しろくま
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北原こどもクリニック  



しろくま 不定期日記


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●「不定期日記」●

 今日も朝から東京           2009/05/31 

■今週も日曜日に会議で早朝から東京へ。行き帰りの「あずさ」で読んできたのが、『えんの松原』伊藤遊(福音館書店)。これは面白かった。新宿から総武線に乗り換えてからも、ストーリーに引き込まれて夢中で読んでいたら、会議は飯田橋だったのだが、気が付いたら乗り越して水道橋だった。帰りの「あずさ」でも眠らずに読み続け、富士見のあたりで読了した。しみじみよかった。大いに満足。『鬼の橋』と同様、読後感が何ともさわやかなのがいい。感想はまた後日。

会議は夕方5時過ぎまでかかり、いつもの銀座方面へは向かわずにおとなしく新宿へ。でも、せっかく上京したのだからと途中下車してディスクユニオン新宿ジャズ館へ。実は先週もここに寄って、メロディー・ガルドーの新譜と板橋文夫が 1996年に沖縄で録音したCD『お月さま』を、中古盤で購入した。ついでに、前から欲しかった森山威男クインテットの可児市ホールでのライヴDVDも見つけて買って帰った(可児市総合文化センター事務室でしか直接販売していないDVDなのだ)。最近また昔の「ジャズ熱」がぶり返しつつあるのです(^^;;

今日は、Enrico Pieranunzi(p) と、Jan Lundgren(p) のピアノトリオ盤に目を付けていたのだが、新品でも買おうと思っていたCDを思いがけず中古盤でゲットできて嬉しかったな。あと中古盤では、探していた『e.s.t. live in hamburg』と、ヴォーカルの、Jeanette Lindstrom、Solveig Slettahjell、Priscilla Paris、ブロッサム・ディアリー「Blossom Time at Ronnie Scott's」と、メロディ・ガルドーのデビュー盤を安く入手できたのがよかった。3週続けて東京に来た甲斐があったというものだ。

夕飯は駅弁にしようかとも思ったのだが、20時発の「スーパーあずさ」までにはもう少し間があったので、新宿中村屋でインドカリーを食べた(実は、先週も同じものを食べたのデス)。カレーは飽きないのだよ。それにここは、1人で入店しても不自然ではない。拒まれないのだ。1人でも居心地がいい。肩身が狭くない。実際、見渡すとけっこう独りで食べている人がいる。先週は、ジャズ喫茶「DIG」のオーナー、中平穂積氏が一人きりでぽつねんと居たのだが、その佇まいが何ともカッコよかった。新宿はいい街だね。

そして中村屋のカリーは旨い。本当にうまい。辛いもの好きのわが家の息子たちも大好きだ。今日は父ちゃんだけがおいしく食ってごめんね、許せよ!(^^;;;


 食に関するエッセイの「お手本」とは(その2)           2009/05/29 

■昨日書いてることは、なんだか矛盾だらけですね。嫌らしいだけだ。結局は読者に媚びてるんじゃん。

■先日、高遠町図書館の新刊コーナーで『大活字 私の食自慢・味自慢』全8巻/監修・嵐山光三郎(リブリオ出版)を見つけた。1巻ごとテーマ別に「すし」「てんぷら」「そば」「うどん」「カレーライス」「ラーメン」「丼/茶漬け」「おでん/鍋」で全8巻。フランス料理とか入れずに、B級グルメで統一した点がポイントか。しかも、ネット上には連日あきるほど登場する手垢の付いた食べ物ばかり。でも、それを文章としてどう料理するのか? 読んでみて、プロの書き手と素人ライターの違いを見せつけられたような気がしたな。

食のエッセイと言えば、池波正太郎だが、「すし」にも「そば」にも「カレーライス」にも、ちゃんと収録されている。立ち読みした「カレーライス」の巻には、前に渋谷百軒店「ムルギー」の話題 (2003/03/06)を書いた時に引用したエッセイが載っていた。取りあえず「すし」と「そば」の2冊を借りてきて読んでいるのだが、どれもこれも面白い! ちょうど、橋本徹氏のコンピレーションCDを聴いているみたいな心地よさだ。意外な選曲が光っているのだな。

