもらえれば悪い気はしないはずです。

そうやって夫の自尊心を上手にヨイショしながら、子育て参加に引き込むのが、妻 としての裏ワザではないでしょうか。


    「早寝・早起き・朝ごはん」(2006年 1月号)

●よる10時すぎのコンビニや、TSUTAYA 店内を両親に連れられて幼い子供が歩き回っているのをよく見かけます。深夜営業の店が増えて、われわれの生活は確かに便利になりました。しかし、この子たちはいったい何時に寝るのでしょうか?

  夜更かしをする子供は、必然的に朝寝坊となります。目覚めた直後は、胃はまだ寝ぼけていて空腹感はありません。時間もないので朝食抜きのまま学校や保育園へ向かうことになります。しかし、脳細胞の活動に必要充分なブドウ糖が朝食から補給されないので、午前中の勉強に大切な時間帯を子供の脳味噌はボーっとしたまま過ごすことになるのです。

2004年の調査によると、日本の4歳以下の子供のうち、夜10時以降も起きている子供がじつに46.8%もいました。ちなみに同年のヨーロッパでの調査(ただし3歳以下)では、イギリス25%, ドイツ・フランスが16%です。日本の子供だけ突出して夜更かしであることがよく分かります。

人間の生体時計は本来は25時間が1日に設定されていて、実際の24時間とはずれているのですが、目が覚めて朝日を浴びると生体時計がリセットされて、地球の自転と同調するようにできているのだそうです。早起きをしてカーテンを開け、朝日を浴びることが大切なんですね。

また、1〜5歳に生涯で最も多く分泌されるメラトニンというホルモンは、夜暗くなると分泌され、夜になっても周りが明るいと分泌されません。メラトニンには、抗酸化作用や性腺抑制作用があると言われていますが、不夜城化する日本の子供たちの成長にどのような問題が生じて来るかはまだ分かりません。

早く寝かすには入眠儀式を用いた習慣づけや、昼間たっぷり運動させること、昼寝は早めに切り上げることなどが大切になります。



■■「子育てとメディア」に関する一考察 (『長野医報』2005年 2月号)

●「ピアノ売ってチョーダイ!」と財津一郎が歌うタケモトピアノのCMをご存知でしょうか? 長野県内では放映されていませんが、関西ではたいへん有名なCMで、毎週金曜日の夜11時過ぎから長野朝日放送で放映されている大阪の人気番組『探偵!ナイトスクープ』でも取り上げられました。

ぎゃーぎゃー泣いてむずがる乳児が、テレビでこのCMが流れるとピタリと泣き止み、じっとテレビを見入るということで、数年前から大阪のおかあさん方には評判なのです。 その噂は東京へも拡がり、2003年の9月にはDVD付きCDも発売になりました。DVDには15秒のスポットCMが2種類、繰り返し繰り返し、延々30分間収録されています。

でも、ちょっと冷静になって考えてみて下さい。乳児が泣くのを忘れてしまうくらいの強烈な刺激がこのCMにはあって、強制的にテレビの画面から目が離せなくなってしまうのです。これって、じつは恐ろしいことですよね。まるで、ハンメルの笛吹みたいで……

NHKの調査によると、赤ちゃんに1日2〜3時間テレビを見せている家庭は35%もありました。それから、なんと2歳児の30%がビデオの操作を1人でやってのけるのだそうです。確かに、子供がテレビに集中して静かでいてくれれば、その間に母親はたまった家事を片づけることができて助かります。クレヨンしんちゃんではなく、スタジオ・ジブリやディズニーの名作映画、それから「しまじろう」の知育ビデオを見せておけば子供の脳 はどんどん刺激されて、早期教育的効果も期待できるに違いない、親はみなそう信じています。でも、本当にそうでしょうか?

どんなに優れたビデオでも、ただ一方的に繰り返し繰り返し刺激の強い情報を浴びるだけでは、子供に言葉は生まれません。言葉というものは、おかあさんが赤ちゃんに優しく語りかけ、それに対して赤ちゃんが母親の目を見つめて笑って答える、その親子のコミュニケーションがあって初めて生まれるものだからです。

1956年に創刊された月刊『こどものとも』(福音館書店)の初代編集長で、『ぐりとぐら』『おおきなかぶ』『はじめてのおつかい』『だいくとおにろく』など、現在でも燦然と輝くキラ星のようなの傑作絵本を次々と世に送り出し、赤羽末吉、長新太、堀内誠一、加古里子、中川李枝子、安野光雅といった、それまでまったく別分野で仕事をしてきた人間を、絵本作家として新たに発掘した絵本出版業界の重鎮、松居直さんは講演会の中でこん な話をしてくれました。


      「ことば」は誰からもらうのでしょうか?

