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北原こどもクリニック  



  おとうさんと読む「絵本」


  ●おとうさんにとっての「絵本」とは?
    ・(2006/06/11 更新)
    ・過去の「おすすめ」絵本(7)『WHERE THE WILD THINGS ARE』『歌う悪霊』
                    『こぶたのブルトン ふゆはスキー』ほか
    ・過去の「おすすめ」絵本(6)『へっこきあねさ』『ねぇねぇ』ほか
    ・過去の「おすすめ」絵本(5)『えほん北緯38度線』『なにたべてるの』ほか
    ・過去の「おすすめ」絵本(4)『地面の下のいきもの』『うみのむにゃむにゃ』ほか
    ・過去の「おすすめ」絵本(3)『はくちょう』『さるのせんせいとへびのかんごふさん』
    ・過去の「おすすめ」絵本(2)『狂人の太鼓』『三びきのぶたたち』『長谷川義史の本』
    ・過去の「おすすめ」絵本(1)『冥途』『クレーン男』『とうだいのひまわり』ほか

    ●<おとうさんが絵本を読むということの意味> ● (2008/06/15 更新)
    「林明子さん」の絵本に隠された秘密   (2006/03/08 更新)  




   ■「林明子さん」の絵本に隠された秘密 を更新しました(2006/03/08)



『くんくん、いいにおい』
たしろ ちさと・絵

(グランまま社)¥1200 (税別) 2006年 7月06日 初版発行


●これはいいね、すっごく出来がイイ絵本だ!

まず、なんと言っても表紙がオシャレだ。敷きつめられたクラッカーをバックに、少年と犬が描かれている。1950年代〜60年代、アメリカの良き時代のニューヨークを思わせるブックデザイン。文字のレタリングにも細心の注意が払われていることがよくわかる。大切に大切に作られた絵本だ。企画から絵本作家との交渉、下絵の検討、色合いのチェック、装丁デザイン、印刷屋さんへの細かいダメ出しなど。たぶん、そのような手続きが読者の手に届く前にいっぱい時間をかけてくり返され、ようやくこの絵本たちは出版されたに違いない。そうした作り手の心意気が、すっごく強く感じられる。

まず、絵本画家がよい。たしろちさとさんは、本当に絵がうまい人だとぼくは思う。『ぼくはカメレオン』を手にした時には驚いた。確かな筆使い、鮮やかで的確な色の配置。なるほど、絵本の本場イタリアのボローニャで認められたのがよく分かる。でも、あの絵本は彼女の本質ではなかったんだな。世界で通用するために、あの絵本は無理してグローバルにバタ臭かったのだが、『かあさん』(こどものとも012 2005年7月号)を目にして、ぼくは瞬時に理解した。「あ、この人はじつは、和風のひとなんだな」って。だって、最後のページのおかあさんの顔をごらんよ!

そうした彼女の「和風へのこだわり」を、「この絵本」では特に大切にしている。

ほかほかごはんと、おみそしる  おとうさんが やいているのは なあに?

懐かしい、台所のにおい。父親の汗のにおい。ほんとに、いいなぁ。

個人的に、一番好きなページは、

ぶらんこしたあとの ての におい

だ。しってる しってる、あの匂い。懐かしいにおい。夏の日の夕方の、鉄のサビ臭いにおい。

この絵本の魅力は、大人が子供に絵本を読みながら、お互いにいろいろと話し合ううちに、読み手の大人が、ふと、自分が幼かったあの頃に体験した「あのにおい」を奇跡的に再体験できることにあると思う。絵本を読みながら、遙か昔の子供時代にタイムスリップできる、懐かしい不思議な絵本なのだ。

■SF作家山田正紀氏が、忘れられた存在から本格ミステリー作家としての実力を見せつけて、見事復活した作品として、ミステリー愛好家の中で語り継がれているシリーズがある。『女囮捜査官 北見志穂』 のシリーズだ。ぼくは、なぜか新書版(徳間ノベルズ)が出た当初からこのシリーズにハマってしまい、「触覚」「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」の5作品を出るとすぐに買って読みあさった。ものすごく面白かった。本屋さんで「この新書」を買うのは、表紙のイラストや「姦」と大きく書かれたタイトルが官能小説風で、ものすごく恥ずかしかった(^^;;) でも、あの頃、これらの本を正当に評価した人は、ほとんどいなかったなぁ。