例えば「すし」の巻だと、巻頭の「鮨」佐野洋子がめちゃくちゃいい。さらに続く「十八歳の寿司」白石公子がこれまた読ませる。最近読んだエッセイの中では、これがピカイチだ。この巻には他に、池部良、吉村昭、幸田文、内田百けん、石牟礼道子、小林秀雄、野坂昭如、志賀直哉、四方田犬彦、原田宗典、壇一雄、北大路魯山人などのエッセイが載っていて、まだ全部読んでないのだが、嵐山光三郎氏は流石に編集者として素晴らしい。

これが「そば」の巻になると、巻頭は「蕎麦の酒」青木玉。幸田文さんの娘じゃぁないか。面白いのは、2番目に載った「蕎麦屋の客人」小池昌代だ。詩人のエッセイは読ませる。吉村昭の「蕎麦を食べる」には、 コロッケそばの話がでてきて、柳家喬太郎の落語のまくらみたいだった。まさか、吉村昭と喬太郎さんの好みが一致するとは、意外であった。あと、宇野信夫「隣の蕎麦」色川武大「ソバはウドン粉に限る」神吉拓郎「蕎麦すきずき」がよかったな。さすがにみな文章が上手い。個人的には蕎麦は腹一杯食いたいので、椎名誠さんと、彼の本の雑誌社で「木原ひとみ」として修行した、群ようこ氏のエッセイを読んで、思わず「そうだ!そうだ!」と言ってしまった。椎名誠さんも、池波正太郎さんも書いている、上田の「刀屋」は是非一度行ってみたいぞ!

 食に関するエッセイの「お手本」とは           2009/05/28 

■個人のサイト・ブログを長続きさせるコツは、自分の書きたいことしか書かないことだと思う。言い換えれば「読者に媚びない」ということか。例えば、その日に起こった重大ニュースに関して、読者は「お気に入り」のブロガーが何てコメントしているか期待して見に来るワケだが、それを意識しだしたら絶対にブログは続かない。ブログを開設するにあたって、その読者を想定することは必要なことではあるのだが、得てして「その読者」に振り回される結果となって、結局は疲れてしまい、更新作業が苦痛になっていくのではないか。

かと言って、自分が言いたいことだけを独り善がりにただ意味なく垂れ流していただけでは、誰も見に来てはくれない。見に来てもらって、読んでもらって、あ、なるほど、読んでちょっと得したな、まだ誰も知らない新情報にありつけたかな、って思っていただく必要はあるのだ。そのあたりの塩梅がすごく難しい。最初の2行で、読者に「あるある! そうだよね!」と共感を呼んだ勢いで次の2行を読ませて「あれっ?」という展開に持ち込み、最後のセンテンスで「なるほど、それは気が付かなかったな。読んで得した」そう思っていただくのが、センスあるエッセイスト(ブロガー)の理想的なテクニックなのではないか。ぼくはそう思う。

■そんなふうに感じながら、このサイトを続けてきたワケだが、時々何となく空気が澱んでくる感じが判る時がある。独り善がりが先行して読者が置いてきぼりになる瞬間が確かにあるのだ。そういう時には決まって「食べ物の話題」を取り上げることにしている。そうすると、読者は「おっ?」と振り返ってくれるのだ。「味の話題」は、読者がイメージし易いのだな、きっと。文字で味を表現することは案外簡単だから。そのことは意外と知られていないのだけれど。文字で表現することが難しいのは、じつは「音」や「匂い」や「触覚」だ。そのことをものすごく意識して文章を書いている人がいる。それが菊地成孔氏で、彼の『スペインの宇宙食』を読んでいると、そのことをすっごく感じる。詳しくは後日 (つづく)

