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北原こどもクリニック  



  おとうさんが読む「絵本」


    ●おとうさん「が」読む絵本(その6) 平成16年4月〜11月に取り上げた絵本 

「お父さんと読む絵本・最新版」 へもどる>



『へっこきあねさ』
長谷川摂子・文 / 荒井良二・絵

「てのひらむかしばなし(5)」(岩波書店)¥760 (税別) 2004年 9月15日 初版発行


●岩波がこのような「むかしばなしシリーズ」を出版するとは、思いもよりませんでしたよ。シリーズすべてのテキストは、『人形の旅立ち』が児童文学界主要3賞を受賞し、体調も回復して現在絶好調の長谷川摂子さん。個性的なイラストを描くのは、はたこうしろう・ささめやゆき・まつしませつこ・下田昌克・荒井良二・沼野正子・ながさわまさこ・伊藤秀男・山口マオ・福知伸夫の10人。ぼくの知らない人もいるけれど、いま最も注目されているぼくも大好きな絵本作家たちがセレクトされている!

しかも、A5版より更に一回り小さな「手のひらサイズ」の絵本なのに、じつに丁寧な本作りがされていてほれぼれしてしまう。装丁は桂川潤さん。いい仕事してるなぁ。その10冊シリーズで現在店頭にならんでいるのは、7冊まで。ぼくが買ったのは『へっこきあねさ』の他に『ももたろう』はたこうしろう、『かちかちやま』ささめやゆき、『さばうりどん』伊藤秀男の4冊です。

さて、『へっこきあねさ』だが、これはいい。じつにいい。荒井良二さんの絵がめちゃくちゃいいのだ! 文・絵ともに描いた荒井良二さんの絵本も好きだが、やっぱりぼくは、人が書いたテキストに、荒井良二さんがリラックスして楽しみながら遊び心たっぷりに描いているお茶目な絵本、例えば『うそつきのつき』とか、『すっぽんぽんのすけ』とか、『さるのせんせいとへびのかんごふさん』が何よりも一番好きなんだな。

今回は「その路線」の中でも、かなり成功しているんじゃなかろうか。表紙がとにかく凄い。お尻を突きだした「あねさ」が、振り向いて笑っている構図。正面から見ると分からないのだが、斜にして横から「あねさ」のお尻を見ると、ちゃぁんとお尻のラインが赤で書き込まれているんですね。最後のページの「あねさ」も同じポーズですが、こちらはしっかりと黒い線でボリュームあるお尻が描かれている。

この絵本を見ながら、大学2年の解剖学の講義の初めに東京芸術大学の教授がやって来て、特別講義をしてくれた時のことを思い出した。彼は言った「人体の入り口であると、出口である肛門を、同じ画面上に配置した名作絵画は、じつはまだ存在しない。食べ物の入口と出口という人間の根元的な部分を同時に描く、この最も重要な事実に、世の芸術家はまだ誰も気付いていないのです。」と。

そしたらなんと、荒井良二さんが絵本にしちゃったんですよ、この禁断の構図を。

「あねさ」は屁をこくために、わざわざ着物のすそをめくってを露出します。この尻がまぁ、なんとも可愛くていいんだな。無意味にぷりっと上を向いていて。屁をこくのに、何故わざわざ尻を露出しなければならないかと言うと、風速40m の「屁圧」を生み出すためには、肛門を遮る物体があってはならぬのです。

「あねさ」の初回「おなら3連発」の場面がとにかく見所で「どっばーん!」「だっばーん」と、あねさが踏ん張るごとに冷や汗も増えていきます。口を見ると、ちゃんと「お歯ぐろ」になっている(^^;) そのたんび飛ばされる「ばあさ」のリアクションも笑える。何げに「ばあさ」もちっちゃなをしているのです! ここの「ちょっと立ち読み」をクリックすると見ることができるよ。

