『みなみのしまのプトゥ』 むらまつ たみこ/作絵
(アリス館)¥1300 (税別) 2003年07月17日 初版発行
●じつはこの絵本、吉村小児科・内海裕美先生のご紹介で、アリス館の編集長、後路好章さんが、ぼくの所へわざわざ送ってくださった絵本なのです。後路編集長ご自身の熱き文章を読んでいただければ、この絵本に託す意気込みがじんじん伝わってくると思います。
この太めの黒い線は、切り絵なんですね。インドネシアには、沼地で演じられる「影絵」があるじゃないですか。あれを思い出しました。ところで、この絵本の主人公プトゥって、主人公のくせに、みずから自主的にはなにも行動しないんですね。まるでクロネコヤマトの宅急便みたいに、人から人へと手渡されてゆく大切な荷物のかんじ(^^;) それがとても面白い。これといって何も事件は起こらないんですが。
わが日本でも、昭和30年代前半(東京オリンピック以前)くらいまでは同じような風景が各地で見られたはずです。当時はまだ高度経済成長前の時代で、専業主婦はあまりいず、母親も当たり前にフルタイムで働いていました。赤ちゃんのめんどうは、兄弟姉妹、ジジババ、同居している叔父叔母がみてくれました。
さて、時代は変わって平成の世。長引く不況に父親のリストラ。こうなると母親は否応なくフルタイムで働きに出ることを余儀なくされます。子どもは、未満児保育に出すか、別居のジジババにみてもらうしかありません。
都会ではどうかしらないけれど、幸いにして田舎では父母ともに、たいてい元気なジジババが近所に住んでいるので、孫を預けることができます。ところが、田舎の元気なジジババはみな、なんだか毎日忙しいんですね(^^;) 早朝ゲートボールに、読み聞かせのボランティア、公民館の絵画教室に、無尽の寄り合いなどなど。もちろん、現役でまだバリバリ働いているジジババも多い。
赤ん坊を押しつけられたジジババは、正直みな迷惑しているのです。ところが、若い父親・母親はその事実に気づいていない。半年に一度、一泊二日で温泉にでも連れていけば「チャラになる」そう、思っているんじゃないかな(^^;;
今の日本は、お父さんもおかあさんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、自分のことだけを考えるのに精一杯で、「あぁ、忙しい忙しい」そう呟きながら、あくせく・イライラ・ギスギスした気持ちで毎日を過ごしています。そんな親の背中を見て育つ子どもたちも、その気分が伝染して、いつでもイライラしている。子どもは敏感ですからね。
●『みなみのしまのプトゥ』はいいなぁ。絵をながめているだけで、ゆったりした気分になれる。絵本の落ち着いた色合い がまた心に和みます。「トッケー、トッケー、チ、チ、チ、チ、チ」というヤモリの鳴き声まで、なんだかのんびりしてよいなぁ。
■南の島ということで、絵本の雰囲気はぜんぜん違うのだけれど、土方久功さんの絵本を思い出しました(^^) 土方さんは、29歳の時に南洋パラオ島に渡り、原住民とともに暮らしながら原始彫刻の製作と、ミクロネシアの神話や民話の収集を7年間も続けました。なんと、太平洋戦争が始まる前の話です。
ぼく(土方先生ご自身)のところには子どもはないのですが、実は終戦後何年間か、家内の弟夫婦と同居していたことがあって、義妹が小さな女の子(邦子)を残してなくなってしまったので、その子が小学校に上がるまでも、ごはんの世話から、おふろに入れ、寝かしつけるまで、遊んでいたぼくが世話をした経験はあるのです。(中略)
その子はまだ、童話というほどの、筋のある話を理解するところまで、なっていませんでしたので、動物のなき声とか動作とか、それを多少擬人化するというと大げさですが、お友だち扱いして、ナンセンス童話とでも言ったらいい、出まかせ話をしてやったものでした。このぶたぶた君は、そのとき、子どもが最も喜んで、何度でもせがまれたものなのです。
★『絵本・物語るよろこび』松居直(福武文庫)p103,104より
長谷川義史さんに絵本を書かせた編集者の松田素子さんもスゴイけど、65歳の得体の知れない変なジイさんに、大傑作『ゆかいなさんぽ』を書かせた松居直さんは、もっと凄いぞ!
ぜんぶ単調な白黒の絵で、遠近感のない妙ちきりん(縄文土器の紋様みたい)な 風景の中を、ぶたとあひるととらとうさぎ が出会って散歩します。
あるひ、いっぴきの こぶたが ね、 さんぽに でかけました。
その こぶたは ね、 まるまると ふとっていて、
そして、すこし こっけいだったので、
ぶたぶた ぶたぶた ぶたぶた ぶたぶたって、
あるいて いきました。
いくと いくと、
こんどは とらが きたんですって。
とらって しってるでしょ。 どうぶつえんに いるじゃない。
おおきくって、しましまが あって、
きれいだけど すこし こわい。
この「とら」がね、変な顔してるんだ(^^;;
それから、子どもたちに受けるのは「おなが」が「じぇええ」と鳴くところ。
(もうすこし続く予定)
(2003年 9月14日 追記)
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『みなみのしまのプトゥ』
むらまつたみこ/作絵
(アリス館)

『ゆかいなさんぽ』
土方久功/作絵
こどものとも・年中向き
2001年/6月号
(福音館書店)

『ぶたぶたくんのおかいもの』
土方久功/作絵
(福音館書店)
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