 最近読み終わった本、いま読んでいる本           2009/05/26 

『鬼の橋』伊藤遊(福音館書店) 5/22夜、読了。

『光車よ、まわれ!』が面白かったから、日本の児童文学をもっと読んでみようと思って手に取った本。昨年だったか、うちの長男が小学校の図書館司書の先生に薦められて読んでいて「おとうさん、この本、すごくいいよ!」と言ったのをチェックしておいたのだ。ファンタジーと言うよりも、端正な正統派ビルドゥングスロマンだな。

夏の終わりの雑草が茂る廃寺の場面に始まり、秋から冬を経て、春らんまんのシーンで終わる平安京の四季の移ろいを背景に、思春期の悩める小野篁少年が、孤児の少女・阿子那や、征夷大将軍坂上田村麻呂に片方の角をへし折られた鬼・非天丸といった実に魅力的なキャラクターに囲まれて徐々に変わって行く姿を見事に活写した成長物語だ。その中で、父親と母親それぞれの小野篁に対する接し方の変化と、それに対する小野篁の感じ方の変化を読んでみて、なかなかに深いものがあると感じた。中学生になった長男に対して、父親としてのぼくは、これからどう応対していったらよいのか? 後ろからただそっと見守るということか。難しいなあ。

この地味な表紙を見ただけなら、まず絶対に読まなかっただろうに、これは読んでよかった。「おとうさんね、『えんの松原』はもっといいよ!」息子にそう言われて、さっそく高遠町図書館から『えんの松原』を借りてきたところだ。これまた楽しみ。

■いま読んでいる本

・『スペインの宇宙食』菊地成孔(小学館文庫)
・『生きのびろ、ことば』小池昌代・林浩平・吉田文憲・編著(三省堂)
・『33個めの石』森岡正博(春秋社)


 天使幼稚園での内科健診           2009/05/22 

■行く保育園、幼稚園のクラスによって、ぜんぜん雰囲気が違ってくるのは何故だろう? 面白いな。今日の昼休みに行った天使幼稚園の子供たちは、水曜日に診た伊那保育園の子供たちと、また全く違っていたのだ。何なんだろう? この違い。いい悪いとかいう価値判断とは関係なく、でも違うのだ。不思議だね。

赤ちゃんの頃からずっと診てきた子が、年長組「アネモネ」さんだったりして、その成長ぶりにもビックリしたな。大人の思惑とは全く関係なく、子供はどんどん大きくなるのだ。その年長組「アネモネ」で、高橋園長先生にお願いして絵本を読んだ。

1)『ふしぎなナイフ』 中村牧江/林健造さく、福田隆義え(福音館書店)
2)『いそっぷのおはなし』 降矢なな・絵、木坂涼・再話(グランまま社)
3)『おべんとう』 小西英子さく(こどものとも年少版 2009.4 福音館書店)
4)『できるかな? あたまからつまさきまで』 エリック・カール・作、工藤直子・訳(偕成社)
5)『かあさんになった あーちゃん』 ねじめ正一・作、長野ヒデ子・絵(偕成社)
6)『ひみつのカレーライス』 井上荒野・作、田中清代・絵(アリス館)

■夜は高遠へ。校医をしている伊那東小学校の心電図健診結果を、GW前に養護の岡先生から受け取っていたのに、忙しさにかまけて、あれから3週間が過ぎたというのに未だチェック作業に入っていない。ごめんなさい。今日の夜から一気に終了する予定だったのだが、結局今夜も作業はできず。日曜日は、あずさ4号に乗ってまた東京へ行かなければならないので、土曜日には何とかいたします。約束します。

 今週のいろいろ           2009/05/21 

■5月19日(火)よる7時から「だるま」で伊那市医師会拡大幹事会。新型インフルエンザ対策と、決算案・予算案に関して話し合う。夜11時前に帰宅。中日は西武に負けていた。スクイズ失敗ダメじゃん、荒木よ!