後半は、托鉢の尼さんが「ばあさ」に代わっていいリアクションを見せてくれます。「ぼっがーん すーっ」「でっぼーん すーっ」って、それにしても凄いオナラだねぇ(^^;) 引き屁って発想がスゴイよね、噴出するだけじゃなくて吸引もするのだから。そうは言っても「あんにゃ」も「ばあさ」も鼻つまんでいるので、あねさの「屁」は、やっぱり相当臭いんだろうなぁ(^^;;

(2004 年 10月22日 記、10月24日改変)

   
『へっこきあねさ』
 長谷川摂子・文
 荒井良二・絵
   (岩波書店)
















































『ねぇ ねぇ』
内田麟太郎・作 / 長谷川義史・絵

(すずき出版)¥1100 (税別) 2004年 9月10日 初版発行


●それにしても、絶好調!だなぁ。内田麟太郎さんも、長谷川義史さんも。ぼくは前からお二人のファンだったので、ほんとうれしいんだけれど、長谷川さんに関しては、ちょっと心配だったんだ。だって、この1年間に出るわ出るわ次々と、長谷川義史さんの絵本。いくらなんでも、出版社言いなりの無理やり乱造絵本なんじゃないかなって。ちょいと売れ出した漫画家やお笑い芸人と同じ扱いで、商売になる旬の時期に売れるだけ売っといて、消費者が厭きてくれば「はい、さようなら」。才能の使い捨ても甚だしい。それじゃぁ、困るんだ、長谷川さんは。

絵がワンパターン だからね、長谷川さんは。注目されて人気ものになるのは早いかもしれないけれど、厭きられるのも早いかもしれない。ぼくは心配していたんだ。でも、それは杞憂に終わった。この『ねぇねぇ』のデキのよさを一目見て、ぼくは恥じた。長谷川さんの才能を過小評価していたと。

■長谷川さんの絵は、決してワンパターンではなかった。ひとつひとつの絵本の中で、さまざま実験が試されているのだ。例えばこの『ねぇねぇ』。主人公の少年の心情を、色で表現している。時間設定が「夕暮れ時」であることも関係しているが、主人公の少年の心が満たされたシーンはすべて、「ポッ」と心に明かりが灯った感じのオレンジ色で統一されている。これがアクセントになって、絵本のメリハリが生きてくるのだ。

●ぼくはいま、上伊那医師会准看護学院で小児科の講義を毎週しているのだけれど、過去の資格試験問題をチェックしていたら「生まれた時の子どもは、3頭身である」という問題があったんだ。正解は「×」。成人は8頭身で、生まれたばかりの赤ちゃんは、4頭身です。もともと登場人物が頭でっかちな長谷川さんの絵本も、『かあちゃんかいじゅう』(ひかりのくに)の頃からさらにデフォルメされて、人物はみな2頭身です。進化してるんだな。これも凄い(^^;)

『かあちゃんかいじゅう』でも、ほのぼのとした家族がよーく描かれていましたが(特に、映画館の前で美人の若い女性に目移りしているとうちゃんの描写が笑える)、この『ねぇねぇ』の家族のほうが、もっとほんわかほのぼのしています。家族はこうでなくっちゃいけないね(^^)

前作ではリンタロンという宇宙怪獣でしか登場させてもらえなかった、内田麟太郎さんですが、今回はちゃんと人間で登場します。内田酒店のノベルティー・グッズもいい味出してるし。なわとびしながら、転けているえみちゃんも可笑しい(^^;) 主人公の「たあくん」が、扉の絵で何をいっしょうけんめい作っているのかと思ったら、首飾りだったんだね(^^)

▼そう言えば、中川ひろたかさんが編集している、学研の絵本雑誌『ほっぺ』第3号に載っている、長谷川義史さんの『じゃがいもポテトくん』が傑作だ。中川さんが曲を付けた「じゃがいもポテトくんのうた」まで載ってる。マイナーコードで、ちょっと哀しい曲。中川さんの9月14日の日記によると、北海道では、この歌が子供たちに大受けだったみたい。ぼくも今度、読み聞かせでギターを弾きながら唄ってみよう(^^;)