「ことば」は「おかあさん」からもらいます。みなさんが、おかあさんからもらった一番大切なものは「いのち」です。これは厳然たる事実です。それと同時に「いのちの器」である「からだ」をもらいました。そして、この「いのちを支えている」のが「ことば」なのです。こうして私たちは「生きる」ことができるのです。

今の子どもたちは、常に騒音の中に曝されていて、沈黙するということができません。沈黙・静寂がないと「ことば」は貧しくなります。「ことば」を失うこと=人間性を失うこと。その結果、子どもたちは「暴力」に訴えるようになるのです。電子メディア時代における人間性の崩壊ということを、私はとても危惧しています。

しかも、「ことば」というものは本質的に「目に見えないもの」なのです。人間にとって大切なものはみな、目に見えない。これは「星の王子さま」の口癖ですね。ことば・時間・こころ・しあわせ・愛・かなしみ……みんな「目には見えない」。(2002年11月、辰野町図書館での講演より)

2004年2月に日本小児科医会が、5月には日本小児科学会が相次いで「2歳以下の子供には、テレビ・ビデオを長時間見せないようにしましょう。内容や見方によらず、長時間視聴児は言語発達が遅れる危険性が高まります」という勧告を出しました。

ただ、2歳までは「絶対に」テレビやビデオを見せてはいけない! と言っている訳ではありません。朝8時台、夕方の4〜5時台は、おかあさんは家事に忙しい。ちょうどこの時間帯は、有り難いことにテレビを付ければ『おかあさんといっしょ』をやっています。また、部屋の中で1日じゅう赤ちゃんと2人きりでいれば、おかあさんの育児ストレスは相当なものです。そんなおかあさんの唯一の楽しみはテレビを見ることかもしれない。そ のテレビまで取り上げちゃったら、おかあさんはいったいどうなってしまうのでしょう?大切なことは、無自覚にだらだらとテレビを見せているのではなくて、赤ちゃんにテレビを見せることは本当はあまりよくないのだけれどと、きちんと自覚した上で、子どもといっしょにテレビを見ることだと思います。以下にそのポイントを箇条書きにしてみました。


■こどもにテレビを見せる時に注意すること■

1)テレビは子供1人では見せない。親子でいっしょに見て楽しむ。

2)1回に長時間(1〜2時間以上)は見せない。30分見たらテレビを消す。

3)ビデオは巻き戻さない(何回も繰り返し見せない)セルビデオは買わない。

4)テレビの視聴時間の2倍は外遊びをする。

5)お父さん・おかあさんも意識改革が必要。われわれ親の世代は、生まれたときから
  テレビが空気みたいな存在で、お父さんが家にいる時は必ずテレビが付いている
  という家庭は多い。

6)「ながら」視聴はやめる(食事の時間はテレビを切る)

7)子供の夜更かしをやめる

8)月に1度「ノー・テレビ・デイ」を家族みんなでチャレンジする。


●さて、テレビのスイッチを切ったリビングで、夕食後のひとときを親子でどう過ごしましょうか? 世の中の流れでは「絵本の読み聞かせ」なのでしょうが、ぼくは違います。ボードゲームやカードゲームを炬燵にあたって蜜柑を食べながら一家団欒で楽しんでみては如何でしょう。コンピュータ・ゲームと違って、ボードゲームやカードゲームは決して一人ではできません。ボードゲームや積み木パズルに詳しい相沢康夫さんはこんなことを言っています。
 ボード(カード)ゲームとTVゲームって、ぜんぜん違うよ。機械ではなく、人と人とが向き合うってところがね。子供のころ、親や兄弟とやった将棋やトランプ…… 楽しかったなァ。あれってさ、親が自分と向き合ってくれたのがうれしかったんだと思うのさ。

姉貴に負けると悔しくってさ、次には絶対勝ってやるってモチベーションを高めたものさ。ところで、ゲームをやっている時って、平気で悪口を言えるんだよね。普通だとケンカになっちゃうような言葉でも、ゲームのときは何故か平気で口に出せるし、相手の心の琴線にほんのチョッと触れることで、かえって仲良しになれたりもするよな。

それから、ゲームの時ってイジワルの他にもウソついたりするでしょ。「ビクビク、5」「ダウト!」「ハイ、ほんとに5でした」なんて。日常では許されないことが堂々とできるのが楽しいんだな。相手との信頼関係がないと絶対できないゲームもあったりする。

最後にもうひとつ、ゲームのいいところってさ「ルールを守ることがたのしい」って感じられるところだと思うんだ。だって、お互いルールを守らないとゲームは楽しくないもの。(『月刊クーヨン/2003年12月号 p70,71』 より)
■他者の心を思いやることができない自閉症の子供は「ごっこ遊び」ができないと言われています。人間は決して一人では生きてゆけません。他者との共生を図る上で、子供はソーシャル・スキルを身につける必要があります。でもそれは、決してテレビやビデオが教えてはくれないということを、若い父親・母親たちにわれわれ小児科医が声を大にして言って行かねばならない事だと感じている、今日このごろです。


(2006年 03/19 記)



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