今回の「グランまま社」のこのシリーズは、山田正紀以上の意欲を感じさせる。だって、「5感」で終わるのではなくって、「6感」まであるんだよ! ところで「シックス・センス」をどうやって絵本にするのだろう? 興味は尽きないね。『きこえる?きこえるよ』(聴覚)、『ぽかぽか、ふわふわ』(触覚)、『あかるいね、きれいだね』(視覚)、『うれしいね、たのしいよ』(感情)と、絵本画家を変えてつぎつぎと登場するらしい。続刊がじつに待ち遠しいシリーズだ。

(2006年 7月28日 追記)

   
『くんくん、いいにおい』
 たしろ ちさと・絵
 (グランまま社)


   
『あまいね、しょっぱいよ』
 ふくだ じゅんこ・絵
 (グランまま社)




『おじいちゃんのごくらくごくらく』
西本鶏介・作、長谷川義史・絵

(鈴木出版)¥1100 (税別) 2006年 2月01日 初版発行


●黄昏トワイライト、なんて曲はなかったっよなぁ、あれは「とまどいトワイライト」か。それはともかく、この絵本に登場するおじいちゃんも人生の黄昏どきにさしかかっていた。だから、長谷川義史さんの絵はみんな「夕暮れ時のオレンジ色」が基調となっている。この絵本は、そのオレンジ色の色使いがとってもいい。そう言えば、『おじいちゃんのライカ』マッツ・ウォール/文、トード・ニグレン/絵、藤本朝巳/訳(評論社)も「オレンジ色」が基調だったな。

おじいちゃんは おふろに つかるとき、くちぐせみたいに
「ごくらく ごくらく」と いいます
「ごくらくって なに?」って たずねたら
「しあわせな きもちに なることだよ」
と おしえてくれました。
ぼくも おじいちゃんの まねを して
「ごくらくごくらく」
と いったら こころの なかまで あたたかくなりました。
ぼくの祖父は、父方も母方も、ぼくが生まれるずっとずっと前に亡くなっていたから、仏壇の写真でしか会ったことはない。だから、この絵本の主人公「ゆうた」くんがとってもうらやましい。若いとき大工さんだったおじいちゃんは、ゆうた君のために木のおもちゃをいっぱい作ってくれた。

  「ゆうたの おもちゃは せかいに ひとつしかないものだよ」
  おじいちゃんに いわれると ぼくまで うれしくなります


いつになく真面目な長谷川さんの絵(お風呂場の脱衣所の絵が、あべ弘士さんのライオンであることと、お風呂の鏡にサルが映っていること以外は遊びの絵がないのだ)を見ていると、ゆうた君だけでなく、おとうさんもおかあさんも、おじいちゃんのことをとっても大切にしていることが、しみじみ伝わってきます。だから、最後から一つ前の第13場面で「ぐっ」ときてしまうのだな。泣けました。ここで。わざと父親の首から上が描かれていない意味もわかるような気がする。久々にすばらしい絵本に出会えたなあ、素直にそう思えました。

■いっぽう、『しってるねん』いちかわけいこ・文(アリス館)2006/03/15 初版 では、いつもの長谷川義史さんが、いつものようにお茶目に遊んでいて、安心して楽しめる絵本となっている。湯浅とんぼさんや、四日市の絵本専門店「メリーゴーランド」主人の増田善昭さんが登場してるし、変なオカマのおっちゃんも登場する。実際、大阪ではこの手の変なおっちゃんが平気で街を歩いている。去年「なんばグランド花月」に行こうと道具屋筋を家族で歩いていたら、もっと凄いオッチャンとすれ違ったぞ(^^;)

それから、八百屋の店先に、北海道・剣淵産のジャガイモとタマネギとトウモロコシが描かれているが、長谷川さんは『かあちゃんかいじゅう』で平成16年度のけんぶち絵本の里大賞を受賞していて、賞品の副賞 剣淵農産物3年分50万円相当をもらっているのだ。それにしても「剣淵農産物3年分50万円相当」って、どんなんだろう? 内田麟太郎さんと折半だったのだろうか?