■5月20日(水)午後2時から、伊那保育園の内科健診。昨年まで園医をされていた井上先生から園医を引き継ぐことになったのだ。伊那保育園は、長野県下屈指の古い歴史を誇る老舗の私立保育園だ。なにせ開設が昭和12年!なのだから凄いね。人数が少なかったから30分で健診は終わってしまい、副園長先生にお願いして3時まで絵本を読ませてもらった。未満児さんから5歳児まで一同が遊戯室に集まってくれた。みんないい子だったね(^^) 反応抜群だったよ、ありがとね! 読んだ絵本は以下のとおり。いっぱい読んだな!

1)『てんとうむし ぱっ』 文・中川ひろたか、写真・奥田高文(ブロンズ新社)
2)『かんかんかん』 のむらさやか・文、塩田正幸・写真(福音館書店)
3)『いそっぷのおはなし』 降矢なな・絵、木坂涼・再話(グランまま社)
4)『どうぶつしりとりえほん』 薮内正幸・作(岩崎書店)
5)『ぐやんよやん』 長谷川摂子・文、ながさわまさこ・絵(福音館書店)
6)『ぷるぷるたまちゃん』 アランジアロンゾ・作(ベネッセ)
7)『ひみつのカレーライス』 井上荒野・作、田中清代・絵(アリス館)
8)『スウイング!』 ルーファス・バトラー・セダー作(大日本絵画)

■5月21日(木)今日の木曜日は珍しく午後も閑だった。最後の患者さんを午後6時25分に診てから早めの夕食を取り、それから車で伊那中央病院へ。今日は小児一次救急の当番だったのだ。よる7時ぎりぎりに到着すると、救急部の事務当直の人は「あれ?」っという顔をした。救急部には、今日の小児科当番として研修医の下島先生が既に待機していたのだ。そう言えば先日、伊那中央病院小児科部長の藪原先生から新型インフルエンザ対策に関して電話を頂いた際に、「木曜日の救急当番は時間に間に合わないから、他の日と変えて欲しい」そうお願いしてあった。藪原先生はちゃんと憶えていてくれたのだな。でも、今日は閑で間に合ったから、せっかく来たので「ぼくやります」と言って、下島先生にはお帰り願った。勝手ばかり言ってごめんなさい。

でも、今日の救急部は何だかずっとバタバタしていて忙しかったな。結局、午後10時まで延長戦で7人診た。フルはゼロ。よかった。発熱と胃腸炎の子が多かったか。フルもいたかもしれないが、発熱から2〜3時間しか経っていない子ばかりだったので、迅速検査はキットが勿体ないから結局1人(2日前から発熱している2歳女の子、結局違った)しかやらなかった。その訳を親御さんによーく話した。B型インフルエンザだと、発熱12時間でもまだ陰性のことがあるのだ。ましてや発熱数時間ではまず出ない。

新型インフルエンザだって、発熱数時間では迅速検査でも陰性にでる可能性が高い。一晩くらい寝かせて、しっかり熟成させてから検査したほうが確実なのです。焦る必要はありません。そう話した。

 先週のいろいろ           2009/05/18 

■5月13日(水)南箕輪村4カ月健診+BCG接種が終了後、午後3時半から当院診察室(水曜日の午後は休診)で伊那ケーブルテレビの収録。「医師会健康アドバイス」という自社製作の15分番組で「見直そうメディア漬け子育て」というタイトルで話をさせてもらった。カット割りはあるが、撮り直しなしの一発撮り。いつものパワーポイントも使わず、15分間ひたすら喋ったが、はたして仕上がりは如何なものか。すごく心配。放送は、今週水曜日午後7時、木曜日午前7時(その他にも再放送あり)とのことです。

■5月16日(土)よる7時〜9時半、伊那中央病院小児科一次救急当番。4人診て終了。帰宅後BS2で予約録画しておいた「決戦!落語家サバイバル“マクラ”を競う 三遊亭兼好、三遊亭白鳥、春風亭百栄、林家木久蔵、林家彦いち、柳家喬太郎 」を見る。NHKテレビで「こういう企画もの」が見られるとは、本当に落語ブームなんだねぇ。なかなか鋭い人選だし、面白かったな。噂の三遊亭兼好さんは是非一度ナマで聴いてみたいぞ。この人は上手いな。圓楽党の人だから、田舎住まいにはなかなかその機会はないが。意外と面白かったのは林家木久蔵さん。この人には天然のフラがあるね。

