今月のこの一曲

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北原こどもクリニック  



  今月 の この一曲


  ●最近の「個人的な」お気に入りの音楽に関して
  (読書に関しては日記のほうにに書くことにしました。すみません(^^;;)

  ● 今月の「この一曲」(その1)
   (ニーナ・シモン、エリス・レジーナ、森山威男、小坂忠、綾戸智絵、
    波多野睦美 &つのだたかし、押尾コータロー、イズラエル・カマカヴィヴォオレ、ほか)

  ● 今月の「この一曲」(最新版)へ



『 The Very Best of John Coltrane 』

ジョン・コルトレーン(ts & ss)  マッコイ・タイナー(p)
ジミー・ギャリソン(b) エルビン・ジョーンズ(ds)
(ユニバーサル インターナショナル/UCCI3002)
(2001年09月21日発売)

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追悼 ジャズ・ドラムの神様:エルビン・ジョーンズ!
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●去る5月18日、偉大なるジャズ・ドラマー、エルビン・ジョーンズが永眠した。享年76。ジャズ・ドラマーで一番好きなのは、もちろん森山威男だけれど、エルビンはその次に好きなドラマーだった。

スタタタッ・ドドドン・がっしゃーんと、複雑なポリリズムで「字あまり」のようなドラミングで叩くんだけれど、じっと聴いていると、まるで西アフリカの海岸から大西洋を渡ってやってきた「偏西風に吹かれた荒波」のように、大きく・ゆったりと「音」が「うねる」のだ。それが何よりもの快感!

そんなエルビン・ジョーンズの魅力が最大限に引き出されたCDは、やっぱり、1960年代にインパルス・レーベルに録音された「ジョン・コルトレーン・カルテット」の演奏に違いない。当時、不動のレギュラー・カルテットで絶頂期を迎えていたコルトレーンの最大の貢献者である、エルビン・ジョーンズのドラムスの音で、ぼくが特に好きなのは彼のシンバル・ワークだ。硬質で乾いたシンバルが「カンカン・カカンカ・カカンカ・カンカ」と、絶妙にカルテット全体をリードする『至上の愛』1曲目。それから、『クレッセント』のタイトル曲で、コルトレーンがゆったりテーマを奏でたあと、ベースとドラムスがテンポをあげてリズムを刻み出すのだが、その時のエルビンのシンバルが、とにかくすばらしい。

この2曲を、同じCDで聴くことができるのは、たぶんこの『 The Very Best of John Coltrane 』しかないと思う。このCDには、ほかにもいろいろと聞き所があって、エリック・ドルフィーがバス・クラリネットでソロをとる「ネイマ」とか、今までまったく未発表だった音源の「インプレッションズ」とか。コルトーレーンのコンピレーションCDはいっぱい出ているけれど、このCDほど硬派で正統派の「正真正銘のベスト盤」を、ぼくは他に知らない。

ただ残念なのは、ぼくが大好きな「マイ・フェイバリット・シングス」で収録されているのは、ドラムスがエルビンではなくて、ロイ・ヘインズであることだ。でも、これは仕方ない。エルビン・ジョーンズは、1963年の5月〜8月まで、麻薬治療のためにレキシントンの国立精神病院治療研究センターに入院していたため、彼が参加したバージョンは、インパルス・レーベルには残されていないのだ。

(2004年 5月21日記) つづく

コルトレーン4の頂点は『至上の愛』ということになっていますが、ぼくはその後に録音された『トランディション』『クレッセント』『サンシップ』の3枚のほうが聴き応えがあると思っています。4人のカルテットの完全調和をあえて崩して、コルトレーン1人だけが我慢できずにフリーの世界へ飛び出そうとするのを、メンバーのマッコイ・タイナーとエルビン・ジョーンズが必至で追いかけようとして「やっぱ俺等はダメだ。あんたにはもうこれ以上ついて行けん!」という不協和音が拡がるのです。でも、それがかえって異様な緊張感が醸し出している。まるで離婚間際の夫婦みたい。とにかくスゴイです。

●さて、彼がサイドメンで参加したレコードで有名なものには、トミー・フラナガン (p)の『オーバーシーズ』と『エクリプソ』があります。それから、ソニー・ロリンズ (ts)のピアノレス・トリオ『ヴィレッジ・バンガードの夜』でのエルビンも最高さ(^^)

でも、27年前から何度も何度も聴いてLP1枚聴き潰し、持ってるCDも現在2枚目なのが、このアート・ペッパー『ザ・トリップ』。ぼくが大学1年の夏に、生まれて初めて買ったジャズのレコードなんで、気合いを入れて繰り返し聴いた1枚。このCDに、ドラマーとして参加しているのがエルビン・ジョーンズ。2曲目の「A Song For Richard」と、5曲目の「The Summer Knows」でのエルビンのブラシによるバッキングが聴きどころ。決して出しゃばらないのだけれど、気が付くとみんなをリードしている。

ジョージ・ケーブルスのピアノソロが、これまた、ちょいとモーダルな「トミー・フラナガン」していて、やっぱりエルビンとの相性がいいんだな。3曲目に収録された、ウッディ・ショウ(tp) の佳曲「Sweet Love Of Mine」では、軽快なピアノソロのバックで、エルビンはボサノバ・ビートなんだけれど重厚でアフリカンな太鼓の音を響かせます。このカルテットは、その翌年にニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・バンガード」に出演して、白熱のライヴ盤も残されていますが、個人的には、この『ザ・トリップ』が、アート・ペッパーのCDの中では今でも一番好きです。

★★次回は、古今亭志ん朝『堀の内・化物使い』を取り上げる予定です。(2004年 6月05日記)


 
『The Very Best of John Coltrane』
ジョン・コルトレーン(ts & ss)
マッコイ・タイナー(p)
エルビン・ジョーンズ(ds)
(ユニバーサル インターナショナル/UCCI3002)
(2001年09月21日発売)