この「ねこやなぎ商店街」のモデルは、 大阪の天満橋商店街で、1丁目から7丁目まで、約2.6キロ、南北にまっすぐ続く「日本一長い商店街」なんだそうだ。すごいね。

ところで、この絵本『しってるねん』の一番の魅力はというと、長谷川義史さんの絵にあるのではない。テキストの面白さにあるのだ。関西弁の絵本はいっぱいあるが(『ぼちぼちいこか』『じごくのそうべえ』『おならばんざい』『はせがわくんきらいや』などなど)、天竜川よりも東側に住む人間が無理して読むと、関西弁はイントネーションが難しくて、不自然な読み方がワザとらしく、聞いていて嫌らしくなってしまうのだ。でも、この『しってるねん』は、ぼくらみたいな大阪弁のネイティブ・スピーカーではない者が読んでも、それらしく聞こえるようにできている。これって、案外「画期的」なことなんじゃないだろうか?

(2006年 6月11日 記)

   
『おじいちゃんのごくらくごくらく』
 西本鶏介・作
 長谷川義史・絵
 (鈴木出版)


   
『しってるねん』
 いちかわけいこ・文
 長谷川義史・絵
 (アリス館)




『こぶたのブルトン はるは おはなみ』
作・中川ひろたか、絵・市居みか

(アリス館)¥1300 (税別) 2006年 3月10日 初版発行


●わが家の息子たちも大好きな「こぶたのブルトン」シリーズ、待望の新刊がでた!『こぶたのブルトン はるは おはなみ』だ。いや、出たのは2カ月近く前なのだが、ここで紹介しようと思いつつ、3月はバタバタと忙しくてグズグズしているうちに、すっかり「お花見シーズン」も終わってしまった。ごめんなさい。

でも、昨日の火曜日に高遠の保健センターへ10カ月健診に行ったら、高遠の桜はまだ十分にキレイでしたよ。これは言い訳(^^;;

さて、表紙を開くと「見返し」がピンクでほんのり桜色。桜の花びらが風に舞っている。ここを見ただけで、すっかりお花見気分にひたれるなぁ。ページをめくると、主人公のブルトンと友達のアンドレがトランプしていて、そこへ「まかせなさい!」タカサキさんが登場。お花見に行こうと誘いに来たのだ。でも、桜の名所「たかさきやま」には、タカサキさんの苦手な「サル」がいるのだった。

たかさき山への道中、いろんな出店が出ています。キリンがビールを売っていて、トラや帽子店の持ち歌「キャベツはキャッ」の中のフレーズ「キリンが鳴いた、ビール、ビール、ビール!」を思い出し、笑ってしまったよ(^^)

この絵本は、画家の色使いのセンスの良さと構図の大胆さが、前2作以上に全面展開されていて、絵を眺めているだけでじつに気持ちいい。実際のお花見は終わってしまったけれど、この絵本を開けば、いつでもどこでもまた何度でも、楽しいお花見ができるのだ。しかも、落語「長屋の花見」がひとひねりされていて、うれしかったな。ただ、第1作のようなハチャメチャな訳わかんない展開を期待したのだけれど、ちょっと予定調和だったかな(^^;)

●前作が「なつはサーフィン」かと思ったら、『なつはプール』だったので、ここでまた当たらない予想をしてみるのだが、次はやっぱり、『あきは キノコ狩り』でしょう! きっと(^^) いや、待てよ? 『あきは 運動会』かなぁ?
(2006年 4月26日 記)




















   
『こぶたのブルトン はるは おはなみ』
 中川ひろたか・作
 市居みか・絵
 (アリス館)


   
『こぶたのブルトン ふゆはスキー』
 中川ひろたか・作
 市居みか・絵
 (アリス館)


   
『こぶたのブルトン なつはプール』
 中川ひろたか・作
 市居みか・絵
 (アリス館)


『カール デパートへ行く』
アレクサンドラ・デイ 絵

(すえもりブックス)\1680(税込) 1994年 8月25日 初版発行


●じつは戌年の年男だったんだな、ぼくは(^^;;  しかも「動物占い」では「おおかみ」なもんだから、オオカミが登場する絵本なら何でも大好きときている。でも、イヌが主人公の絵本となると、なかなか難しい。もちろん、数々の名作絵本はある。『どろんこハリー』『マドレーヌといぬ』『アンガスとあひる』それからもちろん、ガブリエル・バンサンの『アンジュール』。「バム・ケロ」だって、犬の絵本かな? 大島妙子さんの『ジローとぼく』もいいね。

