T O P ご案内 おとうさんの絵本  読書&CD  Now & Then リンク

北原こどもクリニック  



  おとうさんが読む「絵本」


 ●おとうさん「が」読む絵本(その2) 平成14年12月〜平成15年4月に取り上げた絵本 


(その1)の「おすすめ」絵本 は?●  

「お父さんと読む絵本・最新版」 へもどる>

●「不気味な絵本」の特集!●


『狂人の太鼓』リンド・ウォード/作・絵            

(国書刊行会)¥2000(税別) 2002/10/10 初版第1刷発行


『ウエスト・ウイング』エドワード・ゴーリー/作・絵

(河出書房新社)¥1000(税別) 2002/11/30 初版第1刷発行


●この『狂人の太鼓』は、はたして「絵本」と呼んでいいのかどうか? でも、文章がまったくない 暗く不気味なタッチの 120枚の木版画だけで物語が構築されているので、確かに間違いなく「絵本」なのでしょう。

作者のリンド・ウォード(1905〜1985)は、アメリカの出版界では「特異な押絵画家」として定評のある版画作家です。『フランケンシュタイン』や、そしてあの恐怖小説の最高傑作、ジェイコブズ『猿の手』の押絵を描いているのが彼です。

そんな押絵画家が、ある企みをもって作った「文字のない小説」それが、この『狂人の太鼓』(1930年・作)なのだそうです。ところが、昨年末に噂に聞いた「この本」を手に入れて、ぼくは「5回」読み返してみましたが、正直いまだに何だかよく分からない(^^;;

<ストーリー>は、血に呪われた「アフリカの太鼓」を持ち帰った奴隷商人の一人息子の周辺で、関係者が次々と不慮の死をとげるという、なんとも不条理な物語なのです。文章はまったくないので、1枚1枚の版画を丹念にめくりながら、頭の中にさらにイメージを膨らませてゆかなければなりません。これって、けっこうしんどい作業です(^^;;

ネットで調べてみたら、なんと、この作業を「根気よく文章化した人」がいました! だいたいボクも解釈は同じなのですが、ただ「36枚目」の版画は、昆虫がデザインされた勲章が同封されているので、息子の論文が、昆虫学会で承認されたという手紙だと思います。それを何故か母親は封印してしまった。う〜ん、わからん。

「文字のない本」に言葉で評論を加えるヤボったさという言い訳で、「この本」に関する発言を拒む評論家の文章をいくつか読みましたが、それって、やっぱ卑怯なんじゃない?



●そこいくと、この『ウエスト・ウイング』 は、とても解り易い(^^;;。読みながら『狂人の太鼓』ほど不安にならなくてすむのです。と言いますのは、この本の表紙を見ただけで、なんだか懐かしくなってしまうからですね。ぼくは、今から8年前の3年間、八ヶ岳山麓にある「厚生連・富士見高原病院」の小児科勤務医でした。

当時、毎日「産科・小児科病棟」から北側の窓を眺めれば、この『ウエスト・ウイング』の表紙とそっくり同じ風景が「まさに」目の前にあったからです。それは、正木不如丘が大正14年に建てた富士見高原療養所・本館の建物でありまして、それから95年近く経つ今でも、その建物は「富士見高原病院」に、なんと現役で残っているんですね。1階は事務と医局と検査室。2階に上がると、当時の病室がただの物置として使われていたのですが、100年近く経つ建物というのは、それ自体が「生きもの」な訳です。

この元・富士見高原療養所本館の2階には、ふだん誰も足を踏み入れません。真っ昼間でも、行けば何となく「気配」を感じるからです。実際に「見た」という職員もいます。

幽霊屋敷の中でも、特別怖いのは、やはり廃墟になった病院とか、潰れたホテルなんじゃないでしょうか。スティーヴン・キングの『シャイニング』に登場する「オーバールック・ホテル」は、まさにその代表。長い廊下と、たくさんの部屋数。それぞれの部屋には、それぞれの歴史と思い入れがあって、語り尽くせない悲しい物語があるのでしょう。それがこの「絵本」なわけです。

われわれ読者は、意地悪なゴーリーが描いたそれぞれの絵を関連つけたり、意味を考えたりする必要はまったくありません。ちょうど長新太『ちへいせんのみえるところ』を読むときのように、ページをめくる毎に、ただ「でました!」と呟きながら、びっくりしたり、怖がったりすれば、それでよいのです(^^;;

この『ウエスト・ウイング』は、エドワード・ゴーリーの絵本の中でも、5指に入る傑作だと思いますよ。

●さて、オールズバーグの『ハリス・バーディックの謎』に言及しなければならないのですが、正直言って、それは不可能です(^^;;; 1枚1枚の「絵」には、まったく関連性はありません。モノクロの絵に添えられた、短い文章だけが頼りなのです。こうなると、われわれは無責任なオールズバーグを、ただただ恨むよりほかにないのですから……。

(2003年 4月21日 記)

   
『狂人の太鼓』
リンド・ウォード/作・絵
(国書刊行会)

    
『ウエスト・ウイング』
エドワード・ゴーリー/作・絵
(河出書房新社)


      
『ハリス・バーディックの謎』
C・W・オールズバーグ/作・絵
村上春樹/訳
(河出書房新社)



『3びきのぶたたち』デイヴィッド・ウィーズナー/作・絵 江國香織/訳 

(BL出版)¥1600(税別) 2002/10/15 第1刷発行 2003/01/20 第2刷発行


●松本パルコ6Fにある不思議な本屋「ヴィレッジ・バンガード」の絵本コーナーには、「ウィーズナーにはずれなし!」と書かれた手書きのポップが置かれています。これは本当にその通りで、ウィーズナーの絵本はどれもみな面白い。中でも代表作として有名なのが『かようびのよる』です。火曜日の夜8時ころ、無数のウシガエルが蓮の葉っぱに乗っかって空を飛ぶのです。