 
『ザ・トリップ』
アート・ペッパー(as) ジョージ・ケイブルス(p)
エルビン・ジョーンズ(ds)
(1976/9/15,16 L.A.録音)
(ビクターエンタテインメント/VICJ-60765)
(2001年 5月23日 発売)

 


       

『 Joao Gilberto in Tokyo 』

ジョアン・ジルベルト(vo & guitar)
(UNIVERSAL/ UCCJ-1005)
       (2003年9月12日・東京国際フォーラム・ライヴ録音)

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当日のライヴ会場の「空気」までもが収録されている希有なCD
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●とにかく気むずかしくって、偏屈な奇人として有名なんだ、このボサノバの神様。ミュージック・マガジン増刊『ヴィヴァ!ボサノーヴァ』の中で、中村とうよう氏は『ゲッツ = ジルベルト』の紹介文にこんなことを書いている。
ルイ・カストロの怪著『ボサノヴァの歴史』によれば、まったくわかっていないゲッツに腹を立てたジョアン・ジルベルトは、お前はバカだ、と伝えるようジョビンに命令した。ジョビンは、彼はあなたと共演するのが夢だったと言ってると通訳した。ゲッツは、声の調子じゃ彼はそうは言ってないようだね、と「恥知らず語で」答えた。そのような状態で録音されたアルバムなのだ。ボサノーヴァがまるでわかってない、わかろうともしないアメリカのミュージシャンが、カネ儲け目当てにボサノーヴァを手がけた例が山ほどある、そのハシリとなった本盤。ボサノーヴァを巡る犯罪の世界遺産として永遠に保存される価値は大ありだ。(中略)

それにしても、と言うか、それだからこそ、と言うか、ここでのジョアン・ジルベルトの落ち着き払ったクールな歌とギターにはスゴ味さえ感じる。(p143)
ぼくは、そんなジョアン・ジルベルトが大好きなのだが、まさか来日するとは思わなかった。なんと今回が初来日。でも、実際にコンサートが始まるまで、ほんとにライヴがあるのかどうか、みな半信半疑だったんだって(^^;) 開演時間を1時間も過ぎてもまだ当人は現れないし、本人の希望で、コンサート会場の冷房は(演者の喉がやられるし、音もうるさいので)切られ、非常灯までもが消されたという。

そんな異様な緊張感に包まれた中、彼はギターを抱えてようやく登場し、静かな声で一言。

              「コンバンワ」
(つづく)

●ぼくは普段、CDは「ラジカセ」か「iPod」で聴いているのです。高級オーディオ・システムなんてありません(^^;)  そのちゃちなラジカセから、ジョアン・ジルベルトの恥ずかしそうな小さい声「コンバンワ」が聞こえてきた途端、その日、東京国際フォーラムの会場に居合わせた5000人の観客と同じ空気の中に、まさにぼくも居る感じがしたんですね。こういうライヴCDって、ほかには経験ないです。

この日の最初の曲は「チンチン・ポル・チンチン」。『イマージュの部屋』3曲目に収録されたこの曲が、ぼくは大好きなんだ。FM放送局の女子アナ泣かせのタイトルで「明日天気だ天気だ、饅頭面倒、寝起き中ホンダ!」と、何度聞いてもそう言っているように聞こえます(^^;) でも、マイクのセッティング不良でCDには収録されませんでした。残念!

そう言えば、7曲目に収録された「Wave」の出だしは「オチコンダ〜」でしたね。タモリ倶楽部の「空耳アワー」 のコーナーで取り上げられました。

『ジャズライフ 11月号/2003』 に載った、ライヴレポートを読むと、こんなことが書いてある。
 9月15日、ツアー3日目となる横浜公演も開演が1時間ほど遅れてスタート。(中略)また、「フェリシダージ(悲しみをさようなら)」のサビでは、客席のどこからともなく一緒に歌う声が聴こえてくる。まさにステージと客席が一体と化し、感動の二文字で私は一杯となった。そんや矢先にあの出来事は起こった。歌い終えたジョアンが、俯(うつむ)いたまま動かなくなってしまったのだ。終始鳴り止まない満場の拍手。それでも動かない。とうとうマネージャーらしき人物が出て来てジョアンの肩を叩く。それでも動かない。再び出て来たスタッフに肩を叩かれ、やっとギターを弾き始めるジョアン。その間なんと約30分……。なんともはや信じられない! (p57)
この、ジョアンのフリーズは、9月16日の最終日にも再びあったんですって。何故フリーズしてしまったのか? 1)唄いながら、あまりに心地よかったので眠ってしまった。 2)気分が悪く、息苦しくなって歌えなかった。 3)ブラジル本国でも、このような歓待を受けたことのないジョアンが、感極まって、神に感謝の祈りを捧げていた。アリガトウ・ジャパン! と。

ジョアン自身の話では、3)が正解みたいですが、<ここ>とか、<ここ>とか読むと、その真相は判りませんです。

9月12日の公演では、後半に、ボサノバ誕生の名曲「Chega de Saudade(想いあふれて)」「Desafinado」そうして「イパネマの娘」が唄われたのですが、DATのデジタルノイズのために、CDには収録されませんでした。ほんとうに残念です。しかたないので、手持ちの『ジョアン・ジルベルトの伝説』を取り出して、聴いているところです。このCDに収録されたオリジナルLP3枚が、昨年秋に復刻されるはずだったのですが、ジョアンとブラジル EMI のごたごた続きで、未だに発売されていません。
(2004年 4月07日 追記)


 
『ジョアン・ジルベルト
イン・トーキョー』
ジョアン・ジルベルト
(vo & guitar)
(UNIVERSAL/ UCCJ-1005)
(2004年 2月21日発売)