(2004 年 9月17日 記)

   
『ねぇねぇ』
 内田麟太郎・作
 長谷川義史・絵
   (すずき出版)



































『なんでしょ なんでしょ』
高畠純/作・絵

(アリス館)¥1300 (税別) 2004年 7月15日 初版発行


●高畠純さんの『わんわんわんわん』(理論社)、以前からずっと子供たちの前で読んでみたいと思っていたのだけれど、勇気がなくてできないでいました。でも、月イチで行っている「いなっせでのお話会」で、今月はアトピー性皮膚炎の話をして、最後にオマケで絵本を2冊読んだんです、『りんごです』川端誠(文化出版局)と、『わんわんわんわん』高畠純(理論社)。

ただ、読み方がすっごく難しい絵本なんだよね。読みながら、聴いている大人はどんどん引いて行くし、20人近くいた子供のほとんどが1歳以下で、動物の鳴き声に興味は示したんだけれど、あまり受けてはいなかったな。読み手の自分も、「ワンワン」言いながらだんだん恥ずかしくなってくるし……  この絵本が受けるのは、やっぱし2〜3歳以上かなぁ。会場がザワついていて小さい子らの注目を集めることができなかったことも敗因。今回はイマイチ失敗でしたが、次回は保育園で挑戦してみよう(^^;)

高畠さんのギャグのセンスは、とてもハイブラウで、子供の心を持っている人でないと理解できません。だからちょっと、おかあさんには難しいかもしれない。でも、たいがいのおとうさんは一目見て大好きになること請け合いです。『おとうさんのえほん』(その1)(その2)、『シロクマくん』『だじゃれしょくぶつえん』(絵本館)、それから『ワニぼうのこいのぼり』(ぶんけい)。

そして、高畠さんの最新刊がこの『なんでしょ なんでしょ』。ペンギンが海辺の白い砂浜に棒で何か絵を描いています。さて、何でしょう? おなじみの『わんわんわんわん』の登場人物(もとい、登場動物)も次々と出演します。でてこなかった動物も、次々と登場します。あは、あははははは(^^)

われわれ大人たちは、子供らをもうこれ以上不幸にしないように、もっともっと高畠純さんの「脱力系ギャグ絵本」を読む必要があるんじゃないだろうか? ふと、そんなことを思った。

(2004 年 9月15日 記)

   
『なんでしょ なんでしょ』
 高畠純・作/絵
   (アリス館)




『一まいのえ』
木葉井悦子/作・絵

(フレーベル館)¥1010 (税込) 1987年 3月 第1刷


●まだまだ残暑は厳しそうですが、猛暑だった今年の夏も終わろうとしています。
「暑い夏の絵本」と言えば「コレ」だよなぁ、そう思いつつ、この8月は何だかずっと忙しくて更新できないでいるうちに、9月になってしまいました(^^;;;

「一枚の古い絵」が、西日の当たる屋根裏部屋に放置されていた。川縁の木陰で涼むワニの絵だ。「あるなつのごご とうとう えのなかのワニは あつくてあつくて がまんができなくなった。」のだ。そこでワニは、昼寝のできる大きい河を見つけに絵から飛び出して、自転車に乗って出かけたワケ。彼は理想の河を求めて世界中を旅するのです。 絵本の裏表紙にある地図の順に。

■この絵本を眺めながら、はたと気付いたことがある。あ、俺ってワニ好きだったんだ! って(^^;)
絵本のキャラでは、オオカミシロクマが好みなのは分かっていたけど、じつはワニが好きだったんだなぁ。意外な発見でしたよ(^^;;

●アフリカにも住んでいた木葉井さんには、やっぱり「暑い夏の絵本」が似合っている。一番有名な絵本は『みずまき』(講談社)でしょうか。この絵本もいいな。オススメです(^^)