細密でリアルな絵のタッチは、オールズバーグと並び賞されることも多いのですが、オールズバーグがダークで、神秘的で、黒魔術的な世界を追い求めているのに対し、ウィーズナーの目指すところはぜんぜん違って、もっとポップで、アメリカンで、ナンセンス!(^^)

だいたい、夜の11時21分に牛乳とサンドイッチを食べる人がいるでしょうか? でも、いるんですねぇ。それはどうもウィーズナー本人みたいです(『かようびのよる』 参照)こんなに夜遅くに食べると、太りますよ!(^^;; 翌朝、彼はTVクルーのインタビューに対して雄弁に語っているみたいですが……

で、この『かようびのよる』の最終ページに確かにリンクしているのが、最新作の『3びきのぶたたち』なんですね。彼の処女作『フリーフォール』に登場した「ドラゴン」もまた、この最新作では重要な役どころとして再登場します。このあたり、作者の律儀さに笑ってしまいました(^^;;

この本は、その『かようびのよる』に続いて、2002年度の、作者2度目のコールデコット賞を受賞していて、高い評価が確定した絵本です。で、いくつかこの絵本の感想(*大変すぐれたものが多かったです)をウェブ上で読んだのですが、ぼくの当惑と同じ感想を抱いている人が誰もいないんで、不安になってしまいました。

http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2002/02b.htm#mehon
http://www2.kids-yokohama.or.jp/~yokohama/contents1/books/0301-3.html
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=2790

ぼくがこの絵本で何よりもビックリしたことは、中盤のまるまる2ページにわたって、何にも印刷されていない「真っ白なページ」が置かれていることです。以前、筒井康隆氏が月刊誌に「主人公の意識状態をそのまま原稿用紙に表現した」小説を連載中に、主人公が意識を失った場面を、何も印刷されていない空白のページで数ページに渡って表現したことがありましたが、あれは小説だったので、許された作者の行為だったのですが、はたして「絵本」で同じことをやってもいいものでしょうか?

絵本は、絵があってこそ「絵本」のはずなのです。それを「いきなし」放棄している。もちろん画面構成上の必要な処理ではあるのですが、でもこれはものすごいことだと思うのです。これは、絵本業界を震撼させるべく仕組んだ、 ウィーズナーの挑戦状だと思いました。

それから、この絵本の中で「おや… そこにいるのはだれ?」と、こちらをのぞき込んだ「ブタ」に発言させているのですが、主人公が絵本の読み手に向かっていきなり語りかけてくるのも、これまた珍しい。

絵本界の宮崎駿と呼ばれている(?)ウィーズナーは、何でもかんでも空を飛ばすことで有名ですが、この最新作でも、3びきのブタが紙飛行機に乗って、気持ちよさそうに空を飛ぶし、「おさかな」 『かようびのよる』のカエルみたいに飛んでいます。『セクター7』でも魚が空を飛ぶし、『1999年6月29日』では、無数の巨大な野菜が空に浮かびます。

個人的には、この『セクター7』『1999年6月29日』が一番のお気に入りです。
デイヴィッド・ウィーズナーのウェブサイトもあります。『かようびのよる』の製作過程のラフスケッチとか載っていて、たいへん興味深いです。

http://www.houghtonmifflinbooks.com/authors/wiesner/

(2003年 3月25日 記)



   
『3びきのぶたたち』
デイヴィッド・ウィーズナー/作・絵
江國香織/訳
(BL出版)


   
『かようびのよる』
デイヴィッド・ウィーズナー/作・絵
当麻ゆか・訳
(徳間書店)


       
『1999年 6月29日』
デイヴィッド・ウィーズナー/作・絵
江國香織/訳
(BL出版)


   
『セクター7』
デイヴィッド・ウィーズナー/作・絵
(BL出版)


   
『フリーフォール』
デイヴィッド・ウィーズナー/作・絵
(BL出版)


『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』 長谷川義史

(BL出版)  ¥1400(税別)  2000/07/20 第1刷発行


●前回、ヒトとチンパンジーとが「進化の隣人」であるという本を取り上げましたが、そのテーマにぴったしの絵本があることを思い出しました(^^) 
それが、この『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』長谷川義史です。

この絵本はスゴイです! まず絶対にちゃんと読み聞かせすることが不可能な絵本なんですよ。信じられますか? 何故読み聞かせできないのか。いい頃加減ならば読み聞かせできます。しかし、一語一句違えず正確に読み聞かせしなければならないとしたならば、この絵本を広げて見たことがある方なら、それが不可能であることの理由を解っていただけると思います。

幼稚園たんぽぽ組の5歳になる主人公が、時代を次々と「どんどんどんどん」さかのぼって行き、自分のご先祖様に巡り会いながら、自らのルーツを突きとめる、という何とも壮大な絵本なんでありますよ(^^;)

ご注目いただきたいのは、本の扉を開けた次の1ページ目 に描かれた、太い幹の1本の木です。よーく見ると、この木が「おおかた全てのページ」に登場するんですね。つまり、場所は移動せず「そのまま」で、時間だけが遡ってゆくという設定なんですね。さらに面白いのは、その場面場面で登場する人間は次々と入れ替わりながらでも同じDNAを引き継いでいるのだけれど、バックに描かれている「木」は、1本のおんなじ木である、ということです。

一人の人間の一生は、たかだか長く見積もっても「80年」です。でも、飯山の鍋倉山にすっくと立つブナの木とか、南洋の屋久島にそびえる屋久杉の中には、1本でそのまま何百年何千年も生き続けている木があるワケで、凄いことですよね。この絵本のページをどんどん、どんどんめくって行くと、おしまいに若葉の芽の絵が登場します。これが「あの木」の芽なんですよね。きっと。

さらに、ブックカバーの袖に描かれた絵を見ると、へその尾が、電話コードみたいに繋がっているんですよ。はじめて、このことに気づいた時は、何だかとってもうれしかったです(^^)