 
『イマージュの部屋』
ジョアン・ジルベルト
(Warner Bros./WPCR1135)
(1997年 5月25日 発売)

    
『THE LEGENDARY Joao Gilbert』
Joao Gilbert
(WORLD PACIFIC /CDP7 93891 2)
(1958-1961年 録音)
(1990年発売・輸入盤)
(現在廃盤)




































       

『 They Say It's Spring 』

『Give him the ooh la-la』 ブロッサム・ディアリー・唄
(Verve/ MG V-2081 輸入盤)
       (1998年 発売 ・1957年録音)

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        ■ もうすぐ春が……
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ブロッサム・ディアリーという不思議なジャズ・シンガーのことを、ぼくに初めて教えてくれたのは、大学で同級生になった柏木さんです。彼の家はたしか成城あたりにあって、学芸大付属出身なのですが、でも、どう見ても世田谷のおぼっちゃまには見えなかった(^^;) 山登りが好きで、ジャズが好きで、柏木さんの部屋を訪ねると、彼はいつもベッドに寝そべりながら、山之口貘かなんかの詩集を読んでいた。不思議な人でしたね。

彼の本棚を見上げれば、『死霊』のハードカバーが数冊並び、寺山修司の戯曲集と短歌集が、その右隣に何気なく立てかけてあった。でも大学ではラグビー部に所属し、バリバリの体育会系。よく判らない人でしたねぇ(^^;)

ぼくは「JAZZ の基礎」を、この柏木さんから学びました。彼は次々とLPレコードを持ってきては「ねぇ、きたはら〜。これ、いいよ。聴いてみなよ」と言っては、レコードを貸してくれたのです。そうしてぼくは、ソニー・ロリンズと、エリック・ドルフィー、それにビリー・ホリディの名前を憶えたのでした。

そんなある日、と言っても今から25年以上も前の話ですが、『Give him the ooh la-la』という、ジャズ・ヴォーカルのLPを聴かせてくれたのです。このブロッサム・ディアリーという人の歌声は、あまりに可愛娘ぶりっこのかまととヴォイスだったので、えぇ〜っ!、これが柏木さんの趣味なの〜?? って、すごくビックリしたことを覚えています。

でも、久しぶりで聴いてみると、このLPにはじつにいい曲がそろっていますね。 Like Someone in Loveとか、Between the Devil and the Deep Blue Sea とか。でも、なんと言ってもいい曲は、その次に収録されている、「They Say It's Spring 」です。「このうきうきした気分は、世間の人は春のせいというけれど、ほんとうはあなたのせいよ」という恋の唄。彼女は切ない乙女心を、しっとりと聴かせてくれます。

今年は春が早そうですね。もう雪はいらないな(^^;;


(2004年 3月03日記)


 
『Give him the ooh la-la』
ブロッサム・ディアリー
(Verve/ MG V-2081 輸入盤)
(1998年 発売 ・1957年録音)

 
『 Blossom Dearie for Cafe Apres-midi 』
ブロッサム・ディアリー
(UCCU-1002 /UNIVERSAL)
(2003年 3/26 発売)

 
       

『浪曲名人選(一) 二代目 広沢虎造』

『清水次郎長伝/ 石松代参・石松三十石船』口演:二代目 広沢虎造 三味線:森谷初江
(PONYCANYON/ FGS-101)

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浪曲も、こうして聴いてみるってぇと、案外面白いねぇ  ■
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●糸井重里さんが「最近、あんなに好きだったマンガが読めなくなった」と語っていますが、ぼくもまったく同じで、マンガが読めなくなってしまったのです。なんか細かい絵を追っていくと目が疲れて、ストーリーに集中できないのです。年のせいかなぁ(^^;)

さらに近頃では落語に惹かれておりまして、ホームセンターやディスカウントショップを廻っては、廉価版の落語のCDやテープを探す日々。そんな中、この二代目 広沢虎造の名演『清水次郎長伝/ 石松代参・石松三十石船』と出会いました。とうとう「浪曲のCD」なんて買うようになっちゃったよ(^^;;

広沢虎造の名前はね、知っていたんだ。ほら、絵本『ねぎぼうずの あさたろう』飯野和好・作絵(福音館書店)の最初のページに出てくるから。しかも、この『清水次郎長伝/ 石松代参・石松三十石船』は、二代目広沢虎造の傑作として有名で、浪曲なんて聴いたことないぼくだって「旅ぃ〜ゆけばぁ〜 駿河の国のぉ〜 茶の香りっ!」とか、「ようよう、お前さん。江戸っ子だってねぇ」「そうよ、神田の生まれよぉ」「食いねぇ食いねぇ、寿司食いねぇ」なんてフレーズは知っている。

でも、オリジナルを全編通して聴いたのはこれが初めて。浪曲ってさ、なんか泥臭いイメージあるじゃない。「玉川カルテット」とか。ところが、 広沢虎造は違うんだ。モダンで都会的で洗練されたしゃべりをしてる。粋で鯔背たぁ、こういう語りのことを言うんだね。感心しましたよ。それから、ストーリーもじつに巧みに組み立てられていて、もうちょっと聴きたいなぁ、というところで、「ちょうど時間となりました。ちょいと一息、またぁ〜後編ん〜〜」となるんだな。憎いね、ほんと。

(2004年 2月06日記)


 
『浪曲名人選(一) 二代目 広沢虎造』
二代目 広沢虎造
(PONYCANYON/ FGS-101)
(2000年 発売)

 
       

『 en concert a Paris / CD5枚組』

『パリ・コンサート』 ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン
(Ocora Records/Ocora C558658,558659,559072,559074,559073)