さて、「犬の絵本」ということで、ぼくが真っ先に思い浮かべた絵本は、『カール デパートへ行く』だ。これはなかなかの傑作絵本なのに、残念ながら世間ではあまり知られていない。表紙はグレイの地味なバックに、黒い大きな犬が「赤い手袋」をくわえて、緑色のマフラーをまいてすましている。絵も写実的で古めかしく、1950年代のアメリカの絵本かと思ったら、何と! アメリカでの初版は1989年というから驚きだ。文章は、最初のページと最後のページの「赤ちゃんの母親」のセリフのみ。あとは全て「絵だけで語る」

ぼくは、これぞ「絵本」だと思うぞ! この「赤い手袋」が、絵本の中盤で再び登場するのだが、これが大笑い(^^) このセンス、好きだなぁ。

この賢いロトワイラー犬「カール」の絵本は何冊もシリーズ化されていて、アメリカでは大人気なのだそうだが、日本で出ているのはこの『カール デパートへ行く』1冊のみ。まことに残念な話だ。


■縄文時代の遺跡からは、人間の墓にいっしょに埋葬された犬の骨が見つかるという。太古のむかしから、この日本でも犬は人間の友だちであり「家族の一員」であったようだ。以前、佐々木正美先生の講演でお聴きした話だが、いまの保育園や幼稚園では「ままごと遊び」が不人気なのだそうだ。女の子はおかあさん役を嫌がるし、男の子はお父さん役になっても何をやったらいいか分からず、ただボーッと突っ立っているだけ。結局はみんな競ってペットになりたがるという。現代日本は、さらなる「ペット大国」へと進化したのだろうか?

■大切な愛犬の死を扱った絵本『ずーとずっとだいすきだよ』ハンス・ウィルヘルム(評論社)は、小学1年生の国語の教科書にも載っていて「音読」が毎日の宿題となっているわが家の次男は、この「おはなし」が特に気に入って何度も何度も大きな声で読んでくれる。教科書では犬の名前がエルフィーではなく、言いやすい「エルフ」に変更されていたが。 同じく評論社から昨年の11月末に出た 『おじいちゃんのライカ』マッツ・ウォール/文、トード・ニグレン/絵、藤本朝巳/訳(評論社)もまた、愛犬の老いと死の意味を子供たちに伝える。こちらはスウェーデンの絵本。

晩秋、森のカバの木の葉が色づき、おじいちゃんの愛犬、ゴールデンレトリバー「ライカ」の毛の色と同じになる。この「オレンジ色」が絵本の中で最初から最後まで多用されていて、老いと死を暗示させる基調の色となっている。この絵本が『ずーとずっとだいすきだよ』よりもさらに先進的なのは、年老いて病気に侵され何も食べなくなった「ライカ」を、おじいちゃんは獣医さんの所へ連れて行って安楽死させるところだ。静かなトーンで進む絵本なだけに、これはショックだった。さすが北欧スウェーデンの絵本は進んでいる。(2006年 2月26日 記)

●昨日のよる9時、「今日はこれ読んで!」と、7歳の次男が持ってきた絵本は『家族なのに』なまこ/作(リトル・ドッグ・プレス)。かわいいキャラクター絵本のような体裁にすっかりだまされてしまったが、小さな捨て犬に突きつけられる過酷な現実をストレートに描いた、なかなかショッキングな内容の絵本だ。次男は、ただじっと黙って聞き入っていた。その横で「コロコロコミック」を読んでいた長男も、途中からマンガ本を閉じて聞いていたようで、しみじみこう言った。「家族なのにね、自分のこどもを捨てるようなもんだよね」ほんとうにそのとおりさ。犬を飼うということは、カブトムシの飼育とはちょっと、いやずいぶん異なる。伊勢英子さんの『グレイがまってるから』3部作や、馳星周さんの『軽井沢日記』に登場する「愛犬マージ」のこととかを読むと、病気の老犬介護を当たり前ののこととして懸命に続ける飼い主の姿に心を打たれる。 「だって、家族なんだから当然でしょう?」本を読みながら、彼らはそう言っているように思えてならなかった。