作者の長谷川義史さんは、以前から「イラストレーター」としてはかなり注目されていた方ですが(例えば『週刊文春』の室井滋が連載しているエッセイのイラストなど)絵本は「この本」が初めてだと思います。その長谷川さんの絵本が、どうも次々と出版されるらしいのです。年末には『スモウマン』が出版されました。天王寺界隈のこてこての大阪が画面いっぱいに表現されていて、これまた凄い絵本です。なにせ、真っ昼間からベロベロに酔っぱらって路上に「ゲロ」吐いて寝ているオッサンが詳細に描かれているんですよ。

さらには、相撲部屋の壁には「モンゴルには歩いて帰れない」とか、「オレたちは まっている 全日本プロレス」とか、思わず笑っちゃう標語が掲げられているんですね。1ページづつ、よーく絵を見てゆくと、細かいところに笑えるネタが満載なんです。長谷川さんの最新の絵本は『うえへまいりまぁす』 という「デパートの絵本」だそうですが、まだ見る前から期待しちゃいますね。なお『スモウマン』は、講談社・絵本通信のサイト の、「作家の部屋」バックナンバーの中の、中川ひろたかの部屋で、絵本の中味を見ることができますよ。
(2003年 2月22日 記)

■ところで、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』ですが、小学校から帰ってきたうちの息子が、この絵本をぺらぺらめくりながら「あっ! でんでんむし!!」って言ったんです。見ると、たしかにどのページにも「でんでんむし」がいる。これは今日までぜんぜん気がつかなかった(^^;;

主人公の「ぼく」と、それから「ねこ」がいっしょにタイムスリップするのは判っていたのだけれど、でんでんむしも時空を超えていたのです!

この絵本に関しては、けっこう自信があったんだけれど、やっぱ、子どもにはぜんぜん敵わないなぁ(^^;)
(2003年 11月06日 追記)
      
『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』
長谷川義史・作絵
(BL出版)


      
『スモウマン』
中川ひろたか・文
長谷川義史・絵
(講談社)























『進化の隣人ヒトとチンパンジー』  松沢哲郎

(岩波新書)¥740(税別)   2002年12月20日 初版第1刷発行


●昨年の夏、名古屋で開催された外来小児科学会の「市民公開講座」で、京都大学霊長類研究所教授・松沢哲郎先生の「おかあさんになったアイ」という講演を聴いてきました。これがとても面白かった。まずびっくりしたのは、松沢先生はチンパンジーのことを彼・彼女、男性・女性、一人・二人というふうに、まるで人間に接するのと同様に尊敬と敬愛の眼差しで、愛情を込めて表現していたことです。

ヒトもチンパンジーも、尻尾のない「Ape:類人猿」の仲間で、尻尾があるサル「Monkey」とは系統的にはかなり違うのだそうです。そしてヒトとチンパンジーの遺伝子の違いはわずか1.2% しかないんですって! さらには、ゴリラとチンパンジー、ヒトとチンパンジーとで比較すると、分子生物学的には、ゴリラは別系統 で、「ヒトとチンパンジー」こそ遺伝的にも真の隣人であるというのですから驚きです。そういう訳で、チンパンジーは、人間の心の進化を辿れる生きた化石なのだと、松沢先生はおっしゃいました。

講演では、文字や数字を理解することで有名なチンパンジー「アイ」が、人工授精で妊娠・出産しアユム君を子育てする様子が紹介されましたが、時間がなく「さわり」の話しか聞けなくて、たいへん残念でした。そしたら、その時の内容をもう少し詳しく突っ込んで語っているこの本『進化の隣人 ヒトとチンパンジー』が、岩波新書の新刊として出版されたのです。

この本は「へたな子育て指南本」よりもよっぽどためになる!そう断言してもよいでしょう。だって、人間も500万年前までさかのぼれば、現在のチンパンジーと同じ子育てをしていたはずなのですから、子育ての原点に返れ!というワケなのです(^^;)

チンパンジーの赤ちゃんは、生まれてから3年半くらいまで母親の母乳を吸って育ちます。その間、母親の生理は止まって排卵はないので妊娠はせず、子育てに専念できるわけです。さらに、チンパンジーの場合、生後の3カ月間は、ずうっとおかあさんが子どもを抱き続けています。子どもの側からいえば、昼も夜も絶えずおかあさんにしがみついていて、しがみつくと言っても、腕を広げて、母親のお腹のあたりの毛をつかんでぶら下がるのですが、足の力はまだ弱いので自力ではつかまっていられません。そこで母親はだいたいいつも子どもに片手を添えていて、子どもはしがみつき、母親が手を添えて抱きしめる、そういう形で親子が一緒にいるわけです。

チンパンジーの教育・学習の仕方が、これまた「なるほど!」なのですよ。

親が手本を示す。子どもはそれを長い間、見続ける。子どもの側に親をまねたいという強烈な動機づけがある。それを親は寛容に受け止め子どもをつねに見守る。それがチンパンジーの教育です。(p55)

アイは文字や数字を学びました。「どうやって教えるのですか」とよく聞かれます。(中略)一般的にいえる教授法の要点は3つあると思います。

第一は、直後のフィードバックです。正しいことをしたときに、「そうだ。すばらしい。よくやった」とほめる。それがとてもたいせつです。あとから「さっきのはよかったよ」ではだめなのです。

第二は、その基準がふらつかない。(中略)

第三が、正のフィードバックです。これは負のフィードバックに対することばです。正のフィードバックというのは、「そうだ。すばらしい」と、ほめてほめてほめ倒すやり方といえるでしょう。それが有効です。(p162)
この本の最初と最後に、ターザンにあこがれてアフリカに渡り、1960年からずっとチンパンジーの研究を続けてきたイギリス人女性、ジェーン・グドールさんの話がでてきます。彼女は現在第一線の研究活動からは退き、世界各地を講演旅行しながら、チンパンジーが暮らすアフリカの森が、現在どんどん伐採されていて、人類の隣人が今、生存の危機にに瀕していることを訴えて歩いているのです。