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20世紀最後に出現した、前世紀、最高の男性ヴォーカリスト
 ヌスラットのこと。
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●ぼくが大学生になった初めての夏、それは決して希望に満ちた明るい夏だったわけではない。今でも確かに記憶に残っているのは、暑い大学寮の「一人部屋」で、来る日も来る日も、人生で2度目に買ったジャズレコード(ちなみに、初めて買ったジャズレコードは、Art Peppre 「The Trip」 Contemporary Records)であるところの「My Favorite Things」 ジョン・コルトレーン(ts)をヘッドフォンで、ひとり聴いていたことだ。

このアトランティック盤は、後のライヴ盤と異なり、異様にテンポがゆっくりなのだけれど、かえってそれが中毒性を醸し出していて、だからこそ習慣性を帯びていたように思う。マッコイ・タイナーのピアノが延々と「ズンチャッチャ、ズズチャッチャ」と、3拍子を刻んで行くのですが、これがね、ものすごく気持ちいいんだ。

聴いていて「気持ちいい」っていう感覚は、大切だと思うんだよね。ファラオ・サンダースも、ディスコのダンスフロアで再発見されたんだから。ぼくが尊敬する橋本徹さんだって、そう言ってるでしょ。

■さて、ヌスラットの話。ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン は西パキスタンの生まれ。イスラムの国は、アルコールもポルノも厳禁でしょ。崩壊後のイラクはそうじゃないみたいだけど(^^;) だから、イスラムの人が「トリップ」するには、特別の仕掛けが必要だったワケね。それが音楽だったのです。はたして、素面で音楽を聴いているだけで「いける」のか? ぼくらはそう思っちゃうのですが、実際イスラムの人は、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの歌声を聴きながら「いっちゃう」んですよ。これホント。トランス状態になって痙攣する人もいるんですって。

でもね、ヌスラットの歌声は、イスラム教徒でなくても聴いていて気持ちいいんだ。基本的には、セックスと同じで、ゆっくり始まって、次第に激しくなって、歓喜の時があって、ゆっくり終わる。1曲で15〜30分近くもある、そんな感じの音楽です。ったって、どんな音楽だかイメージできないでしょうが(^^;;

ヌスラットが残した彼最高のパフォーマンスは、1985年と1988年にパリで録音されたライヴ盤です。現在バラ売りもされていますが、5枚組になって売られているのを、ぼくは購入しました。このコンサートを録画したビデオも存在するらしいのですが、ぼくは見たことはありません。ステージでは、男性10人が2列に胡座で座り、前列左端がヌスラット。伴奏楽器は、ハルモニウムという床に置いて弾くアコーディオンが2台と、太鼓(タブラ)だけ。あとは手拍子。ヌスラットの歌声に、call & response して他の男たちが合唱します。

▼ヌスラットはライヴパフォーマンスに長けた人で、その歌う仕草がすっごく面白いんだ。図書館へ行くと、ビデオ・コーナーに、たいてい『世界民族音楽大系』(日本ビクター)のシリーズがあると思うのですが、その「14巻」の巻頭で、ヌスラットの映像を見ることができます。これは、オススメだな。見てみてください。

ところで、ヌスラットは既にこの世には存在しません。糖尿病から糖尿病性腎症を合併して、腎不全で1997年に、まだ40代の若さで亡くなってしまったのです。彼の死後、パキスタンのスタジオで発見されたテープを編集したCDが『Dust to Gold 』で、死期が近いと感じた彼は、曲の最初からいきなし全速力で突っ走るのです。これは壮絶ですよ。

(2003年12月10日記)


      
『Nusrat Fateh Ali Khan in concert in Paris Vol.1,2,3,4,5 』
Nusrat Fateh Ali Khan & party
(Ocora Records/Ocora C558658,558659,559072,559074,559073)
(2000年 10月発売・輸入盤)

      
『Dust to Gold 』
Nusrat Fateh Ali Khan & party
(Realworld / CDRW 86 7243 8 49178 21)
(2000年 輸入盤)



























       

『 You've Got To Have Freedom 』

『ジャーニー・トゥー・ザ・ワン』ファラオ・サンダース
(ビクターBSCP-30084)\2,200(税別)

『Meditation - Pharoah Sanders Selections Take 2 』ファラオ・サンダース
(ビクターBSCP30083)\2,400(税別)

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My Favorite Songs 〜 Very Best Records I've heard.  ■
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●例えば、自分の女房を人質に出してでさえ、失いたくないものが男にはある。たぶん、それは「自分のアイデンティティー」に関わる問題だからからだろうと思う。ぼくにとっての「それ」とは、 ファラオ・サンダース 「このレコード」のことかもしれない。

よく言う「無人島に持っていく1枚のレコード」ってヤツがあるでしょ。ぼくは迷わず(いや、たぶん(^^;)コレを選びます。

それほど、人生のある時期、一番大切にしていたアーティスト&レコードでありました。間違いなく。それがこの、 新宿西口「オザワレコード」で買った、2枚組輸入盤『Journey To The One』Pharoah Sanders( Theresa Records)。   

あれは、1980年代の初頭。いつものように新宿西口を出て、「オザワ」でジャズ・レコードを物色。それから地下道を潜って東口に向かいます。二幸ビル(今のアルタ)裏にある雑居ビルの1F「アカシア」 で、¥380の「ロールキャベツ定食」を食べて腹を満たしたあと、同じビルの狭い階段を上りはじめました。すると、3Fのジャズ喫茶「DIG」からピアノの音が聞こえてくるワケですよ、 ジョン・ヒックス のピアノが。もの凄くスイングして。

階段を駆け上がってドアを開けると、レイ・ドラモンドのベースが「ブンブンブンブン」と、地響きのように「ずんずん」おなかに振動してきます。そこに被さって、突然、ファラオ・サンダースの吹っ切れたサックスが咆吼しました。「パパラ、パパッパー、パパッ! パパラ、パパッパー!!」 って。これって、ものすごく気持ちいい!!