『家族なのに』は、もともと「ウェブ絵本」として登場し、ネット上で話題になっていたものだ。こちらで、そのオリジナルを見ることができる。データ読み込みにかなり時間がかかるけれども、ちょっとガマンして待ってみてください。でも、何か問題があって現在はうまくネット上では見られないみたい。ごめんなさいね。ひとつ、個人的な願いがあるのだけれど。もし、『家族なのに』を読んで涙した人が、もうひとつの「捨て犬の物語」『アンジュール』ガブリエル・バンサン(BL出版)を、手にとってくれることがあったら、どんなにか素晴らしいだろう。そうして、絵本の持つ底知れぬ力に気付いてくれたら、どんなにかいいだろう。そう思ってしまうのだ。

■【リトル・ドッグ・プレス】が出している「犬の絵本」で、ぼくが一番好きなのは『ねぇ. どこいくの〜?』だ。脳天気で底抜けに明るく、それでいて画面の隅々まで細かくよく書き込まれた絵。作者の絵筆が繰り出す線や色彩の伸びやかな躍動感! つぎつぎと読者の予想をくつがえす場面展開に「あはは!」と思わず大笑い。ぼくが何よりも好きなのは、最後の場面だ。犬たちの肛門が、ちょっぴり遠慮がちに、でもしっかりと書き込まれていること。これだけ肛門が並ぶと圧巻だね(^^)

(2006年 3月23日 追記)
   
『カールデパートへ行く』
 アレクサンドラ・デイ
 
  (すえもりブックス)



   
『おじいちゃんのライカ』
 マッツ・ウォール/文
 トード・ニグレン/絵
 藤本朝巳    /訳
  (評論社)


      
『家族なのに』
 なまこ/作
 (リトル・ドッグ・プレス)



   
『ねぇ. どこいくの〜?』
 かべやふよう/作
  (リトル・ドッグ・プレス)





















『でておいで、ねずみくん』
ロバート・クラウス/文、ホセ・アルエゴとアリアンヌ・デューイ/絵、まさきるりこ/訳

(アリス館)¥1400 (税別) 2005年 5月25日 初版発行


ホセ・アルエゴアリアンヌ・デューイが描く絵本が好きだ。初めて目にしたのは『ランパンパン』(評論社)だった。「さぁ、王様と戦いだ! ランパンパン、ランパンパン、ランパンパンパンパン」と、NHK教育で川平慈英が調子よく歌っているのを息子たちがテレビで見た日以来、毎日毎日子供たちがくり返し歌う、そのフレーズがぼくの耳にもこびりついて離れなくなってしまったのだ。

直ちに図書館から借りてきた「その絵本」を見ると、カラフルでソフトな色彩を駆使した水彩画で、コミカルに細かく絵が書き込まれている。ただ、この絵本の中で最も印象的だったのは、主人公のクロドリが、常に目だけ笑っていないことだった。復讐に燃える不気味な意気込みが感じられる目だ。これは凄い描き手だ、と直感した。

最近では『すえっこおおかみ』が、とってもよかった。絵に不思議な躍動感があるんだよね、いつも。でも、ホセ・アルエゴアリアンヌ・デューイが最良のコンビネーションを組めるのは、ロバート・クラウスしかいないだろう。『オリバーくん』(ほるぷ出版)に『おそざきのレオ』(あすなろ書房)、それから『はやおきミルトン』(ほるぷ出版)。テキストはみんなロバート・クラウスだ。

ロバート・クラウスはアメリカの漫画家で、長年、ハイブロウな雑誌「ニューヨーカー」に漫画を描いてきた人だ。同じく「ニューヨーカー」に漫画を描いていた、彼の大親友でもあるウィリアム・スタイグに絵本を描くことを強くすすめたのが、ロバート・クラウス。つまりは、そういうワケで傑作『みにくいシュレック』がこの世に存在することになったのだった。

ところで、この夏前に出た『でておいで、ねずみくん』も、テキストを書いているのはロバート・クラウス。トムとジェリーみたいな話だが、鮮やかな兄弟愛がしみじみいいじゃないか! でも、カラフルでオシャレな敵役のネコの目は、決して笑っていないのだった(^^;;
(2005年 9月23日 記)






   
『でておいで、ねずみくん』
 ロバート・クラウス/文
 ホセ・アルエゴとアリアンヌ・デューイ/絵
 まさきるりこ/訳
 (アリス館)


   
『おそざきのレオ』
 ロバート・クラウス/文
 ホセ・アルエゴとアリアンヌ・デューイ/絵
 
  (あすなろ書房)


   
『オリバーくん』
 ロバート・クラウス/文
 ホセ・アルエゴとアリアンヌ・デューイ/絵

  (ほるぷ出版)


『1,2,3』 『あか あお きいろ』
タナ・ホーバン・写真

(グランまま社)各¥650 (税別) 2005年 6月25日 新装版発行


赤ちゃん絵本というジャンルはなかなかに難しい。ブックスタート事業は全国的な広がりをみせている。でも、赤ちゃん絵本て、何なんだろう?