昨年の11月には来日され、クレヨンハウスの月刊誌『クーヨン・2月号』の巻頭に、彼女のインタビュー記事が載っています。
グドールさんの来日に合わせて、BL出版からは『アフリカの森の日々 私の愛したチンパンジー』が出版されました。彼女の日本語の「ホームページ」 があります。それから、チンパンジーのアイのサイトもあります。京都大学霊長類研究所のHPなのですが、写真も豊富かつ更新も頻繁で、たいへん内容が濃いサイトです。
(2003年 2月01日 記)

  
『進化の隣人ヒトとチンパンジー』
松沢哲郎・著
(岩波新書)



『アフリカの森の日々』
ジェーン・グドール著
松沢哲郎・監修
(BL出版)























『落語絵本 はつてんじん』  川端誠

(クレヨンハウス)¥1165(税別)   1996年12月 初版第1刷発行 
             2002年04月 第9刷


●もうすっかりお正月気分もぬけてしまった今日この頃ですが、クリスマスの絵本に続いて「季節もの」の定番、「お正月絵本」の代表的傑作『はつてんじん』川端誠(クレヨンハウス) を今晩はご紹介いたします。

ぼくはこの絵本が大好きです。なぜって、父親が主人公だからです。この絵本こそ、ぜひ、お父さんに読んでもらいたい! つねづね僕はそう思っているのでした。親子って不思議と似てるんですよね。子どもは父親の背中を見て育つ、よく そう言われます。実際、子どもが生きてゆく上では「とりあえず人まねすること」が無難な選択になるわけだけれども、目の前にある「人生のお手本」はというと、それは自分の父親であり母親であるわけです。だからこそ、子どもは親の行動をつぶさに観察していて、それを真似るのです。

そういう訳で「親子が似る」ということは確かにあるんだけれども、ぼくはもっと重要な事実が潜んでいると思うのです。それは何かと申しますと、「DNA」です。顔かたちが遺伝するように、性格だって遺伝するのです。環境以上に決定的に子育てに影響するのは遺伝的な問題であると、かねてからぼくは思っていたのでした。

こうした「親子の真実」が、『はつてんじん』では「表紙」からきちんと語られているのです。父・母・子の顔をよーく見て下さい。そう、「ほくろ」にご注目下さいませ。これが親子というものなんですね。作者の川端誠さんは講演の中で、この『はつてんじん』を自ら読み聞かせ(川端さんは「開き読み」 と仰いますが)してくれました。その時のお話で、この絵本の初版が出たとき、子どもの「金坊」のホクロを1個書き忘れてしまったページがあったんですって。絵本の作者としては完璧を記したつもりだったんだけれど、絵本を買ったとある少年がその間違いに気づいてくれたのだそうです。

この絵本は落語がベースですから、読み聞かせをする場合でも「落語家」を意識しないといけません。でも、一般におかあさんがたは「落語」という日本の古典芸能をあまり理解していないみたいなのです。志ん生・馬生・志ん朝ってたって、まったくご存知ない。だからこそ、お父さんの出番なワケで。ツトトントントン、テケ、テンテンテンと高座に上がれば「え〜ぇ、毎度ばかばかしいお笑いを一席……」こういうのはお父さんのほうが得意です。ちなみに僕の場合は、三遊亭円生の声色・息継ぎっぽくなってしまいます。ちょっと辛気くさいかな(^^;;

川端誠さん『落語絵本シリーズ』 はどれもみな面白いです。『ばけものつかい』『まんじゅうこわい』『じゅげむ』『おにのめん』『めぐろのさんま』。最新作は『たのきゅう』で、『月刊クーヨン』2003年1月号の特別付録として読むことができます。

落語がベースの絵本というと『じごくのそうべえ』が有名ですが、この絵本は声に出して読むのがたいへん難しい。桂米朝『地獄八景亡者の戯れ』 のCDを購入して大阪弁の研究をしてるんですが、天竜川より東側に住む者にはやっぱりむずかしい。あと、『ごくらくらくご』 桂文我・文、飯野和好・絵(小学館)は、桂文我さん自演の落語が付録のCDで聴けてお得な一冊です。上方落語独特の雰囲気、軽快なテンポのよさ等、とても勉強になります。もちろん、聞いてるだけで楽しいですが(^^;

(2003年 1月15日 記)


『はつてんじん』
川端誠
(クレヨンハウス)



『まんじゅうこわい』
川端誠
(クレヨンハウス)



『じゅげむ』
川端誠
(クレヨンハウス)



『おにのめん』
川端誠
(クレヨンハウス)



『世界昆虫記 INSECTS ON EARTH』  今森光彦

(福音館書店)¥5000(税別)   1994年04月30日 初版第1刷発行 
           2000年07月05日 第8刷

●2002年の最後を飾る一冊は、ぼくの大好きな「この一冊」をご紹介しようと思います。

と言いましても、この本と出会ってから、じつはまだ半年しか経っていないのです(^^;;) あれは6月だったか7月だったか、大泉の「絵本の樹美術館」に行った時に、売店で絵本を物色していた長男(5歳) が興奮しながら一冊の本を抱えて来ました。「おとうさん、おとうさん、見て見て! スゴイよ、この本!」そう言いながら本を開いて見せてくれたのが、この「世界昆虫記」の110ページ「巨大な目玉の紋様の蛾の写真」だったのです。あまりの迫力に、ぼくは圧倒されました。

厚さ3cm、重さ2kgはあるかと思われる、片面がA4サイズの二周りは大きなこの本を受け取ったぼくは、まずは本を裏返し、値段を見ました。ご、\5,000! 財布には、あと千円札が3枚しか残っていないのを分かっていたので、その場は何とかつくろって息子を説得し家に帰り、TSUTAYA で注文し直して、8月末の息子の6歳の誕生日の日に「この本」をプレゼントしたのです。