この曲が、『Journey To The One』(Side Three) 1曲目に収録された、かの名曲!『 You've Got To Have Freedom 』だったのです。

当時、ファラオ・サンダースって、ほとんど注目されていませんでした。23年前のことです。ぼくは、ごうを煮やして、「スイングジャーナル」に
投稿しました。それはこんな文章でした。(つづく)
(2003年10月14日 記)
■気分はファラオ・サンダース

ジャズを聴いていると、急に力が湧いてきて、何かしなきゃという気持ちになるとおっしゃったのは植草甚一氏であった。でも最近はそういうのが少ないんだよねぇと、わしは森山威男ばかり聴いておった。去年の夏のことだ。

そんなある日、相変わらずの新宿の人混みに驚きながら『DIG』の狭い階段を昇って行くと、熱い音がゆっくりとうねりながら降りてくる。実に久々の快感。

「おぉっ、なんだこれは」とかけ上がってみると、ファラオ・サンダースの新作『Journey To The One』。わしは驚いた。これがあのファラオ? 実に大らかに、ゆったりと吹いている。しかも力強く。何かスパッと吹っ切れた感じだ。

今までなんでコルトレーンはファラオなんか使ったんだろうと、わしは陰口をたたいていた。実際、彼はいつの間にかジャズ界から消されてしまっていた。でも一番悩んでいたのは彼自身だったんだな。

この春にでた「Rejoice」にはこんなことが書いてある。
「ジョー・ヘンダーソンみたいにもっとテクのあるヤツはいくらでもいただろうに、何で彼は俺なんかが良かったんだろうって、不思議に思ったよ。でも、彼には一度も聞いてみなかったな。なぜって、俺たち二人ともとても無口だったからさ。」

(後略)
『スイングジャーナル』1981年7月号より(なんだか、当時愛読していた椎名誠さんの文体のモロまねですねぇ(^^;;)
●そんなファラオだが、不思議なことにここへ来てにわかに活気づいてきた。先月と今月、インパルス時代の傑作3枚、テレサ時代の名盤『Journey To The One』を含む4枚が、国内盤でCD発売されたのだ。しかも、『Meditation - Pharoah Sanders Selections Take 2 』は、その「テレサレコード」のベスト盤になっていて、もちろん『 You've Got To Have Freedom 』も収録されています。紙ジャケのデザインもなかなかだし、このベスト盤はお買い得だな。(2003年10月20日追記)
 
『Journey To The One』
Pharoah Sanders
(Theresa Records/BSCP-30084)
(2003年9/26 発売)

 
『LIVE 』
Pharoah Sanders
(Evidence / ECD 22223-2)
(2003年 4月 輸入盤・初CD化!)

 
『Meditation 〜 Phaoah Sanders Selections TAKE2』
Pharoah Sanders
( Substance Records /BSCP-30083)
(2003年 9/26 発売)
             

『あそびうたがいっぱい』

詞・湯浅とんぼ 曲・中川ひろたか
うた・福尾野歩、中川ひろたか、田原恵美子、島筒英夫、中田佳彦、工藤崇、小町正
(SONG RECORDS /SR-0701)\2000(税込み)

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日本最初の保父さんは、今や、シンガー・ソング・絵本ライター  ■
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●あの伝説のバンド 「トラや帽子店」 のライヴを、ぼくは見たことがない。1998年4月1日で 「トラや」 は解散してしまったからだ(注:正確には、2000年4月の解散だが、実質の活動停止はこの時)

でも悔しいことに、いまだに 伝説 は語り継がれている。この信州の片田舎においてでさえ。一昨日、ぼくが園医をしている保育園で、おかあさん方に絵本の読み聞かせをして 『コップちゃん』 中川ひろたか・文、100%ORANGE・絵 (ブロンズ新社)を読んだら、園長先生がこう言ったんです。「中川さん、知ってるわよぉ。トラやのひとでしょ。伊那にもね、何度もコンサートに来てるのよぉ。」ですって。ホント悔しいぞ(^^;;

仕方ないので、CDを買って往時を忍ぶしかありません。CDは 『Live In Japan』 トラや帽子店(1993) と、それから 『世界中の子どもたちが』 (1988)

「おーいかばくん」「カメの遠足」「みんなともだち」「誰かが星を見ていた」「はじめの一歩」「ともだちになるために」「にじ」 などなど、恥ずかしながらぼくは、今までぜんぜん知らなくて、じつは最近になってみんな初めて聴いたんです(^^;;(でも、うちの子どもたちは幼稚園で毎日歌っていて、よく知ってる曲なんですって。ちっとも知らなかった。)

で、コレは凄いな! ってびっくりしたんです。どの曲を聴いても、かわいた砂に水がしみ込むように、子どもたちの耳に入ったらすぐに、自然と忘れられない曲になっているんですから。いわば 聴いたとたんに既に「スタンダード」となっている 。作曲するのに作為や無理がないんですね、中川さんの曲には。できそうでできませんよ、そんなこと。簡単には。

そんな 中川ひろたか さんの記念すべき「デビュー盤」が、この 『あそびうたがいっぱい』 なのです。当初「カセットテープ」のみの発売で、A面にあそびうた、B面には「聞く歌」が収録されました。1983年5月のことです。中川ひろたか 初レコーディング

収録曲は、これまた 名曲ぞろい 。「いっぽんばしにほんばし」「トントントン」「チョットグットパー」「そっと」「ごんたさんちのいちろうくん」「ふうせん」「ぼくはかぜ」などなど。まだ若き 福尾野歩 さんのナレーションも楽しいし、20年も前の吹き込みなのに、今聴いてもぜんぜん古くさくない。そうして、どの曲もシンプルでおぼえやすい。 「そっと」 なんて短い歌なのに、涙が出るほどいい曲なんです。