(2004 年 9月01日 記)

   
『一まいのえ』
 木葉井悦子・作絵
   (フレーベル館)


   
『みずまき』
 木葉井悦子・作絵
   (講談社)


『ともだちになろうよ』
中川ひろたか・作、ひろかわさえこ・絵

(アリス館)¥1300 (税別) 2004年 6月24日 初版発行


プレ初恋の絵本です。でも、奥手の男の子「ワニのカイ」くんには、「ともだち」と「カノジョ」の違いがまだよくわかりません。だから、積極的でおませな「ウサギ」の女の子は、じれったくて仕方がないのです。『男の子って、どうしてこうなの?』(草思社)を書いたスティーヴ・ビタルフは、6歳の男の子は同年齢の女の子よりも、精神的に6カ月〜12カ月ぐらい発育が遅れている、だから男の子の就学時期を1年間遅らせるべきだ、とまで書いているほどだから、男の子はたいがいが「奥手」なんだ。

ただ、この主人公の少年の場合は、男の子の友だちもいないみたい。ひとりでいることが苦にならない、ちょっと変わった男の子(ワニだからね(^^;)。そんな彼の心境が「ウサギ」の女の子の出現によって、次第にゆっくりと変化していくのですが、そのあたりの様子が「この絵本」ではじつによく描かれている。

読みながら、甘酸っぱくて懐かしい、なんとも言えない「ほんわか」とした気分にひたれます。こういう絵本って、めずらしいなぁ(^^)  テキストがいいのはもちろんだけど、絵がいいんだ。淡いパステルカラーの水彩で描かれているのだが、黒い輪郭と影がアクセントになって、絵が浮き出てくる。それから映画的なカメラアングルを意識した構図がすばらしい。大きな樫の木の下で雨宿りするふたりを、後ろから遠く離れて描いた p22〜23 の絵がぼくは特に好きだ。ひろかわさえこさんて、たしかうちに絵本あったよなぁと探したら『ぷくちゃんの すてきなぱんつ』(アリス館)の作者だったんだ。ぜんぜん違う絵のタッチなんで分からなかったよ。

■先週金曜日の昼休み、「いなっせ」6F「ちびっこ広場」で、月に一度の「子育て支援のお話会」をしてきたのですが、お話の最後に『ともだちになろうよ』を聞きに来てくれたおかあさん方に読んでみました。ちょっと「ぶっきらぼう」なワニの口調でね(^^;) 受けたかどうかはわからないけれど、声に出して読むと、この本って気持ちがいいなあ。案外、男性が読んだほうが感じがでるのかもしれない。

いい意味で、ぜんぜん中川ひろたかさんらしくない、ちょっとステキな絵本です。
(2004 年 7月08日 記)

   
『ともだちになろうよ』
 中川ひろたか・作、ひろかわさえこ・絵
   (アリス館)


『なりました』
内田麟太郎・作、山口マオ・絵

(すずき出版)¥1000 (税別) 2004年 4月08日 第1刷


●この『なりました』には、たまげました。おもしろすぎる!

以前、月刊絵本『こどものくに』用に作られた絵本のハードカバー化。テキストは内田麟太郎さん、絵は、あの『わにわにのおふろ』の山口マオさん。だから、面白くないはずがありません! カバが花のにおいを嗅ぐうちに変身しちゃうんです。亀が鉄棒するうちに変身しちゃうんです。クラゲが筋トレするうちに……  あはははは、笑い声も思わず脱力ぎみです(^^;)

「わにわに」と同じ多色刷り木版画で、独特の味わい深い世界を描き出す山口マオさんですが、「わにわに」以上に絵がすっとぼけていてとにかく可笑しい(^^)  個人的には、大工の源さんといった風情のナメクジが好きだな。