「この本は図鑑ではありません。<絵本>です。物語があるのです。これぞ絵本の中の絵本!と言ってよい本だと僕は思いますね。」
絵本作家の川端誠さんは、この夏の「八ヶ岳絵本セミナー」での講演で『世界昆虫記』をこのように紹介されました。御意!ぼくは何度も肯きながら、川端誠さんが「この本」のことをとても大切にしていると知って、すごくうれしかったです。

世界5大陸に生息する昆虫たちを、20年に及ぶ緻密な取材の中から厳選されたベスト・ショットの中に収めた「めずらしい昆虫写真集」ではあるのですが、と同時に、その土地に暮らす人々の生活もしっかりカメラのアングルに収められていることが素晴らしい。

川端誠さんは言いました。「この少年と蝶の2ショットを見て下さい。この写真はそうそう簡単には撮れませんよ。だって、カメラのこちら側には今森光彦さんがいる訳ですから、まず少年と今森さんとが絶対的な信頼関係になければ、こんな写真は撮れません。」

さらにページをめくると、インドネシアのジャングルに花開く、世界一巨大な花「ラフレシア」が開花する連続写真が出てきます。そして、もう1ページめくると、花の中から外に向かって撮られた、何とも幻想的な見開き写真、これが凄い。川端さんのお話では、今森さんに現地同行したインドネシアの自然保護官 が、今森さんのタフな執着に根負けして、こう言ったのだそうです。「わかったよ、イマモリ。この花はお前にやるよ。切るなり分解するなり好きにしていいよ」で、この写真が撮れたというわけです(^^;)

珊瑚礁の島のとある1本の木で、蛍が集団で発光する熱帯のクリスマスツリー、ハナカマキリの不思議な擬態、きのこを栽培するハキリアリ。そして、信じられないようなサバクワタリバッタの群舞。これらの写真は、貴重な記録としてではなく、カメラのファインダーを覗きながら「センス・オブ・ワンダー」を体感している今森光彦さんの「ワクワク感」が読者としていっしょに共有できるシアワセに満ちた、何とも幸福な一冊なのであります。

息子は友達が遊びに来ると「ねぇねぇ、これ見てよ! スゴイでしょう?」と『世界昆虫記』の「例のページ」を開いては、友達に自慢しています。「プレステ」の新作ソフトを買うことを思えば、334ページもあるこの本は決して高くはないと思うのです。
(2002年 12月29日 記)


『世界昆虫記』
今森光彦・著
(福音館書店)



『昆虫記』
今森光彦・著
(福音館書店)



『里山物語』
今森光彦・著
(新潮社)























『無境界家族』  森巣博

(集英社文庫)¥533(税別)   2002年10月25日 第1刷発行

------------------------------------------------------
題名:『無境界家族 --- boundless family』
著者: 森巣 博
発行: 集英社   平成12年/02/29 第1刷発行  \1500 (税別)
    集英社文庫 平成14年/10/25 第1刷発行  \ 533 (税別)
------------------------------------------------------
●ぜんぜん絵本とは関係ないエッセイ本ですが、風変わりだけれど、案外まっとうかも しれない?「子育て論 」が展開されていて要注目の一冊です。このたびの文庫化を機会に再びご紹介いたします。

シドニー在住の変な日本人、森巣博さんの(『博奕の人間学』『無境界の人』に続く)3冊目の本は、自らの家族について 語った本となりました。彼の奥さんはイギリス人で、オーストラリア国立大学の大学教授 。小学生時代は不登校児だった彼の一人息子は、天才的な数学センスを見いだされ、高校を飛び級で大学に進学し、ついには大学を主席で卒業 。研究室に残って数学者になると思いきや、アメリカの大手ヘッジファンドにさっさと就職。そして、そんな森巣博さん自身の職業はというと、なんと無頼の博奕打ちなんです(^^;)

超多忙な妻に代わって家事育児をすべてを引き受けて来た著者独自の「子育て 論」 が、この本の中に散りばめられています。(以下ランダムに抜粋)

●親の思い入れなどとは無関係なところで、子は育っていくものではなかろうか。

●しなければならないことは、しなくても一向に構わないが、したいことは、是非ともすること。楽しいことだけをしていれば、人間は間違わないのである。

●育児などというものは、手を抜けば抜くほど良いのだ。手抜きの子供ほど、いい大人に育つ。

●家庭での中心とは、常に親である。子供はおまけ。親が楽しい生活をしていな ければ、子供が生活を楽しめるはずがないのだ。この基本をしっかりと納得し ていないと、子育ては失敗する。

●ただし、家事・育児というものには、未来がない。育児に未来がある、などと 考えている人は、自らの未来と子供の未来を混同しているのである。子供の未来を自らの未来でもある、と錯覚するところから、無数の悲劇が生起する。

●常識とは、多数者の持つ偏見。多数者は、常に例外なく間違ってきた。

●親の役割とは、子がやりたいことを実現させる手助けぐらいでしかない、と わたしは心得ていた。やりたいことをやり、したくないことはしない、という 子の、そのやりたいことが子供の能力だけでは解決不能な時に頼る相手が親で あろう。

子供を育児の中心とするのが当たり前と考えがちなわれわれにとって、驚きの 子育て論ですが、育児危機に瀕する現代日本で、今こそ必要な発想の転換法で はないかと、ぼくは密かに思っています。この本の前に読んだ、同じく「家族」 をタイトルに掲げた『家族を「する」家』 藤原智美(プレジデント社)\1500 は、何だか止めどなく悲観的で嫌になっちゃう本でしたが、この著者の結論も 森巣氏と結局は同じでした。曰く、

リビングや子供部屋に金をかけるのは無駄。郊外に一戸建てを構えるより、都 心のマンション住まいの方がマシ。アメリカ人が家を選ぶ基準は、夫婦の寝室 が居心地が良いかどうかが最重要視される。