今日も何気に車の中で口ずさんでいるんですよ、うちの次男が。 「ふうせん」 という歌。 『中川ひろたかグラフィティ』 中川ひろたか・著(旬報社)を読むと、こんなことが書いてある。
『いっぽんばし』

 この歌、いったい、いつつくったのかと昔の手帳を見てみたら、あった、あった。1978年4月16日につくってる。その日、よほど調子がよかったのか、全部で六曲つくっている。

 『ぼくはかぜ』『こぎつねコン』『そうっと』『チョットグットパ』『いっぽんばしにほんばし』『おばけのごんべえさん』この六曲。のちに、はじめての楽譜集『あそびうたがいっぱい』に収録されている歌ばかりだ。(p21)
中川さんは、 平成のフォスター を自称されていますが、まんざらウソではないと思うぞ(^^)

ところで、 絵本の読み聞かせ だけだと、子どもたちはすぐあきてしまいます。でも、 手遊び あそびうた は、保育園や幼稚園の先生の専売特許でして、今までぼくらは手を出せなかった。しかし、この 『あそびうたがいっぱい』 さえあれば、子どもたちに大受け間違いなしの 「あそびうた」 を、すぐ明日からでも、子どもたちの前でやって見せることができるぞ! だからこそ、このCDはオススメなのであります。

(2003年09月21日 記。 9月22日一部改定)
 
『あそびうたがいっぱい』
詞・湯浅とんぼ、曲・中川ひろたか
(SONG RECORDS /SR-0701)
(1995年5月発売)



























「魂のハーモニカ奏者・ウーゴ・ディアス」

『魂のタンゴ・ハーモニカ ブエノスアイレスのウーゴ・ディアス』
(ビクターVICP-60902-3)\4100(税別)
『ハーモニカの鬼才〜フォルクローレ名曲集』 ウーゴ・ディアス
(ビクターVICP-62181-2)\4000(税別)

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■  もう一人のハーモニカおじさんは、アル中だった(^^;;;  ■
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●JAZZ界の ハーモニカおじさん として有名な トゥーツ・シールマンス には 『Affinity 』 という、 ビル・エバンス(p) とのコラボレーションも見事な名盤があります。ブラジルの歌姫 エリス・レジーナ との 「共演盤」 もあります。

あと、ハーモニカの上手なミュージシャンといえば、 友部正人 ボブ・デュラン ぐらいしか、ぼくは知りませんでした。

ところが、女流映画監督 サリー・ポッター (ハリー・ポッターではない(^^;)の『オルランド』に続く劇場公開用映画として製作された 『タンゴ・レッスン』 のオリジナル・サウンドトラックCDを購入して聴いてみたところ、冒頭で流れてきたのが、この ウーゴ・ディアス が奏でるハーモニカだったのです。曲は「悲しみのミロンガ」。

何て言うかなぁ、 森進一 ハーモニカで「おふくろさん」を演奏している感じ だったのです。たまげました。スゲーな、この人!

敬愛する音楽評論家の 黒田恭一 さんは、ウーゴ・ディアスのことを、 ハーモニカ界のパブロ・カザルス と呼んだのですね。それも凄いな(^^;) 森進一とパブロ・カザルスではえらい違いだ(^^;;

でも不思議と、ハーモニカとタンゴって、マッチするんですね。もちろん、フォルクローレにも。これにはビックリしました(^^) 現在、彼のCDは「2枚組」で 2種類 が入手可能です。どっちも、甲乙つけがたい出来のよさです。

(2003年09月20日 記)
 
『魂のタンゴ・ハーモニカ
ブエノスアイレスのウーゴ・ディアス』
ウーゴ・ディアス(ハーモニカ)
(ビクターエンタテインメント
VICP-60902-3/1999年12/08)

 
『ハーモニカの鬼才
フォルクローレ名曲集』
ウーゴ・ディアス(ハーモニカ)
(ビクターエンタテインメント
VICP-62181-2/2003年 2/05)

 
『タンゴ・レッスン
オリジナル・サウンドトラック』
Various Artists
(SONY RECORDS
SRCS 8461/1997年 10/22)



『LIVE Beautiful Songs』

大貫妙子・奥田民生・鈴木慶一・宮沢和史・矢野顕子
(東芝EMITOCT-24456・57)\3200(税別)

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■  本物のニューミュージック:大貫妙子、そして鈴木慶一  ■
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●このCD紹介コーナーは、できるだけ 「極私的・懐かしの名盤」ご紹介します みたいな感じにはしたくなかったので、いま現在、ぼくが一番よく聴いている 新譜CD を紹介するように心がけてきました(まぁ、どっちでも同じようなもんですが(^^;;)。でも今回は、3年近く前に出た 旧譜 のご紹介です。スミマセン(^^;)

じつは最近、近所にある新古書店の「中古CD」コーナーで、1200円で売られているこの2枚組CDを発見して買ってきたのでした。以来毎晩、愛聴しているのです、今夜も(^^;)

たしか、このCDが発売になった時、買おうかどうしようか悩んで、結局「TSUTAYA」でレンタルしてきて、MDに落としたのでした。でも最近はMDをほとんど聴かなくなってしまったので、このCDのことをすっかり忘れていたのです。でも、これはやっぱり名盤だよ。

いまの若い人は 奥田民生 か、 宮沢和史 のファンで、 矢野顕子 は知っているけど、後のふたりは知らない、といった人ばかりなんだろうけど、このCDで一番光っているのは、その 「あとの二人」 だったりするんだな、これが(^^)

「Sweet Bitter Candy」と「ニットキャップマン」でヴォーカルをとる 鈴木慶一 の飄々とした歌いっぷりの何とも言えない心地よさ。 大貫妙子 の 「凛とした」歌声と心に突き刺さるような歌詞に、 矢野顕子 のピアノがそっと寄り添う「横顔」と「突然の贈りもの」。