■今週水曜日の午後、高遠第一保育園に春の内科健診に行って、絵本も読んできたのですが、年長さんのクラスで最初に読んだのが、この『なりました』。ちょっとクイズ形式にして「さあ、何になったかなぁ?」と、次のページをすぐにめくらず、子供たちの解答を待ってみました。けっこうみんなスルドク当てるのね。ビックリ。でも、亀の鉄棒だけはみんなハズレました(^^;)

それにしても、亀に鉄棒させようなんて発想する、内田麟太郎さんは、やっぱ凄すぎる。

(2004 年 7月01日 記)

   
『なりました』
 内田麟太郎・作、山口マオ・絵
   (すずき出版)


『パパはジョニーっていうんだ』
ボー・R・ホルムベイ文、エヴァ・エリクソン絵、ひしきあきこ・訳

(BL出版)¥1200 (税別) 2004年 1月20日 第1刷


父の日が近いので、「父と子」の絵本を取り上げたいと思います。父親が登場する絵本に関しては、神戸の『父子手帳展』&講座 準備会 がまとめた【絵本の中のお父さん】が、最も充実しています。

でも、それ以降に出版された絵本で「これは!」という絵本があるのです。それが、『パパはジョニーっていうんだ』です。まるで映画でも見ているような錯覚を覚える絵本。もちろん、アメリカ映画ではありません。ヨーロッパの映画です。フィンランドのアキ・カウリスマキ監督作品や、スウェーデンのラッセ・ハルストレム監督作品を思い浮かべてください。

北欧の冬は長く厳しい。秋の終わりの駅のプラットホーム。日曜日の午前10時半。ママに置いてきぼりにされたまま、少年は父親の到着を待っています。短い晩秋の1日が始まろうとしていました。画家はやさしいパステル画で「父と息子」を描いていますが、ベースに塗りつぶす色は「黒」です。人物の顔さえも、黒色の上に肌色が重ね塗りされています。そこに、この親子の表面的な笑顔では決して判らない、ちょいと込み入った二人の事情が、ふっと感じられるのです。

少年は父親と過ごす時間を、1分1分いとおしんでいます。でも、別れの時は刻一刻と近づいている。たぶん、少年はわかっているんだ。ママが決してパパと寄りをもどさないことを。最後のページで初めてママが登場します。緑色のマフラーをして、オレンジ色のコートを着た美人のママが……。

●同じ画家エヴァ・エリクソンが、やはりスウェーデンの作家と組んで作った絵本が『パパが宇宙をみせてくれた』です。同じ絵のタッチなのに、ずいぶんと雰囲気が異なります。明るくコミカルで、そして、何とも情けないおとうさん(^^;; 息子にいいところを見せようとして格好つけたまではよかったけれど……  ぼくにも同じ経験があるんだな。あれは嫌なもんですよ、ほんと(^^;)
(2004 年 6月13日 記)

   
『パパはジョニーっていうんだ』
 ボー・R・ホルムベイ文、エヴァ・エリクソン絵
 ひしきあきこ・訳
 (BL出版)









  
『パパが宇宙をみせてくれた』
 ウルフ・スタルク文、エヴァ・エリクソン絵
 ひしきあきこ・訳
 (BL出版)


『ヴァージニア・リー・バートン「ちいさいおうち」の作者の素顔』
バーバラ・エルマン・著、宮城正枝・訳

(岩波書店)¥3200 (税別) 2004年 3月19日 第1刷発行


●この本を読んで、いろんな発見がありました。数回に分けて、ここに少し書いていこうと思います。

●20世紀アメリカが生んだ、世界でも5指に入る絵本作家、ヴァージニア・リー・バートンの生涯に関しては、今まで部分的にしか語られることはありませんでした。例えば、彼女の父親が、ボストンにあるマサチューセッツ工科大学の初代学長であったことはよく知られていますが、彼が再婚した、はるか年下のイギリス女性「リーナ」(バートンの実母)に関しては、詩人で子供の本も出版していたぐらいにしか知られていませんでした。