■5月17日(日)午前1時過ぎまで録画番組を見ていたのだが、朝5時起きしてJR茅野駅まで車で行き、6時35分発の「あずさ2号」に乗って東京へ。さすがに眠い。慈恵医大で日本外来小児科学会の「ワークショップ研修会」があるのだ。新橋から歩いても、午前10時開始には十分間に合う予定だったのだが、慈恵医大に着いてから会場の1号館が見つからず、15分くらい迷ってすっかり遅刻してしまった。北は北海道や青森県弘前市から、南は九州鹿児島まで全国から50人近い参加者がいた。皆さんすごく熱心で驚いたな。

午後4時に終了し、神谷町駅から日比谷線で銀座へ。教文館、山野楽器と廻ってから新宿へ。新南口で途中下車して、紀伊國屋書店と高島屋の地下で買い物。夜7時発のあずさ自由席に乗る。夕食は高島屋で買った、まい泉のロースカツ弁当。帰りの中央道は土砂降りの雨。夜10時半帰宅。さすがに疲れた。

 『いそっぷのおはなし』 降矢なな・絵、木坂涼・再話(グランまま社)   2009/05/16 

■GW前に、田中尚人さんからグランまま社の新刊『いそっぷのおはなし』を頂戴した。ご紹介するのがすっかり遅くなってしまってごめんなさい。

田中尚人さんには、もうずいぶんと前から「イソップの絵本を、降矢ななさんと作っている」という話は聞いていた。そうか3年越しの労作だったのだね。妥協を許さないその力の入り様は「こちら」を読んでいただくと、なるほどそうか! とよくわかる。原画展もぜひ見に行きたいぞ。

■それにしても、この絵本で驚いたのは、ふつーの厚さの絵本なのに、イソップの話が「9話」も収録されていることだ。扉も入れて36ページしかないのに、なんという欲張り。一話あたり4ページで完結。「ありときりぎりす」なんて、見開き2ページでお終いだ。いきなし「ふゆが やってきました。」で始まる。なんという大胆さ! テキストを削りに削って、何度も推敲を重ねたんだろうな。たまげたね。

たまげたと言えば、降矢ななさんの勝負を賭けた渾身の絵にも驚いた。まいどおなじみの「きつね」の絵は予想どおりなのだが、黒のエッチング版画のような、黒いベースをガリ版の鉄筆のようなもので削って(スクラッチして)描いた絵が、ものすごい迫力でもって読者に迫ってくるのだ。「よくばりないぬ」の。「オオカミ少年」の。ページをめくると「あっ!」と驚くよ、きっと。

でも、ぼくが好きな絵はそれじゃぁない。例えば「よくばりないぬ」で言えば、4ページ目。赤塚不二夫のマンガに登場するあの、逆立ちで電信柱にオシッコする犬のような、脱力しきった情けない顔がたまらなく愛しいのだ(^^;; さらに「この犬」は、なんとラストの「きたかぜとたいよう」に、もっと情けない顔をさらしてゲスト出演している。うれしいねぇ。ところで、この見開き2ページに本来いるべき主人公の「旅人」は何処へ行ってしまったのかな? って心配しながらページをめくると、あ、いたいた(^^;) こういう、なんともゆるーい脱力加減が「この絵本」の一番の魅力だと思うな。