すなわち「家族」の中心はあくまで「夫婦」 なのだということです。夫婦とし てのコミュニケーションを維持するためには、それなりの場と(家族を「する」 といった)努力が必要である、たしか、そういう結論でした。
(2000年 9月26日 記)

●なお『無境界家族』に関して、あの歴史学者網野喜彦先生が、その著書『「日本」とは何か』(講談社)の中で絶賛しているのを読んで、ぼくはとってもビックリしました。森巣博こそ、ホンモノのアナーキストであるに違いない! そう思いましたですよ。

(2002年 12月28日 追記)


『無境界家族』
森巣博・著
(集英社文庫)


   
『無境界の人』
森巣博・著
(集英社文庫)





















『やまあらしぼうやのクリスマス』  ジョセフ・スレイト 文、フェリチア・ボンド 絵、みやち・としこ訳

(グランまま社)¥1300(税別)   1996年 第1刷発行 2000年 第3刷 

---------------------------------------------------
●もうすぐ クリスマスです(^^)
 本屋さんや児童図書館では「クリスマスの絵本」 コーナーもできました。
 高遠町図書館には、常設で1年中「クリスマスの絵本」を集めた棚があって、数えてみたことはありませんが、ざっと50冊近くもあったと思います。でも、クリスマスの絵本の中で、ぼくが一番好きな『やまあらしぼうやのクリスマス』はありませんでした。本屋さんでも、ついぞ見かけたことがありません。

ちなみに、2番目に好きな絵本は『急行「北極号」』 オールズバーグ(河出書房新社)で、3番目が『きのいいサンタ』さとうわきこです。

それでは、『やまあらしぼうやのクリスマス』の話をいたしましょう。
この絵本は、もともとは『クリスマスのほし』というタイトルで聖文社 というキリスト教系の出版社から、1983年に出版されました。じつは僕が持っているのはこのオリジナル本のほうで、3年前にブック・オフで ¥100で売られているのを見つけて手に入れたのです。

その時には、内容を読みもせずにそのまま待合室の本棚に入れてしまったのですが、ある日の午後の診察終了後、本棚の整理をしていたら、ふと「この絵本」が目にとまったのです。絵のタッチ に見覚えがあったからでした。ちょうどそのころ『もしも ねずみにクッキーをあげると』ローラ・ジョフィ・ニューメロフ文、フェリシア・ボンド絵、青山南・訳(岩崎書店)がアメリカでベストセラーになった絵本として紹介されており、ぼくもお気に入りの一冊だったのですが、絵を描いているのがどちらも「フェリシア・ボンド」であることに気づいたのです。

「あっ」と思って、そのまま座り込んで絵本を読み始めました。そしたら、途中から涙があふれてきて、どうにも止まらなくなってしまったのです。幸い、待合室には他に誰もいませんでしたので助かりましたが(^^; いや、びっくりしました。なんとまぁ、いいおはなし じゃぁありませんか!!

ぼくなんて、どうせダメだ! と、自己嫌悪に浸る「やまあらしの子ども」に、おかあさんのやまあらしは、こう言うのです。

「あなたは とっても かわいいよ。せなかの とげも まっすぐだし めも くるくるしているし。あなたは おかあさんの こころをてらす ひかりだよ」

「ぼくは おかあさんの こころの ひかりなんだ」やまあらしの子どもは、こうして自信を取り戻すのです。

なお、『やまあらしぼうやのクリスマス』として、グランまま社から再び出版される際に、宮地敏子さんによってより原文に近い形で訳し直されました。ぼくは前の文章に慣れ親しんでしまったので、最初はちょっと違和感を覚えましたが、でもこっちのほうがいいのかもしれません。

『やまあらしぼうやのクリスマス』グランまま社のサイトで、なんとウェブ上で「全ページ・全文」 を読むことができますので、ぜひ一度読んでみてください。http://www.cam.hi-ho.ne.jp/g-mama/ こちらの、フレーム左側の「グランまま社のおすすめ本」をクリックして、さらに「おすすめ1」をクリックしてみてください。   (2002年 12月11日 記)


『やまあらしぼうやのクリスマス』
ジョセフ・スレイト文
フェリチア・ボンド絵
みやち・としこ訳
(グランまま社)


   
『もしもねずみにクッキーをあげると』
ローラ・ジョフィ・ニューメロフ文
フェリシア・ボンド絵
青山南・訳
(岩崎書店)





















『絵本の作家たち(1)』 小野 明(聞き手)

別冊太陽(平凡社)\2200 (税別)    2002年 11月21日 初版第1刷

-----------------------------------------------------------
「別冊太陽」 の「絵本シリーズ」最新刊です。またまた充実した一冊となりました。
 絵本編集者の小野明さん自身が現在最も注目する絵本作家8人にロング・インタビューを試みた内容が、絵本作家の肖像、仕事場風景、作品群など、例によってたくさんの図版がレイアウトされた構成で掲載されています。これは読み応えがあります。

選ばれた8人とは、長新太、五味太郎、佐々木マキ、荒井良二、飯野和好、スズキコージ、山本容子、ささめやゆき 。それぞれの絵本作家の若かりし頃の話は、もうメチャクチャ面白いです(絵本よりも?)。もちろん、絵本に関しても、いろいろと新たな発見がありました。そして圧巻なのは、ラストに収録された8人の「全著作リスト」。これはスゴイ! 利用価値ありです。

「別冊太陽」の「絵本シリーズ」には、他にも こんな本があります。
(以下は以前ニフティ小児科医局にアップしたもの)
----------------------------------------------------------
題名:『別冊太陽(104)/100人が感動した 100冊の絵本 』[1978 - 97年]
選者: 小野 明
発行: 平凡社 1999年 1月10日 初版第1刷(2001年3月30日 第6刷発行)
値段: \2300 (税別)
----------------------------------------------------------
長野の北原です。 じつはまだ、このシリーズは続いていたのでした(^^;)  残すは、あと2回。 確か(その1)で、理想的な絵本のガイドブックの定義をしたと思いましたが、 その条件の全てをクリアーした完璧な本はというと、『別冊太陽』の絵本シリ ーズの一冊として出版された「この本」に優るものは、たぶんないでしょう。