乳児(0歳児)にとっての「絵本」はおもちゃだ。彼らは持てる「五感」をフルに使って「絵本」と対峙する。例えば、彼は2m先に絵本を発見する。たったった、ハイハイで直進して目標物を片手で掴み「よっこらしょ」と座り直す。そうして今度は小さな両手で絵本をしっかり持って、ちょっとながめたかと思うと、いきなり「がぶり」と、がぶりつく。赤ちゃんの口で「ちゅうちゅう」吸われた絵本はもう「よだれ」でべっとべと。見て、触って、嗅いで、味わって。そこに、おかあさんのやさしい声が聞こえる。こうやって、彼らは絵本というものを楽しんでいるのではないか?

●とすると、赤ちゃん絵本の条件が少しだけ見えてくる

1)赤ちゃんの視覚に訴える「原色系」と黒い輪郭のハッキリした形の絵
2)赤ちゃんの小さな手に収まるサイズの正方形の絵本
3)本の角は丸みを持たせてあって、赤ちゃんに危なくない
4)ボードブックと呼ばれる「厚紙」で作られた絵本であること
5)口に入れてなめても安全なインクで印刷されている
6)赤ちゃん絵本とは言え、デザイン、センスが洗練されていて「ホンモノ」であること
7)言うなれば、スイスのネフ社が作る、あの「木のパズル」が理想だ
(2005年 8月08日 記)

◆アメリカの女流写真家タナ・ホーバンの、この2冊の絵本は、これらの条件をほぼ満たしている。(1)以外はね。鮮やかな色彩とシンプルな形を黒色で太く縁取りされた「ブルーナの絵本」を思い描いていただくと、タナ・ホーバンの「この絵本」は、その対極に位置するように思う。写真絵本だから当然なのだが、白いバックに赤ちゃんの身近にあるいろんな物が被写体となっていて、それがちょうど「多色刷りの版画」の、最後の黒色を刷り重ねる前の感じとでも言ったらいいか、黒でビシッと画面を引き締めることなく、なんとなく境界があいまいな感じで残されているのだ。それが何ともいい。

例えば、『あか あお きいろ』の中の●GRAY(はいいろ)のページ。写っているのは1本の鳥の羽だ。先端は黒で、根もとは白。その中間はグラデーションとなってさまざまな「はいいろ」があることが、一目見て理解できる。これは凄いと思った。それから『1, 2, 3』の「5」のページには、赤ちゃんの左手が写っている。これを見た赤ちゃんはたぶん、自分の手を重ねてみることだろう。「10」のページは、かわいい赤ちゃんの両足の指が写っている。おかあさんはきっと「ほら!○○ちゃんのあんよとおんなじよ」と言いながら、赤ちゃんに自分の足と絵本の写真を並べて見せることだろう。赤ちゃん自身の指に目を向けさせるなんて、ちょっと思いつかないよな。

これはなかなかに奥が深い「ファーストブック」だ。(2005年 8月09日 記)
   
『1,2,3』
 タナ・ホーバン・写真
  (グランまま社)


   
『あか あお きろ』
 タナ・ホーバン・写真
  (グランまま社)












『ハルばぁちゃんの手』
山中恒・文、木下晋・絵

(福音館書店)¥1500 (税別) 2005年 6月30日 初版発行


●ちょうど昔のLPレコードのジャケット・サイズに近い 29 × 31cm というかなり大型の絵本を、福音館書店はこのところ次々と送り出してくる。しかも、『かえるの平家ものがたり』といい『鹿よ おれの兄弟よ』といい、超力作の傑作ばかりだ。