ところがこの本を読むと、リーナという女性はじつに自由奔放な人だったみたいで(ちょうど、イギリス映画『フォローミー』のミア・ファーローのような感じか?)夫が務めていた MIT の元学生で、彼女より24歳も年下のチェリー・リベットという男性と駆け落ちし、夫と子供たちを捨てていってしまったのです。この時、バートンはまだ16歳の少女でした。チェリー・リベットという人は発明家で、「リベット」という飛行機の鉄板を繋げる「鋲」として、現在も広く使用されている鋲を発明した人です。これで彼は億万長者になったのだそうです。

失意のうちに大学を退職したバートンの父親は、彼女が19歳の時に骨折してしまいます。それで、彼女はNYでダンサーになることをあきらめてボストンに帰り、父親の看病をしながら、地元新聞のイラストレーターとして次第に頭角を現して行きます。つまり、この時父親が骨折しなければ、われわれは現在『ちいさいおうち』も『せいめいのれきし』も読むことはできなかったのです。まったくもって、神様のいたずらに感謝するしかありません。(2004 年 5月12日 記) つつく

●バートンの絵本に主役で登場するのは、多くが「乗り物」です。ケーブルカーの「メーベル」や、働き者の除雪車「ケイティー」それから、スチーム・ショベルの「メアリ・アン」。これらの乗り物が、その名前から「彼ら」ではなくて「彼女ら」であることは判っていたのですが、「いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう」も、「名馬キャリコ」も、「ちいさいおうち」もみんな「彼女」だったのですね。これは気が付かなかった。

p67 には、『ちいさいおうち』が、1943年のコルデコット賞を取った時のバートンの受賞スピーチの一部が載っています。
「変わっていく環境は、社会の歴史 --- 英語では歴史は history (彼の話)となっていますが、ここでは her story (彼女の話) --- の流れを表しています」
実際、『ちいさいおうち』の原書の表紙には、玄関ポーチに HER-STORY と確かに書かれているのです(岩波版では消されています)

●バートンの最高傑作は『ちいさいおうち』ですが、アメリカの子供たちに最も人気があるのは『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』なんだそうです。この評伝でも、この絵本に関して最も多くのページ数が割かれています。ところが、ぼくは「この絵本」をぜんぜん知らなかった。先日偶然「コマ書店」で見つけて買って帰り、初めて読んでみたのですが、声に出して読んでみてこれほど気持ちいい絵本はないよなぁ! というのが一番の印象でした。

同じ言葉の繰り返しが「気持ちいい」のです。「〜したのも、マイクと メアリと、それから そのとき、いっしょに はたらいた ひとたちでした」というフレーズは、5回も繰り返されます。「おおぜいの ひとが たちどまって、じぶんたちのしごとを みていて くれると、マイクとメアリは、いよいよはやく じょうずに、ほることが できました。」とか、「メアリは 100にんのにんげんが 1しゅうかんかかって ほるくらい、1にちで ほってしまう」というフレーズも、要所要所で繰り返され、それが絵本のアクセントになっている。

しかも、絵と文章の文字が見事にシンクロしていて、「タイム・リミットもの」サスペンスを、否応もなく盛り上げます。ぼくは、すっかり『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』のファンになってしまいました(^^;) 
(2004 年 5月17日 記) つつく

●先週、名古屋のメルヘンハウスに行った際『満月をまって』(あすなろ書房)を見つけて買って帰ったのですが、この絵本を読みながら、バートンの「フォリーコーブ・デザイナーズ」のことを考えていました。アメリカという新しい国にも、ちゃんと伝統手工芸品はあり、古くても「いいもの」は必ず時代を超えて生き残るのだ、というバートンのすべての絵本の根底に流れる基本思想が、この「フォリーコーブ・デザイナーズ」という、地元の婦人たちを集めた「染め物の職人集団」の中にも脈々と流れていることを感じたからです。