これは、久々にいい絵本だ。お世辞ではなくて、自信をもってオススメいたします。

 『光車よ、まわれ!』天沢退二郎(ピュアフル文庫)その3        2009/05/14 

■この本には、他にも印象的なシーンがいっぱいある。第1章「怪異(あやかし)のはじまり」の冒頭場面。国会図書館の「夜間閲覧室」で、古文書に描かれた「光車」を皆でのぞき込むシーン。それから「さかさまの国」を一郎とルミが脱出しようとする場面。ちょっと引用する。
「こっちだわ。」
 ルミがゆびさした。
 見ると、左へ行くかどに、大きな赤い矢じるしが、上の方からぶらさがっている。
「さっきもあったのよ、たしかにここでまがるのよ。」
 うすあかるい乳色の空にうきあがったその矢じるしの赤い色は、じつにぶきみな感じがした。まるで生きもののようだ。近づいてよく見ると、その矢じるしはこまかい赤いつぶつぶでできていて、そのひとつぶひとつぶが、小さな小さな魚のように、うごめきながら矢じるしの向きへ流れているのだ。(p129)
■あと、廃墟となった工場の櫓に作られた秘密基地や不思議な地霊文字。学級委員の吉川トオルと中島みゆき!(p146)。彼らが通う小学校の名前は、流山寺小学校(「流山児★事務所」から取った?)。それからそれから「マロアカジ」。三浦しをんさんの解説を読んで「マロアカジ」って何のこと? アロマテラピーの一種? なんて思ったが、そうか、麿赤児ね。大駱駝艦の。この「水上音楽堂」のシーンも好きだ。不思議な静けさが漂う中に「どろどろどろろん」と打楽器の音がして舞台の幕があく。この場面の後、ルミのボートはトンネルの中の地下の川へ入り込んでいき、まんまるな鏡の大天井のホールに行き着く。この場面の司修氏のイラスト(ブッキング版)がもの凄く不気味だ。

子供らが戦う敵は、異界の「水の魔物たち」だけではなく、現実世界では緑の制服を着た一群や、子供たちの知り合いだったりして、誰が正義で誰が悪者なのか訳分からなくなるところが、これまた不条理に満ちていて怖ろしい。いずれにしても、海外のファンタジー小説のイメージからずいぶんかけ離れているような気がしたのだ。つまり、「異界」と「日常の現実」とが地続きで連続していて、日常のあちこちに平気で異界が顔を出し、次第に現実世界を浸食してゆくところが、読んでいて、なんとも落ちつかない不安な気分になるのだな。

■信濃毎日新聞の月曜日の朝刊には、毎週、小山鉄郎・共同通信編集委員による「風の歌 村上春樹の物語世界」という連載記事が載っている。今週はその49回で、こんなことが書いてあった。
 「いまの世界が経験していることは何かというと、再編成ですよね」。「海辺のカフカ」でインタビューした際、村上春樹さんはそう語った。(中略)
 世界はいま混沌にのみ込まれ、これまでとは違う座標軸でとらえ直さなくてはならない時代だ。混乱の中、予期せぬ大事件が続発。世界が未体験の危機感の中にある。だから世界体制や経済の再編成が求められている。「当然、文学というものも再編成されていかざるを得ない」とうのだ。

 「そこで何が有効になってくるかというと、物語性なんです」と村上さんは語った。その村上文学の特徴は何か。
 西洋文化はキリスト教と古代ギリシャが二大源流だが、そのことを村上さんは述べた後、この古代ギリシャの世界における日常世界と異界との関係について「日本との違いは二つの世界がかなりはっきり隔てられているんですね。日本の場合は自然にすっと、こっち行ったりあっち行ったり、場合によって通り抜けができる」と語っていた。(中略)

 混乱し目指す方向も定まらないまま、次の予測も不可能な世界。それは未知の異界の出現そのものだ。その流動性の中で日本人は異界に自由に出入りしながら、それと折り合い、関係性をひらいていく力をどこかに持っているのではないか。そんな日本的な特性を持つ物語で村上さんは世界の文学の再編成に寄与しようとしているのだろう。(後略)「信濃毎日新聞朝刊 2009/05/11付(共同通信配信)」
■この村上春樹さんのはなしは、『光車よ、まわれ!』を読み解くヒントになるような気がする。

