『どうぶつえん』 アンソニー・ブラウン/作・絵 藤本朝巳/訳
(平凡社)¥1500 (税別)
2003年05月20日 初版第1刷
●「児童文学書評」5月号に、この絵本に関する細江幸世さんのすぐれた評論が、すでに載っているのですが、ぼくも『子どもはどのように絵本を読むのか』ヴィクター・ワトソン&モラグ・スタイルズ/編・谷本誠剛/監訳(柏書房)を読んで、この本の中に何度も登場するイギリスの絵本作家アンソニー・ブラウンが、イギリスの子どもたちにすごく受けているという事実を知って驚きました。で、あわてて『こしぬけウイリー』ほか、アンソニー・ブラウンの絵本を 何冊か図書館から借りてきて読んでみましたが、うーむよくわからない(^^;;
『子どもはどのように絵本を読むのか』の中では、『どうぶつえん』『トンネル』の2冊が大きく取り上げられていたのですが、この2冊はまだ翻訳本が日本では出ていませんでした。それが、この5月に平凡社から『どうぶつえん』が出版されたのです。さっそく注文して読んでみると、これが面白い。(でも、うちの子どもたちには、あまり受けませんでしたが(^^;;)
動物園といえば、『新明解国語辞典』(三省堂)に載っている「動物園」の項目が以前から有名ですが、この絵本は、あの記載「生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設」そのものを主題とした絵本でした。
(2003年 6月28日 記 まだまだ続く)
●『どうぶつえん』の奇妙な絵、普通じゃないところに、子どもたちはすぐに気がつきます。カタツムリが唐突に空を飛んでいたり、ピンクの車に「しっぽ」があったり。チケット売場に並ぶ人たちに角があり、嘴があり、女の人の足がカエルだったり、売場の人はビーバーみたいだとか。それにしても、このイギリスの父さんのセコさは笑えませんよ。ぼくもよく小1の長男を幼稚園児と偽ることがあるからです(^^;;
動物園に家族が入場すると、左側のページに「この家族の振るまい」が描かれ、右側のページには、リアルで細密なタッチで描かれた動物たちが次々と登場します。でも、ゾウはうんこしか見えないし、キリンは後ろのレンガの色が保護色になってるし、トラの檻に生えている草は、反対向きのトラの形で生えてるし、檻の外には同じような紋様の蛾がいるし。
サイの檻は、バックの建物自体がまるでサイみたいで、ペンギンのプールの奥には、幽霊みたいな子どもが写っていて、マントヒヒの檻の前では、人間の方が檻に入っているようにう見えて。そうして、日ごろの仕事の憂さ晴らし のために動物園にやってきた、ノー天気なおとうさんと違って、おかあさんの表情はどんどん暗くなってゆきます。
で最後に、ゴリラの登場です。このゴリラがじつにいい顔をしている。遠くをじっと見つめるその目は、まるで東大寺・戒壇院の「広目天」みたいに、アホらしい人間どもの世界を悲哀をこめて見つめているみたいだ。この絵本の中で、どの人間よりも最も理知的に描かれている「ゴリラ」が、何故かパズルのように4分割されている。
これは、このゴリラが檻の中に閉じこめられていることを、作者が表しているのだ、と、ぼくは思いました。
●アンソニー・ブラウンの初期の絵本に『すきですゴリラ』(あかね書房)という絵本があります。この本は、アンソニー・ブラウンの絵の特徴が、最も判りやすく描かれていると思います。実際、うちの子どもたちには『どうぶつえん』よりも、こっちの絵本のほうが凄く受けた(^^;) アンソニー・ブラウンて、本当にゴリラが好きなんだね(^^;;
表紙のバックに描かれた「影絵」の中に、キングコングがいて、足がぶら下がっている窓があって。朝食の場面、赤いセーターを着た主人公の少女の向こうには、青で統一された「冷たい」おとうさんがいます。それから、2階の彼女の部屋へ上がる階段の途中の「モナリザの絵」がゴリラだし、玄関の左側に掲げられたタイトルは忘れたけど、イギリスでは有名な絵もゴリラ。
ぼくの長男は、この絵を目ざとく見つけて、「あっ! Mr.ビーンだ!」そう言いました。アメリカ映画『ビーン』に、この絵が登場するのだそうです(ぼくは観てないので知らない(^^;;) でも、その一言を聞いて、解ったんです。アンソニー・ブラウンは、じつはMr.ビーンだということに。アメリカ人には「変なおじさん」にしか見えないMr.ビーンは、イギリス人や日本人には、大人も子どもにも、すごく愛着があります(もちろん、映画版ではなくて、テレビシリーズのほう)それは、アメリカ人には決して理解できない「アイロニー」を、イギリス人も日本人も(子どもたちもみな)日々感じながら生きているからだと思います。
でも、ホント、イギリス人って、屈折しているね(^^;; ところで、『すきですゴリラ』のラストでは、おとうさんが赤いセーターを着て、ジーパンのポケットにバナナを忍ばせています。よかったよかった(^^)
●ひとつだけ、どうしても分からないことがあります。ウィリーはチンパンジーですよね、ゴリラじゃなくて。彼の周りはみな、ゴリラなんだけれども……
(2003年 6月30日 記)
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『どうぶつえん』
アンソニー・ブラウン/作・絵
藤本朝巳/訳
(平凡社)

『子どもはどのように絵本を読むのか』
ヴィクター・ワトソン& モラグ・スタイルズ/編
谷本誠剛/監訳
(柏書房)

『みんなで話そう、本のこと
子どもの読書を変える新しい試み』
エイダン・チェインバーズ/著
こだまともこ/訳
(柏書房)
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