バートンは絵本成作以上に、この「フォリーコーブ・デザイナーズ」に入れ込んでいたように思われれます。ただ彼女としては、単にデザインだけにこだわっていたのではなくて、フォークロアな染色手法にこそ重点を置いていたことが何よりも注目に値します。そんな彼女の「頑なさ」が、ますます好きになってしまいました。
(2004 年 6月06日 記)
  
『ヴァージニア・リー・バートン「ちいさいおうち」の作者の素顔』
 バーバラ・エルマン・著
 宮城正枝・訳
 (岩波書店)





























  
『マイク・マリガンとスチームショベル』
 バージニア・リー・バートン作絵
 石井桃子・訳
 (童話館)























『わゴムはどのくらいのびるかしら?』
マイク・サーラー文、ジェリー・ジョイナー絵、岸田衿子・訳

(ほるぷ出版)¥1200 (税別) 2000年 7月15日 改訂新版第1刷


「パパ's 絵本プロジェクト」の、安藤哲也さんに、伊那市立図書館での座談会の席で教えてもらったのが、この『わゴムはどのくらいのびるかしら?』です。

これはすっごく面白い! タイトルそのままの内容の絵本で、単純でありながら大胆。輪ゴムがいつ切れてしまうのか心配しつつ、どう決着をつけるのか皆目見当がつかない展開でしたよ(^^) しかも、瀬田貞二先生が『幼い子の文学』(中公新書)の最初で述べている「行きて帰りし物語」の基本パターンをしっかりと踏襲している。

それから、「絵」が雄弁に語っているのもうれしい。不思議な絵本『ズーム』イシュトバン・バンニャイ(翔泳社)と同じ手法で、どんどん絵がズームアウトしてゆくんです。ただし、左→右 の方向で。

最初の場面は、アップになった「ぼうや」。輪ゴムはまだ太い。イラストの線も太いね。それが、ページをめくるに従って、だんだん「ぼうや」が遠ざかって小さく細かく描かれていくのです。当然、輪ゴムも次第に細く長く描かれてゆきます。

そうしてラストシーン。よーく見ると、みんなそこにあるじゃん! バスも汽車もヨットも飛行機も、ラクダもロケットも、お月さんなんて、いっぱいある。しかも、表紙の見開きに、並んで描かれているよ! でも、正直に言うと、最初に読んだ時には気が付かなかったんだ。子どもといっしょに聞いていた女房が、「ここにみんなでてるよ!」って、ぼくに教えてくれたのでした。な〜んだってか(^^;;;

(2004 年 4月19日 記)

  
『わゴムはどのくらいのびるかしら?』
 マイク・サーラー文・ジェリー・ジョイナー絵
 岸田衿子・訳
 (ほるぷ出版)




























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●前回の「おすすめ」絵本 は……

『えほん北緯38度線』『なにたべてるの?』『アルファベット』『わにわにのおふろ』『自分が好きになっていく』『ライオンのよいいちにち』ほか

●前々回の「おすすめ」絵本 は……

『聖なる夜に』『地面の下のいきもの』『うみのむにゃむにゃ』『ザスーラ』『はっぴぃさん』『みなみのしまのプトゥ』『おまたせクッキー』ほか

●前々々回の「おすすめ」絵本 は……

『はくちょう』『視覚ミステリー絵本』『ダーナ』『コッコさんとあめふり』『こどもザイレン』『さるのせんせいとへびのかんごふさん』『中川ひろたかグラフィティ』ほか

●前々々々回の「おすすめ」絵本 は……

『狂人の太鼓』『ウエスト・ウイング』『スモウマン』『かようびのよる』『アフリカの森の日々』『はつてんじん』『世界昆虫記』『やまあらしぼうやのクリスマス』『絵本の作家たち(1)』『絵本を読んでみる』ほか

●前々々々々回の「おすすめ」絵本 は……

『冥途』『クレーン男』『とうだいのひまわり』『ナヌークの贈り物』『ねぎぼうずのあさたろう』『かちかちやま』ほか



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