それほど、この本はよくできていると思います。(欠点は値段が高いことと、 出版されて少し時間が経っているので、新しい絵本が載っていないこと。) 大型版の紙面にオールカラーで、原寸大に近い(?)大きな絵が紹介されてお り、しかも、細部まで選者の心配りがしっかり届いていて、選定された絵本の センスの良さと、それに推薦文を寄せている人の、じつに的を得た文章が、な んとも心地よいのです。

例えば、林明子『こんとあき』の推薦文は中川李枝子さんが、こんなふうに書 き始めます。
だれもいないのに『こんとあき』を手に取ると、私は自分のまわりに 小さい子たちの「その本読んで!」の熱気を感じる(この熱気を感じ るか否かが私流絵本価値判断の決め手となる)。子どもたちのキラキ ラした目が表紙に集中する。
あと、好きなのは、飯野和好『ハのハの小天狗』(ほるぷ出版)の紹介文。
絵本にはリズムとテンポとか、流れのようなものがあるのだが、これ は読んでいて実に気持ちがいい。とりわけ、「ムッ、手り剣がなくな った」の場面がいちばんよい。
    増田喜昭(子どもの本専門店「メリーゴーランド」代表)
紹介されている絵本は、1978年〜1997年までの20年間に発行された自作絵本の 中から、国内50冊、海外50冊。雑誌の別冊ですが、単行本扱いでオンライ ン書店でも注文できます。それから、同じシリーズでこんな本も出ています。

----------------------------------------------------------
題名:『別冊太陽(112)/読み語り絵本100
選者:
発行: 平凡社 2001年 1月15日 初版第1刷(2001年4月11日 第2刷発行)
値段: \2000 (税別)
----------------------------------------------------------
こちらは、絵本作家を中心に絵本読みのプロ50人の、子どものころ父母に読 みかせをしてもらった時の思い出や、お気に入りの絵本に関するインタビュー 記事で構成されています。ちょっと強制的な語感の「読み聞かせ」でなくて、 「読み語り」と表現している点に、編集者の心意気を感じさせます。

なお、この『別冊太陽』の絵本シリーズの最新刊を現在編集中なんだそうで、 タイトルは●『人生ではじめて出会う絵本100』●選者は、宇部の外来小児科 学会のWS「待合室の絵本その2」にゲストスピーカーとして出席された、三 輪哲さん(名古屋市、子どもの本専門店「メルヘンハウス」)、村中李衣さん (梅光女学院大学教授)、横山真佐子さん(児童書専門店・主宰)だそうです。 楽しみですね。   (2001年10月27日 記)



●下関の児童書専門店「こどもの広場」の横山真佐子さんは、宇部のWSでも、たいへん印象的なお話をされました。 幼少のころの彼女は病弱で、膿胸という病気で死の淵をさまよった時に、やはり病弱なお父さんが、親子二人して床を 並べて、昔話をしたり本をたくさん読んでくれたりしたんだそうです。「話の内容はよく覚えていないんだけど、薄暗くてあったかい 布団の中、お父ちゃんの匂いに安心して包まれていた感じ、そんなことはよく覚えているのね。父の声の調子とか、リズム、そういうものをね。」

----------------------------------------------------------
題名:『別冊太陽(116)/人生ではじめて出会う絵本 100
選者:
発行: 平凡社 2002年 1月13日 初版第1刷
値段: \1900 (税別)
----------------------------------------------------------
その、横山真佐子さんと、三輪哲さん、福田洋子さん、村中李衣さん、市河紀子さんが編者となって、 あかちゃんのための絵本50冊、おとなのための絵本50冊が、選定されているのが、この本です。

絵本の選び方が、すごくよく練られていて感心させられるし、解説文も要を得ています。
ホントいい仕事してますねぇ、といった一冊です(^^)
(2002年11月30日 記)

『絵本の作家たち(1)』
小野明
(別冊太陽)
(平凡社)








『100人が感動した 100冊の絵本』
小野明
(別冊太陽(104)
平凡社)

































『読み語り絵本100』

(別冊太陽(112)
平凡社)



















『人生ではじめて出会う絵本 100』
横山真佐子・編
(別冊太陽(116)
平凡社)




『母にできること、父にしかできないこと』  藤原和博

(新潮 OH! 文庫)¥581(税別)   2002年 1月10日 第1刷発行 

------------------------------------------------------
題名:『母にできること、父にしかできないこと』
著者: 藤原和博(元リクルート営業部長)
発行: 新潮 OH! 文庫        2002年 1月10日 発行
値段: \581 (税別)
------------------------------------------------------
この本は『父生術』(日本経済新聞社)のタイトルで、1998年に出版された当 時に評判になった本なので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。リク ルートのエリート・ビジネスマンがロンドンのビジネス・スクールへ留学しま す。4歳の息子と臨月を迎える妻を連れて。初めての外国で、しかも英語がま ったく分からない息子の小学校(準備学級)選びに、渡英早々に父親は奔走す るのですが、これがまた大変。ようやく決まった小学校なのに、息子は適応不 全をおこして辞めてしまうのです。そうこうするうちに次男は生まれるし……

右往左往、悪戦苦闘する父親の心境が日記形式で綴られてゆくのですが、これ が読ませるのです。面白い! 父親は毎夜、絵本を一冊読んでから息子とその 日あったことを話し合ったあと寝かせ付けます。日記には、その寝る前の父子 の会話が収録されているのですが、これがリアルでライブで、沁み入るんです よ。