そうしてコンサートの終盤に合同で演奏されたのが、かの名曲 「塀のうえで」 。ぼくは、この曲のオリジナルが収録されたベルウッド原盤 『センチメンタル通り』 はちみつぱい のLPを持ってますが、 「塀のうえで」 は、いま聴いてもぜんぜん古臭くないんだ。歌詞もいいね。失恋の歌でこれほどカッコイイ歌を、ぼくは知らない。

CD収録曲の詳細については、こちらの 「J. Kimoto's Web Pages」 をごらんください。たしかに、 奥田民夫 が歌う 「ラーメンたべたい」 を聴くと、無性にラーメンが食べたくなるねぇ(^^;)

それから、このコンサートの企画立案の段階から関わった 糸井重里 さんの 「ほぼ日刊イトイ新聞」 に、当時の進行状況がドキュメントタッチで記録されていました。ぼくも、リアルタイムで体験したかったな。残念。この中の「読者のCDレビュー」では、最後に載っている もうりみはるさんの感想 が、一番このコンサートの雰囲気をよく表しているかな。実にうまい文章だと思います。

(2003年08月08日 記)
 
『 LIVE BeautifulSongs 』
大貫妙子・奥田民生・鈴木慶一・宮沢和史・矢野顕子
(東芝EMI /TOCT-24456・57 /2000年10月発売)




















『オクトーバー・ロード』

ジェイムス・テイラー(Sony Records / SICP 215)\24OO(税別)

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■  アメリカの良心:ジェイムス・テイラー  ■
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さとなお さんは、1961年生まれで、ぼくより3つ年下になるのですが、彼が高校・大学時代に聞いてきた音楽の傾向が、ぼくとすごく似通っていてビックリしてしまいます。その「さとなお」さんが最近書いたコラムに 「記憶に残る幕の内弁当はない」 というのがあるのですが、これ面白かったなあ。ぼくは共通一次の始まる直前に大学入試だったのですが、ぼくもしみじみ「幕の内弁当」だなぁと思いました(^^;)

そしたら、昨日たまたま読んでいた集英社のPR誌『青春と読書』3月号の、作家 大岡玲 氏の連載エッセイにこんなことが書いてあったんです。
 私は、1958年生まれだから、先行世代である、いわゆる団塊の人たちが”シビレ”ていたビートルズには、ちょっと間に合わなかった。(中略)で、結局、私の自発的音楽衝動は、70年前後にはじまるのだ。

 これもすでに記したが、幼いとき昼寝しながら聴いていた音楽は、モーツァルトのコンチェルトにストラビンスキーにチャーリー・ミンガスという、相互に関連があるような、まるでないようなゴッタ煮状態のものだった。

 そのせいか、以降、今にいたるまで、なにかこう、ひとつの音楽的傾向にはまるというか、たとえばモダンジャズ以外音楽ではない、みたいなカルト傾向が持てないでいる。要するに、日本の演歌をのぞいて、そのつど耳にガツンときたものをイイなぁ、と感じてしまう節操なしなのである。( p90『青春と読書』3月号 / 集英社)
こういう 節操なしの傾向 というのは、どうも、ぼくらの世代の特徴みたいなんですね(^^;) 大岡玲氏は、その後 プログレッシブ・ロック の「EL&P」にはまりつつ、サンタナやアース・ウインド&ファイアーのサウンドになじみを深め、でも、そういう彼のバックグラウンドは、じつは カーペンターズ であった、というくだりを読みながら、ぼくは苦笑してしまいました(^^;)

●さて、ぼく自身はどうだったか? といえば、高校生のころ一番よく聴いた外国のミュージシャンは、ビートルズでも、ボブ・デュランでもなくて、じつは ジェイムス・テイラー なんです。当時発売されたばかりのLP 『ゴリラ』 は、ほんとよく聴いたな。さとなおさんも書かれていますが、このレコードは全曲聴き応えがあります。今聴いてもぜんぜん古くさくない、ていうか、 ジェイムス・テイラー って、昔からぜんぜん変わってないんですね。

『ゴリラ』 の時もたしか、LPの帯には「あの sweet baby James が帰ってきた!」と書いてありましたが、この最新作 『オクトーバー・ロード』 を聴いて驚くのは、あれからさらに 27年 も経っているというのに、何の違和感もなく、じつに心地よく、あの馴れ親しんだ彼の歌声とアコースティックなサウンドが、そこにあったからです。
(2003年07月15日 記 もう少し続く)

●CDのライナー・ノーツを読んでみると、プロデューサーを務めたのは ラス・タイトルマン で、なんとあの 『ゴリラ』 の時のプロデューサーなんですね。道理でサウンド作りが似ているわけだ(^^)参加ミュージシャンも、ドラムスはあの 「STEPS」 で鳴らした、スティーヴ・ガットみたいな懐かしい顔もあれば、タイトル曲では ライ・クーダー マイケル・ブレッカー が参加するという豪華ラインナップ。

でも、考えてみると「帰ってきた」のは「ぼく」のほうで、ジェイムス・テイラーは、いつでもずっと、そこにいたんですね。 「君の友だち」 みたいに。髪の毛はずいぶん薄くなったけれど(^^;)

変わらないことは事実だけれど、じゃあ「懐かしのフォークソング大全集」みたいな音楽かというと、決してそうではありません。 ポスト 9.11 の曲とでもいえる、3曲目に収録された _ 0n The 4th Of July _ を聴いてみてください。これはほんとにイイ曲だ。このCDのベスト・トラックだとぼくは思います。ブッシュなんてクソ食らえ! なんて決して声高に言うわけではないんだけれど、ここには確かに、したたかなジェイムス・テイラーがいるのです。まさに、 アメリカの良心 として。この歌詞はホント「深い」ですぜ(^^;)