 『光車よ、まわれ!』天沢退二郎(ピュアフル文庫)その2        2009/05/13 

■『光車よ、まわれ!』は、1973年に詩人・天沢退二郎によって書かれた国産ファンタジーだ。ぼくは天沢退二郎編纂の新潮文庫版『新編・宮沢賢治詩集』を持っているが、このような児童文学を書く人だったとは、恥ずかしながらこの本を読むまでぜんぜん知らなかった。続く「オレンジ党シリーズ」も見つけて読んでみなくては。

それにしても、39年も前に書かれた本だというのに、読んでみてちっとも古臭くないことに驚いた。いや、今こういう時代だからこそ、逆にいまの子供たちに読まれるべき小説なのかもしれない。高遠町図書館に、ブッキングから復刊されたハードカバー本があったので借りてきたが、このオリジナル本の司修氏のイラストは鮮烈だ。表紙カバーに描かれた「光車」のイメージ。そして、旧下水溝を、ルミのモーターボートが一郎と龍子を乗せた「いかだ」を引っ張って「チャグチャグチャグ」とさかのぼる場面のイラスト。文章では「こう」なっている(以下引用)
 黒ずんだうら側を見せている木造の家々のならびがそこだけとぎれて、草のぼやぼや生えた土地に、へんになまっちろい黄緑色の葉をつけた木が何十本も生えている。その木立が近づいてきたとき、一郎は、その木の枝々にたくさんの目玉があって、こっちをまじまじと見つめているのに気づいたのだ。
 木がたくさんの目玉をもっているのか、それとも、たくさんの生きものが木の枝にびっしりとまってこっちを見ているのか。
「あ、あれ!」
 息をのんでゆびさそうとしたとたん、ほんのかすかな風が、さやさやさやっとわたったと思ったら、もうまぢかにせまったその木立の、目玉のむれが、ザラランバラランといっせいに下へこぼれおちた。(中略)

 どぶ川のへりの草地の上を、白いへびのようなものが、うねりながらぐいっと鎌首をもちあげてまたふせるのを見た(中略) いや、それは、へびではなくて、水なのだ!
 いつのまにか、地面の上にしみわたった水は、とても水とはおもえない、ゆっくりしたうごきで、へびのような波がしらをたてながら、ゆっくりと、ぬるぬるずるずるとこのどぶ川へもすべりこんでくるのだった。(文庫版 p244)
何という不気味なイメージ。読みながら強烈な画像が否応もなく目に浮かぶような文章ではないか。大げさかもしれないが、一度目に浮かんだら、たぶん一生目に焼き付いて忘れることができないイメージになってしまうようなビジュアル喚起力が、この文章にはある。(つづく)

 『みずたまのチワワ』と、『光車よ、まわれ!』        2009/05/09 

■GWをはさんで更新が怠っていたのにはワケがある。ひとつは、長野県小児科医会報の「編集後記」として、新型インフルエンザ対策に関して私見を 2200字、うんうん悩みながら書いていたためで、もうひとつは、近ごろ話題の書『ウェヴはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』中川淳一郎(光文社新書)を読んでいたので、モチベーションが下がってしまったのだ。ほんと、そのとおりだよなぁ。世の中、バカと暇人が多すぎる。もちろんおいらも、バカで暇人の代表選手だ(^^;;

長野県小児科医会報の「編集後記」は、なかなかの力作に仕上がったので、それをそのまま「ここ」に転載しようかとも思ったのだが、長野県の小児科医に向けて書いた文章だから、一般の方々が読むと誤解を生じる怖れがあるので、アップするのは止めにした。ごめんなさい。

■5月6日、連休最終日は土砂降りの雨だった。ぼくは『光車よ、まわれ!』天沢退二郎(ピュアフル文庫)の第9章を読んでいた。ちょうど、この文庫の表紙のイラスト場面くらいか。この本は噂に違わぬ傑作だった。じつに面白い。でも怖い。雨の日にこそ読むべき本には違いない。読みながら、いろんな本や映画、テレビドラマが思い浮かんだ。一番は、宮崎駿だ。スタジオ・ジブリの次回作は、『光車よ、まわれ!』にすればいいのに。是非見たいぞ。