わりと短気で早急な父親に対して、母親が「ちょっと待ってよ!」と言うので すが、この母親はすばらしいですね。おっとりしていながら本質的なところで、 絶対的に自分の息子を信頼しているのです。でも、息子も父親も孤立無援の地 で、ほんとうに大変だなぁ。ぼくは留学したことないし、外国での生活体験も ないので、想像の域を出ないのですが、ぼくには無理だなぁ。とっても……

日記は後半、フィクション以上にドラマティックな盛り上がりを見せます。で も、それは読んでのお楽しみ(^^; 一気に読める今月のオススメ本です。 付録として「父が子に読んで聴かせる31冊の絵本」 が巻末に収録されています が、どんな絵本が選定されているのか確かめてみるだけでも楽しいです(^^)

新しい環境下で適応不全を起こしている息子を、何とか救おうとする父親の奮 闘を描いた小説に『消えた少年たち』 オースン・スコット・カード(早川書房) というSF(?)があるのですが、ぼくはこの本を思い出しました。ただし、 『消えた少年たち』 はディテールがリアルで面白いんだけれども、あのラスト は小児科医としては許せないなぁ。       (2002年 1月22日 記)

藤原和博さんは「よのなか科」 講師として小学校での教育活動に最近熱心に取り組んでいます。先日、NHK教育TVに出演されているのを初めて拝見しましたが、藤原和博さんって、さだまさし+坂田利夫みたいなお顔の方だったのですね。失礼いたしました(^^;;; 
  (2002年 11月30日 追記)


『母にできること、父にしかできないこと』
藤原和博
(新潮 OH! 文庫)






















『絵本をよんでみる』 五味太郎・小野明

(平凡社ライブラリー)¥1000 (税別)   1999年 8月 9日 初版第1刷 

---------------------------------------------------------
題名:『絵本をよんでみる』
著者: 五味太郎、小野明
発行: 平凡社ライブラリー   1999年 8月9日 初版第1刷 \1000 (税別)
---------------------------------------------------------
この本は、ほんとうに面白いです。目ウロコです。結局、子どものために絵本 を「読んであげる」んじゃなくて、お父さんお母さん自身が如何に絵本を楽し んで読むことができるかが一番大切であるということを、五味太郎さんは教え てくれます。

自らも絵本作家である五味太郎さんが読む絵本は全部で12冊。ディック・ブ ルーナ「うさこちゃんとうみ」 長新太「キャベツくん」 トミー・ウンゲラーの 「キスなんてだいきらい」 アーノルド・ロベール「ふたりはともだち」 ユリー シュルヴィッツ「よあけ」 モーリス・センダック「かいじゅうたちのいるとこ ろ」 スズキコージ「エンソくん きしゃにのる」 片山健「どんどん どんどん」 などなど。

でもフツーの読み方ではないんですね。例えば冒頭の『うさこちゃんとうみ』。 絵本の1ページ目から順番に、五味さんが載っている絵と文章にいちいち解釈 を加えてゆくんです。これが面白いんだ。

海が見える。はじめ、この海見てびっくりした。さびしいんだなあ、とっ てもさびしいんだ、この海。しかも海と空が同じ色。(中略)

貝を拾って、海の中に入って、これだけ楽しくて、しかも赤・青・黄色・ 緑と、原色を使っているのにこのさびしさは何だろう、とずっと気になっ ていた。(中略)

あるとき、はっと気がついた。「ああ、お母さんがいないんだ」って。こ れは父と娘の話なんだ、って気付いた。お父さんと娘というのは、どこか わざとらしいところがある。やっぱり異性なわけだよ。お父さんもややあ がっちゃう。
ブルーナの絵本は赤ちゃんのための本ぐらいの認識しかなかったのですが、ま さか小津安二郎監督の『晩春』 に出てくる笠智衆と原節子の父娘みたいな物語 が隠されていようとは思いもよらなかったので(もちろん、それが正しい解釈 というわけではないけれど)そういう絵本の読み方もあるのか! と、ただた だ唖然です。

それから、アウトドア派のお父さんに人気の高い『よあけ』 では、「すこし ひをたく。」 という焚き火のページでこんなこと言ってます。

夜明け少し前の朝、たぶん朝霧がたっている。そこにたき火の煙が一筋の ぼっていく。この煙のたち方はほぼ理想的なたき火なんだよね。(中略) でも、このおじいさんがただものではないことは、この煙のあがり方でわ かる。で、この画面見た時、「わあ、いいなあ」って、もう単純に思った。 ぼくのたき火体験からわかるこのたき火のすごさ。この煙はそうだれにで もたつもんじゃない。この火と煙のバランスがすごい。素人がやると、煙 がこの絵のたき火の倍でて、火が半分というところ。もうこのたき火を見 るだけで、ぼくにはこの本読む価値がある。
この『絵本をよんでみる』の続編も出ていて、
--------------------------------------------------------
題名:『絵本をよみつづけてみる』
著者: 五味太郎、小野明
発行: 平凡社ライブラリー   2000年 8月9日 初版第1刷 \850 (税別)
--------------------------------------------------------
長新太「ちへいせんのみえるところ」 エッツ「ジルベルトとかぜ」 林明子「こんとあき」 アンゲラー「すてきな三にんぐみ」 などが取り上げられていますが、 一作目の暴走する快感を期待すると、ちょっとおとなしすぎて、いまいち面白く ありませんでした(^^;
(2001年 8月15日 記)


『絵本をよんでみる』
五味太郎、小野明
(平凡社ライブラリー)

  
『絵本をよみつづけてみる』
五味太郎、小野明
(平凡社ライブラリー)






























(その1)の「おすすめ」絵本 は……   『冥途』『クレーン男』『とうだいのひまわり』『ナヌークの贈り物』『ねぎぼうずのあさたろう』『かちかちやま』ほか


「お父さんと読む絵本・最新版」 へもどる>





 T O P  ご案内  おとうさんの絵本    読書&CD    Now & Then   リンク 

北原こどもクリニック