日本版 『オクトーバー・ロード』 には、ボーナス・トラックとして、マイケル・ブレッカーと共演して、2001年のグラミー賞を取った _ Don't Let Me Be Lonely Tonight _ が収録されていています。例えて言えば、 コルトレーン&ジョニ・ハートマン みたいな、全てを知り尽くした上での絶妙なコラボレーションが聴けるのです。この、 マイケル・ブレッカー 『Nearness Of You / The Ballad Book』 は、シロウトにはちょいと判らない、 大人の 味付けがなされていて、聴けば聴くほど味が出る「スルメ」のようなCDです。だって、piano : Herbie Hancock , guitar : Pat Metheny ,Bass : Charlie Haden,Drums : Jack Dejohnette,Vocal : James Taylor なんですよ! こんな豪華メンバーのCDなんて、他では聴けませんぜ。

でも、コドモには分からないだろうな、可哀想に……(^^;)

(2003年07月20日 記)


 
『October Road』
James Taylor
(SICP 215 /2002)












 
『Nearness Of You / The Ballad Book』
Michael Brecker
(Verve /2001)































『カフェ・アプレ・ミディ / Azalee , Vert』

Various Artists(BMGファンハウス - PVCP-8767, 8768)\2427(税別)

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■  カフェ・ミュージックの明日  ■
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●フランス語で 「午後のコーヒー」 という意味の、コンピレーションCDシリーズ 『カフェ・アプレ・ミディ』 は、レコード会社の横の壁を乗り越えて、おなじコンセプト、おなじアルバム・デザインで、すでに15作以上が発売されています。その仕掛け人は、 橋本徹 氏。

彼はインタビューに答えて、こんな発言をしています。
<橋本> タワーレコードの『bounce』っていうフリーマガジンの編集長をずっとやっていたんですが、それを辞めたタイミングで、やはりずっと音楽にかかわって生きていきたいと、当然のように思ったんです。でも、僕は、音楽制作ができるわけでもないし、楽器が弾けたり、譜面が読めたりするわけじゃない。だから「音楽を聴く」という楽しさを伝えていく仕事が僕の生業かな、と思ってましたね。 ただ、今までの切り口ではなくて、日常生活に根ざしたカタチで、そのときの気分とか、シチュエイションに応じた音楽提案をしていきたいなという気持ちが、漠然とあったんです。

<橋本>  東京は、音楽に関しては商品量も情報量も世界中でいちばん集積されているのに、それを自分の好きな環境や空間で聴く機会ってないんですよね。自分自身が家でオーディオルームを作って、すごくいいステレオを入れて聴くっていうタイプでもないので、それだったらみんなで、なんとなく会ったり、話したりしてる中で、自分の好きな音楽がちょっと流れてればいいなと思ったんです。そういうサロン的な場を作れたらいいな、っていうのが、カフェを始めたきっかけですね。
そう言う 橋本徹 氏の好みの音楽は何か? というと、ボサノバ、ブラジリアン・ミュージック、ウエストコースト・ジャズ、白人女性ジャズ・ボーカル、1970年代のソフト・ロック、ソウル・ミュージック、ヨーロッパのエセB級音楽、などです。

それはもう徹底していて、彼の好みの「はんちゅう」にない音楽は、一切無視されます。例えば、ぼくが大好きな 「スペイン語圏内の音楽」 (キューバ音楽やアルゼンチンの音楽)は、まったく登場しません。

でも、その徹底した こだわり には、ずいぶんと年季が入っているので、誰も文句は言えないんですね(^^;;   実際、 どこを切っても金太郎 的な『カフェ・アプレ・ミディ』のCDシリーズですが、一枚一枚聴き込むうちに、その特徴と微妙な違いが何となく判ってくるのです(^^;)

彼の一番の こだわり は、CDの最初の曲と、最後の曲を何にするか? ということに最も神経を使っていることに表れていると思います。最初と最後さえ決まれば、あとはCDの収録限界時間いっぱいを使って、曲の流れは自然にまかせられるからです。それから、CDに収録されている レコード・ジャケット が、最大25枚、掲載されているのですが、その中で、橋本徹氏が 最もお気に入りのCD 「まん中」 に載っていることに気が付きます。

例えば、 『Cafe Apres-midi /Marine』 の「まん中」は、 カルトーラ だし、 『Cafe Apres-midi /Roux』 の「まん中」は、 ジョアン・ジルベルト の大傑作 『イマージュの部屋』 だからです。

各レコード会社が持つ 「レーベル」 の違いによっても、微妙にCDの雰囲気は変わってきます。今回発売された、 Pヴァイン・レコード は、けっこう怪しげなレーベルなんで、1枚ではなく、2枚のCDに分割されての発売となりました。橋本氏は、今までは 1アーティスト・1曲 というコンセプトを崩さずにコンピレーションCDを製作してきたのですが、今回はどうも「その禁」を取っ払って、 1アーティスト・数曲 を、2枚のCDに分割して展開しているのでした。

今回、意外だったのは、そのことです。でも、それは 正解 だったのかもしれません。 「サンボア」 って、このCDで初めて聴いたアーティストですが、この男女デュオは 「絶品!」 ですぜ! 旦那(^^;;  この夏の、ぼくの定番になりそうです(^^)

(2003年06月07日 記)
 
『Cafe Apres-midi / Azalee』
Various Artists
(PVCP-8768 /2003)

 
『Cafe Apres-midi / Vert』
Various Artists
(PVCP-8767 /2003)




  ● 先月までの「この一曲」

   (ニーナ・シモン、エリス・レジーナ、森山威男、小坂忠、綾戸智絵、
    波多野睦美 &つのだたかし、押尾コータロー、イズラエル・カマカヴィヴォオレ、ほか)



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