この『ハルばあちゃんの手』も、同じサイズ 29 × 31cm の大型絵本だ。福音館としても、きっとかなりの自信作であるに違いない。でも、この絵本には『鹿よ おれの兄弟よ』のような鮮やかな色彩はない。鉛筆で丁寧に描かれたモノクロの絵本なのだ。ちょうど、今年生誕100年を迎える映画監督成瀬巳喜男のモノクロ映画の印象とでも言ったらいいか……(成瀬巳喜男はこんな大胆なアップは使用しなかったが、女の一生を描かせたら天下一品という意味では、小津安二郎よりもやっぱり成瀬巳喜男だと思うぞ)

画家の木下晋氏は、昨年の秋に駒ヶ根高原美術館で個展を開いた。鉛筆1本だけで(本当は、9H〜9Bの20種類の鉛筆を使っているのだが)老人の顔に刻まれた「しわ」の1本1本まで超リアルに表現する人だ(ぼくは観にいかなかったのだが、ほんと失敗だったな。行けばよかった)鉛筆画と言っても、いわゆるデッサン画とはぜんぜん違う。彼の描き方の詳細はここに載っている「木下晋氏の講演」を読まれたし。この画家に絵本を描かせようと考えた福音館の編集者はほんと凄いね。

この絵本では、左手の中指の付け根にある二つの黒子を記号として、戦後60年を迎えるこの日本の、その最も大変だった激動の昭和を必死に生き抜いてきた「ひとりの女性」の長い人生が語られる。富山出身の画家だからだろうか、ラストシーンでこの老婆が踊るのはおわら風の盆だ。読み終わって、なんだか胡弓の音色が聞こえてくるような不思議な余韻がした。

●ぼくの母親は、この8月で77歳になる。昭和3年8月21日生まれの母は、敗戦の8月15日にまだ16歳の女学生だった。その前年の8月、伊那高女4年生 270名の学友とともに学徒動員され、8ヶ月間にわたり名古屋の軍需工場で零戦を組み立てていた。冬になると空襲は日々激しさを増し、名古屋を大きな地震も襲った。それはそれは大変な毎日だったそうだ。先だって朝日新聞長野地方版に「その時のはなし」が特集記事になって載った。まだ暫くはリンクが生きていると思う。(2005年 7月26日 記 7月28日改変)
   
『ハルばぁちゃんの手』
 山中恒・文
 木下晋・絵
   (福音館書店)




















●前回の「おすすめ」絵本 は……

『WHERE THE WILD THINGS ARE』『いまは昔むかしは今(3)』『それは すごいな りっぱだね!』『絵本であそぼ!』『歌う悪霊』『サーカスがやってきた』『動くパズル』『こぶたのブルトン ふゆはスキー』ほか

●前々回の「おすすめ」絵本 は……

『へっこきあねさ』『ねぇねぇ』『なんでしょなんでしょ』『一まいの絵』『ともだちになろうよ』『なりました』『パパはジョニーっていうんだ』『ヴァージニア・リー・バートンの素顔』『マイク・マリガンとスチームショベル』『わゴムはどのくらいのびるかしら?』ほか

●前々々回の「おすすめ」絵本 は……

『えほん北緯38度線』『なにたべてるの?』『アルファベット』『わにわにのおふろ』『自分が好きになっていく』『ライオンのよいいちにち』ほか

●前々々々回の「おすすめ」絵本 は……

『聖なる夜に』『地面の下のいきもの』『うみのむにゃむにゃ』『ザスーラ』『はっぴぃさん』『みなみのしまのプトゥ』『おまたせクッキー』ほか

●前々々々々回の「おすすめ」絵本 は……

『はくちょう』『視覚ミステリー絵本』『ダーナ』『コッコさんとあめふり』『こどもザイレン』『さるのせんせいとへびのかんごふさん』『中川ひろたかグラフィティ』ほか

●前々々々々々回の「おすすめ」絵本 は……

『狂人の太鼓』『ウエスト・ウイング』『スモウマン』『かようびのよる』『アフリカの森の日々』『はつてんじん』『世界昆虫記』『やまあらしぼうやのクリスマス』『絵本の作家たち(1)』『絵本を読んでみる』ほか

●前々々々々々々回の「おすすめ」絵本 は……

『冥途』『クレーン男』『とうだいのひまわり』『ナヌークの贈り物』『ねぎぼうずのあさたろう』『かちかちやま』ほか



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