『世界昆虫記 INSECTS ON EARTH』 今森光彦
(福音館書店)¥5000(税別)
1994年04月30日 初版第1刷発行 2000年07月05日 第8刷
●2002年の最後を飾る一冊は、ぼくの大好きな「この一冊」をご紹介しようと思います。
と言いましても、この本と出会ってから、じつはまだ半年しか経っていないのです(^^;;) あれは6月だったか7月だったか、大泉の「絵本の樹美術館」に行った時に、売店で絵本を物色していた長男(5歳) が興奮しながら一冊の本を抱えて来ました。「おとうさん、おとうさん、見て見て! スゴイよ、この本!」そう言いながら本を開いて見せてくれたのが、この「世界昆虫記」の110ページ「巨大な目玉の紋様の蛾の写真」だったのです。あまりの迫力に、ぼくは圧倒されました。
厚さ3cm、重さ2kgはあるかと思われる、片面がA4サイズの二周りは大きなこの本を受け取ったぼくは、まずは本を裏返し、値段を見ました。ご、\5,000! 財布には、あと千円札が3枚しか残っていないのを分かっていたので、その場は何とかつくろって息子を説得し家に帰り、TSUTAYA で注文し直して、8月末の息子の6歳の誕生日の日に「この本」をプレゼントしたのです。
「この本は図鑑ではありません。<絵本>です。物語があるのです。これぞ絵本の中の絵本!と言ってよい本だと僕は思いますね。」
絵本作家の川端誠さんは、この夏の「八ヶ岳絵本セミナー」での講演で『世界昆虫記』をこのように紹介されました。御意!ぼくは何度も肯きながら、川端誠さんが「この本」のことをとても大切にしていると知って、すごくうれしかったです。
世界5大陸に生息する昆虫たちを、20年に及ぶ緻密な取材の中から厳選されたベスト・ショットの中に収めた「めずらしい昆虫写真集」ではあるのですが、と同時に、その土地に暮らす人々の生活もしっかりカメラのアングルに収められていることが素晴らしい。
川端誠さんは言いました。「この少年と蝶の2ショットを見て下さい。この写真はそうそう簡単には撮れませんよ。だって、カメラのこちら側には今森光彦さんがいる訳ですから、まず少年と今森さんとが絶対的な信頼関係になければ、こんな写真は撮れません。」
さらにページをめくると、インドネシアのジャングルに花開く、世界一巨大な花「ラフレシア」が開花する連続写真が出てきます。そして、もう1ページめくると、花の中から外に向かって撮られた、何とも幻想的な見開き写真、これが凄い。川端さんのお話では、今森さんに現地同行したインドネシアの自然保護官 が、今森さんのタフな執着に根負けして、こう言ったのだそうです。「わかったよ、イマモリ。この花はお前にやるよ。切るなり分解するなり好きにしていいよ」で、この写真が撮れたというわけです(^^;)
珊瑚礁の島のとある1本の木で、蛍が集団で発光する熱帯のクリスマスツリー、ハナカマキリの不思議な擬態、きのこを栽培するハキリアリ。そして、信じられないようなサバクワタリバッタの群舞。これらの写真は、貴重な記録としてではなく、カメラのファインダーを覗きながら「センス・オブ・ワンダー」を体感している今森光彦さんの「ワクワク感」が読者としていっしょに共有できるシアワセに満ちた、何とも幸福な一冊なのであります。
息子は友達が遊びに来ると「ねぇねぇ、これ見てよ! スゴイでしょう?」と『世界昆虫記』の「例のページ」を開いては、友達に自慢しています。「プレステ」の新作ソフトを買うことを思えば、334ページもあるこの本は決して高くはないと思うのです。
(2002年 12月29日 記)
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『世界昆虫記』
今森光彦・著
(福音館書店)

『昆虫記』
今森光彦・著
(福音館書店)

『里山物語』
今森光彦・著
(新潮社)
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