8頁で登場する「黒いぬめぬめ」のばけものは、『千と千尋の神隠し』の「かおなし」をイメージさせる。「黒い丸顔の小人」は、『となりのトトロ』の真っ黒くろすけか、『もののけ姫』の森に登場する生霊か。水たまりの水面に映る、生き物ののような「水」のイメージは、『崖の上のポニョ』の津波のシーンだ。

それから、『きのうの世界』恩田陸(講談社)にも出てきた、1960年代のイギリス製テレビ・ドラマ『プリズナー No.6』も思い出した。彼が目覚めた「村」は、現実世界から地続き(海続き)のはずなのに、誰を信用してよくて、誰がスパイなのか、その見極めが困難極まりない。その何とも言えない不安と恐怖。あと、思い出したのが『みずたまのチワワ』井上荒野さく、田中清代え(こどものとも年中版/ 1997/8/1・通巻137)。田中清代さん、彼女はいい! 先だって、小児科学会の帰りに立ち寄った名古屋のメルヘンハウスで買った、同じコンビの新作『ひみつのカレーライス』井上荒野・作、田中清代・絵(アリス館)もすごく楽しい。要注目の作家さんだな。

『みずたまのチワワ』は、じつに不気味な絵本だ。だって、チワワが本当に「水玉模様」なんだよ。外は雨降り。水たまりに映る不思議なチワワ。異世界から迷い込んできたチワワを追いかけて行くと…… 大人が読んでも、これはなかなか怖いぞ。『光車よ、まわれ!』の怖さは、「この怖さ」といっしょだと思ったんだ。(つづく)

 「UP ON THE ROOF」        2009/05/02 

■月末のレセプト・チェックは、夜遅く一人診察室でやっているのだが、音がないと寂しいので、ラジカセに iPod Hi-Fi をつないで大音量でCDを聴きながらの作業となる。ちなみに、この日かけたCDは以下のとおり。

1)「You've Got A Friend / the best of James Taylor」 James Taylor (Warner Bros.)
2)「The Best of Carol King」 Carol King (EPIC 850)
3)「SWEET BLOSSOM DEARIE」 Blossom Dearie (PHILIPS)
4)「カリスマ」リー・モーガン (Blue Note 4312)
5)「REACHING OUT」 Dave Bailey Quintet (JAZZTIME)
6)「South. "Yasuda Minami Live at The ROB-ROY"」安田南+山本剛トリオ (BRIDGE 099)


■1)と2)は、JTとキャロル・キングのベスト盤で、それぞれのCD18曲目に入っているのが、「UP ON THE ROOF」だ。1963年の、ジェリー・ゴフィン&キャロル・キングの共作曲。同じコンビの「Will You Love Me Tomorrow?」も名曲だが、この曲もじつにいいなぁ。

When this old world starts getting me down
And people are just too much for me to face
I climb way up to the top of the stairs

■YouTube で、キャロル・キングのヴァージョン と ジェイムス・テイラーのヴァージョンが、それぞれ聴けます。他にもいろいろあるな。

■この曲を聴くと、稲川方人さんの詩「西武線練馬映画劇場のおばあさんへ アミの手紙 古賀忠昭のために」が思い浮かぶ。

西武線練馬映画劇場のおばあさん
商店街の看板はきょうも倒れていますか?
西武線練馬映画劇場のおばあさん
西武線練馬映画劇場の屋根は
今日も雨にぬれているのでしょうね
西武線練馬映画劇場のおばあさん
あの上にのぼりたいと
きょうも思っているのでしょうね
西武線練馬映画劇場のおばあさん
いいひとはみんな
屋根の上のほうにいると私も思います
お元気で
西武線練馬映画劇場のおばあさん
お元気で
屋根の上のほうにいる
いいひとみんな
 

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